2016年。プロ11年目。
土方隼斗は開幕戦の『関西オープン』で
3度目の優勝を飾った。
大井直幸との初の
"同期対決ファイナル"を制して。
プレーの安定度や入れの堅さが
さらに上がっていることを
印象付けたファイナルだった。
持ち前の勝負強さに磨きがかかっている。
聞けば、年明けすぐの
『チャイニーズ8ボールマスターズ』遠征が、
もたらしたものは大きいと言う。
試合の翌日に話を聞いた。
写真協力:Akira Takata、On the hill !
…………
Hayato Hijikata
JPBA40期生
1989年3月16日生 東京都出身&在住
アマ時代の2005年に『世界ジュニア』銀メダル
2013年『ジャパンオープン』優勝
2013年、2014年、2016年『関西オープン』3勝
2013年『東海グランプリ』優勝
2005年&2013年『関東オープン』優勝
2007年『ルカシージュニアワールドテンボール』優勝
2008年『北海道オープン』優勝
2010年『エイトボールオープン』優勝
『GPE』通算13勝、他、入賞多数
2013年JPBA男子年間ランキング1位
――優勝からひと晩経った今のお気持ちは?
「一度寝たからなのか、少し嬉しさが減りましたが(笑)、2年ぶりのオープン戦優勝はやっぱり嬉しいですね。試合直後はあまり実感もなく、ただ『疲れたなぁ』と思ってただけですが、帰りの新幹線で嬉しさがこみ上げてきて、余韻にひたりながら『なんで勝てたのか』を考えてました」
――結論は?
「年明けすぐに出た『チャイニーズ8ボールマスターズ』(中国)。あれが結構大きいですね。入れ(シュート)のイメージがずっと良かったですし」
――それは聞きたいテーマでしたので、後でまたうかがいますね。関西オープンはこれで3勝目でした。
「相性、良いです。3度ファイナルに行って3度勝ててますから。相手がA・パグラヤン、R・ガレゴ、そして大井さん(大井直幸)。強い人ばかりですが、大会との相性が良くて、運勢も向いてたんだと思います」
――2日間、よく撞けましたか?
「全体的な内容は悪くなかったです。竹中さん(竹中寛)との試合(ベスト8)の前半は気持ちが入りすぎてメンタルコントロールができてなかった時間がありましたが、乱れたなというのはそのぐらいです」
――準決勝は中盤で稲川雄一プロに逆転されましたが、ヒルヒルマッチをものにしました。
「稲川さんには素晴らしいジャンプを2回決められたり、ミスの少ないプレーできっちり取り切られたりで展開を作られました。こちらにとっては厳しい流れで、『やばい』と思いつつプレーしてました。最後の取り切りは緊張感がありましたね」
――続く決勝戦(vs大井直幸)はスタートダッシュに成功。
「1ラック目、ツキがありました。僕がミスった球が隠れたり、大井さんが空クッションでファウルしたり。そこから僕が取り切ってマスワリ4連発になったので、あの1ラック目はだいぶ大きかったです」
――ブレイクも決まってましたね。
「大会を通じてブレイクそのもののはかなりイメージ通り打ててました。ただ準決勝はどうもラックが上手くいってなくて配置がキツかった。なので、決勝戦はラックの立て方を変えてみたんですが、運良く『これかな』っていうのを見付けることができたので、良い配置を多く撞けました」
――関西オープン初優勝の時(2013年)も、大井プロ戦(ベスト8)は序盤から走ってましたね。
「大井さんに勝つ時はこういう展開が多いですね。2013年の時もマスワリが多かったと思います。というか、こっちがイケイケにならないと勝たせてくれない人ですからね(笑)。今回の課題と言えば、第6ゲームで2番を入れてスクラッチしたこと。同じようなミスを大会中にしてるし、サイクロップボールにまだ対応できてないのかなぁと。そこは要練習です」
――大井プロと決勝で当たるのは初めて。そもそも同期(JPBA40期生)と決勝で当たったのも初めてですね。
「はい、11年目にして初(笑)。決勝戦の時、2人でそんな話をしました。『これ、初めて?』って」
――『ファイナルで当たりたい』と以前も言ってました。
「そうですね。全国オープン戦の決勝戦で大井さんと当たるって楽しそうじゃないですか(笑)。勝ち負けということで言うと、それは今一番強い人ですから苦しい試合になると思いますが、今までそれほど対戦してないし、楽しみな気持ちが大きかったですね。そんな心理状況だったから、ああいう展開になったのかもしれない」
――「倒してやる!」という気持ちは?
「それもありました。同期だけど僕の少し上を行っている感じがあるので(笑)、その意味では倒したかった。いや、これまでの実績や力関係どうこうは関係なく、直接対決で勝ちたかった。今回の嬉しさの中には、『決勝戦で大井さんに勝ったから』という部分はありますよ。ここのところ、『大井が日本で一番』っていう空気があるじゃないですか。今回も大井さんが勝ってたら『やっぱり』ってなったでしょうし。そこで、今回の結果やこれからを見てもらって、『喰らいついていけるのは隼斗だな』って思ってもらえたら嬉しいですよね」
――チャイニーズ8ボールマスターズに一緒に行った戦友でもありますね。
「いやぁ、一緒に遠征した人とファイナルで当たれるのは素直に嬉しいです。海外に行くとよく思うことなんですが、一緒に行っていた人との間にいい流れみたいなものが生まれるということがよくあるんです。昨秋(ワールドカップオブプール→北陸オープン)の大井さんとクリさん(栗林達)がそうだったように。今回もそんな感じですね」
――そのチャイニーズ8ボールマスターズ、どうでしたか?
「個人的に一番好きなフォーマットで、すごく納得行く試合でした。13ゲーム先取というロングゲーム。タイムルールあり。レフェリー2人。その上ああいうゲーム性だから、『展開が』とか『運が』とか言い訳ができません。負ける時は自分のミスが敗因なんです。特に今の僕のレベルだと、1試合で反省点が1つ2つじゃなくて、4つも5つもある。足りてないから負ける……当然のことがなんか楽しいなと思って(笑)」
――裏を返せば練習しがいがある?
「ですね。課題がどんどん見つかり、それを克服できれば勝つ可能性が上がる……かもしれない。そういう意味では練習量が反映されやすいし、強い人が勝つゲームだなと思いました。中国の楊帆(ヤン・ファン)が2連覇しましたけど、それは単純に彼が一番強いからだと言えます」
――隼斗プロ自身は、チャイニーズ8でまだまだ伸びていけると思いますか?
「もうちょっと上で戦えるだろうなというところまでは見えてます。楊帆を含む中国のトップレベル相手だと正直まだ全然勝ち目は見えませんが、その辺と良いレベルで戦ってるようなクラスの人とだったら、いい勝負を演じられると思ってます。やっぱり勝負どころの技術で差が付くんですが、ある程度は練習と経験でカバーできるんじゃないかというのが僕の考えです。まだまだそこまでも行ってないですけど、ポジティブに考えようかなと(笑)。勝負どころだと技術というよりメンタルの領域かもしれないですが」
――隼斗プロ、向いてるんじゃないかと思うんです。
「そう、僕も向いてる気がしてます。大井プロとも喋ったんですけど、性格的に僕は向いてるだろうと。チャイニーズ8はリズムで撞くってことはできなくて、一つ一つ丁寧にやってかないといけない。ポケットで言うなら、フィリピンスタイルじゃなくてヨーロピアンスタイルを持っている人が合うんじゃないかなと……勝手に思ってるんです(笑)」
――チャイニーズ8はポケットビリヤードに良い影響がありますか?
「今回はかなりありました。中国遠征から戻って関西オープンまでの間は一度も撞いてないんですが、こっち(ポケットビリヤード)のシュートに対する考え方が変わりました。球の入り方がより良くなったし、チャイニーズ8で当たり前に入れてるプレイヤーと自分を比べるようになって、『こんな球、飛ばしてられない』みたいなメンタルになってたんですよ。入れに対する意欲が増してきたと言うのかな」
――ポケットテーブルで球を入れるのが楽に感じられるんですか?
「チャイニーズ8のテーブルでも、ちゃんと狙えば外れるとしてもすぐ近くには行くので、『ポケットテーブルなら穴に近付けられれば入る』みたいな感覚がありますね。今回も『外れそう』と思う球ではそういう風に考えようと。実際にそれでプレッシャーが軽減されて撞きやすくなった球がありました」
――逆にポケットビリヤードに応用できないものはありますか?
「テーブルが違うのでチャイニーズ8の技術が丸々使える訳じゃないです。クッションの出方が違ったりするのでポジション的な違いもあります。それでポケットビリヤードがおかしくなっちゃうという人もいるかもしれないけど、少なくとも現時点の僕にはあまりマイナス面はないですね。役立つところが多いです」
――この先も両方やりますか?
「そのつもりです。国内戦のスケジュールと相談ですけど、今後も出られたらチャイニーズ8の試合(中国)に出たいと思っています。ただ、3月のチャイニーズ8世界選手権は、『GPE-1』や『全日本ローテーション』とかぶるので、今は悩んでます。特にGPEの開幕戦に出ないとなると2戦目からのプレッシャーが半端ないですし、年間ランキングにも関わってきますから……うーんという感じです」
――ポケットの話に戻りますが、昨年までのプロ生活10年間で20勝していて……
「あ、そんなもんでしたか。意外と少ないなと思ってしまった(笑)。でも……そうか、僕はダメな年は全然ダメなので、そんなもんですね。『1年で2勝』と考えるとむしろ多い気もしてきました」
――で、この関西オープンは21勝目でした。プロ11年目も幸先良くスタートできたのでは?
「最高のスタートは切れましたし、早くも2016年の1勝目を挙げられたという点では安心感がありますが、怖さは常にあります。2014年も関西オープンで勝ったんですが、その後が本当に苦しかった。そういう経験をすると、現時点で『良い年になりそうです』とは言えないですね。優勝するのって、『自分の所にチャンスが巡ってきて、それをものにできた』という感覚なんですけど、じゃあ、次のチャンスがいつ来るのかというと、それは全くわからない。今年はもう来ないかもしれないし、来月なのかもしれない。ただ、一勝できたことによってモチベーションは更に上がっているので、次が近いと信じてコツコツやっていくしかないです」
(了)