アマチュアナインボール最高峰の
一戦、『球聖戦』ももうすぐ大詰め。
長いトーナメントを経て、
東日本代表になった中野雅之は、
同じく西日本代表に決まった
広島の実力者、大坪和史と、
『挑戦者決定戦』で激突する
(2014年4月5日)。
勝った方が、その翌日(4月6日)に
現球聖の喜島安広と雌雄を決することになる。
大会1週間前、限れられた時間の中で
最大限の調整を進めている中野に、
大会前の心境や普段のビリヤードへの
取り組み方などを聞いた。
写真・文:B.D.
…………
Masayuki Nakano
1984年2月24日生(※取材時・30歳)
宮城県出身・埼玉県在住
ビリヤード歴は約15年
2007年よりTPA所属
(東京ポケットビリヤード連盟)
2005年
『全日本アマチュアポケットビリヤード選手権』優勝
2013年
『全日本アマチュアナインボール選手権』優勝
他、優勝・上位入賞多数
使用キューはAdam Musashi
――改めて東日本A級戦を振り返ると?
「調子自体はベストではなかったですが、気持ちを切らさないように撞き続けた結果が優勝に繋がったと思います。むしろ調子が良くなかったから丁寧に撞けたのかもしれません」
――球聖戦には毎年挑戦しているんですか? 最高成績は?
「ほぼ毎年出ています。今までの最高成績はA級戦のベスト8ぐらいだったと思います」
――いよいよ『挑戦者決定戦』が今週末(4/5)に迫ってきました。西日本の代表は大坪和史選手に決まりましたね。
「まさに相手にとって不足なしと言いますか、自分はチャレンジャー精神で向かって行くだけですね」
――今まで大坪選手と対戦したことは?
「以前に一度『マスターズ』で(※2008年大会の敗者4回戦)。その時は自分が勝ちました」
――大坪選手の印象は?
「優れたテクニックの持ち主で、手球の精度が素晴らしいです。間違いなく僕より上手いショットが何度も出てくると思うので(笑)、そこに引き込まれないようにしたいです」
――大坪選手に勝てば、翌日は喜島安広球聖との『球聖位決定戦』です。
「やっぱり撞きたいですね、喜島くんと。ただ、大坪さんだからこう戦うとか、喜島くんくんだからこうする、というのはないです。イメージはしていますよ、この2人に勝つために自分がどうあるべきかというのは。でも、特段、戦い方を考えることはないですね。誰と戦うとしても自分のスタイルを貫くだけ。自分が良い球を撞き続けるしかないですよね。それが良い方に転がって勝てれば良いなと」
――喜島選手はどんな選手だと思いますか?
「技術ももちろん高いですが、やっぱり勢いがある選手。ブレイクショットからマスワリの連発みたいな姿がすぐイメージできます。大坪さんと喜島くんは『静と動』という気がします。タイプが正反対というか」
――中野選手はどこに位置している?
「2人の中間かな。……というより、技術がないので気持ちで戦ってます(笑)。仮に僕が球聖になれたとして、歴代の球聖の中で一番下手なんじゃないかと思います。でも、下手なりにベストを尽くします。自分の最大限の力が出せないのは悔しいですから」
――喜島球聖とは以前から親交があるようですね。
「ジュニア時代からの縁ですね。2001年の『JOCジュニアオリンピックカップ』の決勝戦で当たってるんですよ(※中野優勝)。それで、一緒に『世界ジュニア』にも出ました(※この年の世界ジュニアは尼崎で開催)」
――そうだったんですね。
「先日も喜島くんのいる『5&9』(本番の試合会場。埼玉県所沢市)に行って、彼と話をしたり、ビリヤードをしたり。あ、彼とは撞いてないですよ(笑)。ちょうど西日本A級戦の日だったので、2人でUSTREAMを観たりしてました」
――本番を1週間後に控えた今、緊張感は?
「緊張はしますね。今回はTPAのメンバーが応援に来てくれますし、家族も観に来てくれるので。子供2人はまだちっちゃいので迷惑にならない程度に会場にいます(笑)。あと、実家から父も観に来ます。親孝行になれば良いなと思ってます」
――頼もしい応援団ですね。
「子供には父ちゃんの背中を見せつつ、父には息子の晴れ舞台を見せようかと(笑)。球聖戦は長丁場ですし、精神的に挫けそうになる時間帯が必ずあると思うんです。そういう時に応援を受け止めて諦めずに戦えたらと思っています」
――今はどんな調整を?
「一人で撞くこともありますし、近隣に撞ける方が結構いるので、相手をしてもらう時もあります」
――中野選手は一般企業にお勤めで家庭もある。となると時間の捻出が大変そうですね。
「そうですね。奥さんと子供には感謝しています。大きな試合があればどうしても土日は試合で家を空けることになりますし、今回のようにタイトルがかかった状況だと練習に行く回数や時間も増えますから。球聖戦が終わったら、また家族の時間をちゃんと持ちます」
――具体的に今はどのぐらい練習しているんですか?
「ほぼ毎日3時間以上です。仕事が終わってから寝る間を惜しんでという感じで。この先、いつまたこんな大きなチャンスがあるかわからないじゃないですか。なので、悔いが残らないようにやらせてもらってます」
――普段だともう少し練習回数が少ないんですね?
「普段は週2回~3回かな。ただ僕は、『1時間でも良いからちょっと転がして……』という風にはできないタイプで(笑)。行ったら3時間以上はやりたい。もちろん仕事と家庭に悪い影響が出ないように、メリハリを付けてやっています」
――職場の人達も、中野選手がビリヤードをやることは知っている?
「はい、知ってますし、大きな試合の前後に休みを取りやすいようにしてくれたりと、理解があります。自分は恵まれていると感じます。職場の仲間や上司にも感謝しています」
――社会人選手の星ですね。
「まず仕事と家庭を優先して、それからビリヤード。この順番は忘れずにやり続けていきます。僕は学生時代からビリヤードをやっていて、でも、社会人1年目とかはやっぱり仕事が大事なので『両立は厳しいなぁ』と感じたし、実際ちょっと離れかけていたんですよ」
――中野選手にもそういう時期が。
「はい。でも、競技の世界に戻って来られた。きっと僕みたいに思い悩んでる人とか、これから就職してそんな状況に直面する人もいるんじゃないかなと思ってます。そういう人に、『中野ができるなら自分もできる』と思ってもらえたら嬉しいですね」
――昨年は久しぶりに全国タイトルも獲りましたし、今回も球聖戦でA級戦を突破。社会人選手でも結果を残せるということですね。
「大げさになっちゃいますけど、同じような境遇の方に勇気を与えられるような存在になれたら良いですよね。それと、ここのところ結果が上がってきているのは、『GPE』(グランプリイースト)などプロの試合に挑戦するようになったからかもしれません」
――そうでしたか。
「今までは『フィールドが違う』と思っていたけど、『腕を上げるために』と思って出てみたら、すごく勉強になることばかりでした。それが今の結果に繋がっているのかなと思います」
――ありがとうございました。挑戦者決定戦での健闘を期待しています。
「はい。ありがとうございます」