2週間の間に『ジャパンオープン』準優勝と
『ワールドゲームズ』銅メダル。
大井直幸がワールドビッグタイトル秒読みだ。
何年も前から言われているが、本当に近いと思う。
本人は海外トップとの差を自覚している。
しかし、ファンや周囲の人々の目には
「きっともうすぐ」と思わせるだけの何かが
今の精力的なツアー活動とその戦績、
そして、相変わらず溌剌とした
プレースタイルから漂っている。
「あのインタビュー」で知った人にも伝えたい。
近い内にタイトル獲るから、ぜひ見続けて、と。
写真協力:On the hill !
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Naoyuki Oi
JPBA40期生
1983年1月10日生 東京都出身・大阪府在住
JPBA年間ランキング1位・4回('06年、'12年、'14年、'15年)
2012年『ナインボール世界選手権』3位
2014年『全日本選手権』準優勝1回
『関西オープン』優勝1回
『全日本ローテーション』優勝3回
『北陸オープン』優勝5回
『北海道オープン』優勝3回
『東海ナインボールグランプリ』優勝3回
『グランプリウエスト』(GPW)では通算15勝
『ワールドカップオブプール』3位・2回
他、優勝・入賞多数
使用プレーキューはEXCEED
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銅メダルマッチ動画。大井直幸 vs 柯乗逸 ↓
――ポーランド遠征お疲れ様でした。そして銅メダル獲得、おめでとうございます。
「ありがとうございます。今は戦いを終えて帰って来たというだけで、特別思うことはないです。疲れました。これといって達成感もございません(笑)」
――総合競技大会でのメダル獲得は初めてですよね?
「いや、持ってるんですよ。2009年の『東アジア競技大会』(香港)の9ボール男子で銅メダル(※この時、河原千尋が女子9ボールで銀メダル)」
――失礼しました。
「失礼だなー、僕は銅メダルコレクターですから(笑)。3位決定戦、負けてません。総合競技大会に出るのはこれが3回目だったかな。でも、以前からそうですけど、こういう大会を特別視するということはないです。僕はどこでもビリヤードをしに行ってるだけ。あまり変わらないです」
――とはいえ、すぐ隣でスヌーカーやスリークッションをやっていたり、普段の国際トーナメントとは違う雰囲気ですよね。
「自分の試合が始まってしまえば全く気にならないし、全く意識しないです。ただ、自分の試合じゃない時は目を奪われてたけどね。今回はずっとスリークッションを見てました。あまりに面白くて(笑)」
――「メダル獲得」ということは念頭に置いてましたか?
「いや、いつも通り優勝を目指して撞いてただけです。ただ、総合競技大会では準決勝で負けると3位決定戦があるということはやっぱり頭にあって。準決勝を撞きながら、『3位決定戦に回るのはイヤだなぁ……』って思ってました。そのせいか内容はボロボロ。きっと準決勝を撞いた4人、思ってたことは同じだと思います」
――準決勝で大井プロに勝ったビアドが金メダルを獲得。彼に対する評価は?
「ビアドだけがどうこうじゃなく、皆、強いですよ。ベスト8ぐらいのメンバーは一緒だと思ってます。僕はほとんどの人を『自分より強い』と思って撞いてます。世界トップクラスの成績を出し続けてる人達は自分より上と思っとかんとね。少なくとも余裕出して撞ける相手なんていないし、誰も余裕出して撞いてないです。こういう大会だと特にね。とにかく良いパフォーマンスを出すことだけを心掛けて撞くしかない」
――大会を通して、ブレイク(9オンフットラック)に苦労していたように映りました。
「そう、良くなかったね。この先、WPAランキングイベントでは9オンフットラックの試合がなくなるということなんで、あんまり練習してなくて。それでもちょっとはできるはずって思ってたけど、始まってみたら全然で(苦笑)。現地でも少し練習したんですけど、トータルで見るとずっとひどかったですね。僕、本番で全然マスワリしてないもん(笑)」
――たしかにマスワリは多くはなかったですね。
「3位決定戦(vs 柯乗逸)の後半は、あーじゃこーじゃやった結果ちょっとはマシになってたけど、大会中ブレイクはずっとダメでした。あのクラスのプレイヤー達を相手にマスワリが出ないっていうのはホンマにしんどい。ちゃんと守れてる気もしてなかったし、攻めて行くのもイヤやし……ずっと我慢のプレーを強いられてた感じでした」
――大会中は心身のコンディションは良かった?
「非常に良かったです。向こうではだいたい日本チーム(梅田竜二〈JPBF〉、河原千尋〈JPBA〉、On the hill !)で動くことが多くて、リラックスできていて、夜は決まった時間に食事して10時には就寝みたいな。時差ボケがあったのかそのぐらいに眠くなってて(笑)。で、翌朝6時ぐらいには目が覚めて、身体のキレも良く、試合に集中できてたと思います」
――ポーランドのヴロツワフは過ごしやすそうな街でしたね。
「快適でしたよ。とても綺麗で安全な街でね。居心地よすぎて逆に気持ちが緩みそうになってたかも。忘れ物しちゃうぐらいに(笑)。ビリヤード選手はどの国の人も一つのホテルに固まっていて、そこに日本の他の競技の人もいました。僕らビリヤード選手団が現地に入ったのはワールドゲームズの終わりかけの時期。個人的には生で空手を見たかったかな。メダルたくさん獲ってたしね(※日本選手7名全員がメダル獲得 )」
――柯乗逸(カー・ピンイー。台湾)との3位決定戦。かなり緊張感があったのでは?
「緊張感……むしろ互いに少し抜けてたんじゃないですかね。決勝戦じゃないから、気持ちの持って行き方は難しかったと思う。僕もしかり、たぶんカーくんもしかりだけど、カーくんの方が僕よりしんどかったんじゃないかな。僕はもう、一回負けて開き直ってるところがあったけど、カーくんは準決勝の敗戦から立ち直っていたかどうか……僕よりナーバスになってたように見えました。僕は僕で試合前から、『カーくんかJ・ショウ……どっちが来ても地獄』と思ってたからね。いやホント、マジで地獄(笑)」
――柯は試合開始からしばらくマイターンでずっとマスワリでした。
「そりゃあマスワリはしますよ。彼はブレイクが良いから。でも、全体的にはちょっと良くなかったと思います。僕は僕で、初めは精神的に抜けててあまり集中できてなくてミスしてましたけど、逆にそんな僕の状態や僕の隙が、カーくん的には気持ち悪かったんじゃないかな。それで彼もミスをして、ますます展開が僕に寄って行くし、カーくんは妙な精神状態になってたと思います。彼と撞くとそういう風になることがあるんですよ」
――柯やビアドというアジアのライバル達とは、だいたい勝ったり負けたりという感じですよね。
「ほとんどの人と五分五分って感じじゃないですかね。少なくとも一方的に僕が負け続けてるっていう人はいないと思う」
――メダルを決めた最後のマスワリ。緊張感は?
「ありました。トーナメントプロとしては当然負けて帰りたくはないからね。僕が常に思ってることって『最大の試合数を撞いて、勝って帰りたい』なんです。今回はそれが出来た。銀メダルの人(ショウ)より良い気分で帰って来られたんじゃないかな。それは、大会の格は違うけど、『東アジア競技大会』で同じシチュエーションを経験してたことも大きかったと思います。当時の僕は、3位決定戦に回った時点でやる気がなかった記憶があるけど(笑)、今は全くそういうのがなくなりました」
――大会全体的に見て高い自己評価を付けられますか?
「色々とツイてたなとは思いますけど、付けられます。中でもアルビン(・オーシャン。ベスト8)との試合はしんどい展開の中でよう頑張れたかな。アイツ、しんどいんですよー、タイプ的に(笑)。きっちりしてるし、今年の『マスターズ』のベスト8で負けてるし、『またか……』っていう。だから、『絶対負けられへん』と思いながらやってました。あの試合を勝てたことがメダルを獲る上で大きかったと思います」
――ワールドゲームズでビリヤードが採用されて5大会目。日本ビリヤード界にとって初めてのメダルとなりました。
「それは僕個人は特別どうこうはないですよ。自分が『初』だとかどうとかそこに特別な思いはない。試合が始まってしまえば全く頭にも入ってこないことなので。というか、そんなことを考えて球が入ることはないですから。ただ、日本の国旗を背負うことの重みは僕なりにわかってるので、表彰式で『日本の国旗を一番上に掲げたかったな』とは思いました。ワールドゲームズでは金メダルの国しか国歌が流れない。だから、フィリピンの国歌を聞いた時にすごく悔しかったです。チャンスがあればまた僕が、僕がダメでも日本の誰かが近い将来、あそこで君が代を流してくれることを期待したいですね」
――わかりました。『ジャパンオープン』についてもお聞きします。準優勝。残念でした。
「そうですね。まあ、よく出来てた方だったし、なんで負けたかのっていうのは自分ではわかってるんで、今後それをどれだけクリアするかです」
――決勝戦は張榮麟(台湾)に3-9で敗戦。
「今回思ったのは、あそこでああいう強いヤツに当たれて幸せだったということ。彼にもずっと負け続けてる訳ではない。でも、この決勝戦では負けてしまった。その原因は主に僕のメンタル的なものだと思うけど、そういった課題の全てをクリアすることができれば、あのクラスに負けない選手になれる可能性があるなって自分には見えています」
――『差』の埋め方ですね。
「そう。彼の方が強いのはわかってます。それはこれまでの実績からも明らかなんで。その彼をこのジャパンオープンでだけ僕が上回っても、それは僕にとって”本当の答え”にはならない。あの決勝戦に関しては、『こういう展開に持って行けたら勝てたかもしれない』という部分がわかっていて、それができなかったことは反省点でもありますけど、結局のところ、僕自身がもっと普遍的な強さを身に付けていかないと世界では戦えないってこと。それはもう前から感じてます」
――普遍的な強さを身に付ける方法は見えてきている?
「見えてます。主に精神的なもの、それから戦略的なものです。でもまあ、やっぱり彼とは経験量がだいぶ違ってるなと痛感しましたよ。僕がやっと国際トーナメントの最終日でちょろちょろ撞けるようになってきたのを、彼はもっと前からやってるから。そこに追い付くためには同じことをやってたんじゃいけない。技術力も練習量ももちろんだけど、国際舞台での経験を貪欲に求め続けていかないと無理かな。だって強いもん、アイツ。強い上に頑張るし(笑)」
――徹底していますよね。試合での心構えみたいないものが。
「そうですね。どうすれば自分が有利になるかよくわかってるし、『勝利の形』ってものを持ってる。ほんとしっかりしてるし、熱いもん。正直言って、決勝戦の序盤でアイツがキュー尻を床にドンってやって割った瞬間に、『ああ、俺はコイツに負けるのかな』って思っちゃいましたからね」
――えっ、そこで!?
「うん、ホント。それだけアイツはあの試合に入り込んでたんですよ。頑張ってた。賞金なのか、2度目のタイトルなのか、何がそうさせたのかわからないけど、あの状況であれだけ集中力のスイッチを入れられるってなかなかできることじゃない。僕もあの時点でスイッチは入ってたし、負けると思って撞いてた訳じゃない。でも、彼の頑張りが僕よりまさって、彼が勝った。彼は今年のジャパンオープンで一番頑張ったから勝ったんです。もうそれだけ。今後、僕なりのやり方であそこまでの頑張りが出せるんだろうか。もちろん僕は僕で国際タイトルにかけている思いがあるし、それなりの回数参戦してきたつもりです。ここで止めたら意味がない。もっともっと頑張っていきますよ」
(了)