※前編から続く
『10ボール世界選手権』準優勝。
『USオープン』3位。
大井直幸が9月にアメリカで
輝かしい戦績を残せたのは、
ヒューストンに活動拠点を置き、
ゆっくりとアメリカの水に
慣れていったことも大きいだろう。
現地に腰を据えてのアメリカ遠征。
それはプロ入り当初に夢想していた
「理想のプロ生活」だった。
友人のブレイン・バーカス氏の家に
滞在している大井に話を聞いた。
Photo : Kakuma Mori
…………
――おはようございます。今ヒューストンは午前中ですね。
大井直幸:Good morning ! そう、朝のウォーキングが終わって、ブレイン(・バーカス。ハイアマ選手であり大井プロと村松さくらプロのホストファミリーでもある)の家に戻って来たところ。今日もこっちは天気が良くて気持ちいいよ。35度ぐらい行きそうだね。
――試合がない日の生活は?
大:健康的な生活を心掛けてます。朝は7~8時ぐらいに起きて身体を動かして……試合は朝からあるから合わせないとね。ブレインの家にはテーブルがあるんで毎日練習出来るし、ブレインとさくらプロのプレーを見ることもあるし。逆に僕がブレインからワンポケットとかバンクプールを教えてもらうこともある。それからプールのメンタルについてブレインと英語でがんばって議論したり。今ちょうどシェーン(・バンボーニング)と張榮麟のロングマッチをやってるでしょ(※現地時間の9/24に終了。バンボーニングが勝利した)。あのライブストリーミングを一緒に見ながら語り合ったり。すごく有意義に過ごせてます。
――ブレインさんとはいつ出会ったんですか?
大:数年前の『ダービーシティクラシック』だね(※アメリカの伝統的なプールイベント。約1週間様々な種目の大会が行われる。大井プロも参加経験がある)。あそこで知り合って仲良くなって、昨年(2020年)この家に滞在させてもらって、今年も快く迎えてもらいました。すごく気が合うし、もう家族みたいなもんです。とにかく僕と一緒に遊びたがるんですよ、アイツ(笑)。『釣りしよう』とか『ゴルフ行こう』とか。でっかい家に住んでるし、まあ余裕のある人です。球も上手いですよ。まだ32歳だからさらに伸びると思う。FargoRateは728(全米64位。9月24日時点)だけど、今は740~750ぐらいあるんじゃないかな。日本のSAクラスより強いですね。
――次の試合は?
大:『オメガダイヤモンドオープン』(9月28日~・サウスカロライナ)。1週間で10ボール、バンクプール、スピードプール、ワンポケット、ミックスダブルス、レディース9ボール、9ボールとたくさんカテゴリーがあって、僕はそのうち5つぐらいに出る。さくらプロはレディース部門に出るし、ミックスダブルスは一緒に出ます。エントリーフィーが1,000ドルもするし、メンバーがUSオープンのベスト32みたいなメンツだし、たぶんトップ連中は皆が思ってると思うけど「ふざけんなよ」って感じです(笑)。
――でも、それが楽しみなんですよね。
大:たまんないよね(笑)。勝つか負けるかなんて全然わからないけど、ドキドキできる試合があるっていうのは最高です。『オメガ』が終わったら『USプロビリヤードシリーズ第4戦オハイオオープン』(10月13日~)へ。本当は第3戦(『ミシガンオープン』)にも出るつもりだったんだけどパスしました。ここまでの4連戦が予想以上にタフだったんで、ちゃんと身体と頭を休ませて、ここまでのことを整理して考える期間がほしかったので。その後、オハイオからコネチカットに行ってビリヤード場でチャレンジマッチをやります。現地の方からお仕事の依頼をいただきました。初めてなんですけどありがたいですね。
――2ヶ月アメリカに滞在すると出費も大きいでしょうし。
大:そう。エントリーフィーとか開催地での宿泊費とか結構でかいんだよね。今のところ、出た4大会全て賞金をもらえてるけど、それはたまたまだから。どこかで「負け―負け」をくらうこともあるだろうと思ってます。こっちのプロトーナメントはハイレベルすぎて、なんで自分が勝ってるのか負けてるかもわからなくなってくるんだよ。楽しいよねぇ(笑)。そうそう、スポンサーというかサポートしてくれるという人も現れたし、こっちで活躍するとそういうふうになっていくんだな、アメリカははっきりしてるなって思いました。
――そして、『インターナショナルオープン』(10月22日~・バージニア。旧USオープン)にも出ると。
大:あの大会、今年は9ボール・10ボール・ワンポケットの3部門あるんですよ。僕は全て出ます。それもあって『テキサスオープン』でワンポケットにも出たし、今もブレインに教わってます。正直今の僕はワンポケットではほぼノーチャンスだけど(笑)、アメリカで長く球を撞くなら、ワンポケットができた方が戦いの場が増えるんでね。勉強してます。
――アメリカ遠征の構想は以前から思い描いていましたね。
大:海外中心で活動したいと思い始めたのは結構前からだけど、具体的に考えるようになったのは2019年かな。国内の大会をお休みしてでも出たいなと。昨年はコロナがあって計画は途中で終わったけど、今年はアメリカの大会はだいたい普通に行われてるし、特にこの秋はたくさん固まってるんで『ここだ!』と。そしたらシェーン(・バンボーニング)とかアメリカトップたちや他国のトップたちもだいたい同じ日程でロード(複数の大会やイベントを巡るツアー)を組んでた。そこに一緒に加わるってことが大事だと思います。
――実際にロードを1ヶ月ぐらい体験してどうですか?
大:やっぱり上の人達は上の人達でさらに強くなってるし、上手くなってる。最高峰にいないと最高峰が先に行っちゃうなって実感しましたね。このゲームは経験がものをいうから『そこ』にいないと置いていかれるなと。そして、アメリカにはアメリカのプール文化とゲームとシチュエーションがあるから、そこにマッチした戦い方ができてないと上には行けない。プールは世界中で行われてるけど、その土地やシチュエーションに合ったプレーっていうのがやっぱりあるんで、それを理解することも大事だと思います。
――行く先々でアメリカのファンがさらに増えたと思います。
大:だいぶ声を掛けてもらってますね。きっかけは僕でも何でもいいから、トップトーナメントを見てエキサイティングになってくれたり、たまにビリヤード場でプレーを楽しんでもらえたらもう最高だよね。もっとファンを増やそうとかブームを起こそうとか、僕はそんな大きなことは考えてないよ。皆がそれぞれナチュラルにプールを楽しんでくれたらいいなと思います。
――大井プロから見た今のアメリカプールシーンは?
大:プロレベルについて言えば、今アメリカはすごく盛り上がってて大会が増えてるし、世界中からプレイヤーが集まりすぎてる感じで正直レベルが高すぎる(笑)。他国とか他地域にもこの良い波が伝わって分散していけば、もうちょっと世界的にバランスよくプールが盛り上がっていきそうだなと思います。マッチルームが『UKオープン』を来年5月に始めるのはそういう狙いもあるんだろうね。僕の願望ですけど、UKの後に例えば中国で同じクラスの大会が出来るとか、そういう感じで各大陸で同時に盛り上がっていくのが理想的だと思う。
――そして大井プロはどこにでも行く、と。
大:間違いないね。いい試合があればどこにでも行きたいよ。別にそれが仕事だからなんて思ってないんだよね。どんどんビリヤードが好きになっちゃって、行きたいから行くっていう発想なもんで(笑)。……そうそう、こないだ俺、15~16年ぐらい前の自分のインタビュー動画を見たんですよ。
――プロ入りした頃(2006年)ですね。
大:そう。何を喋るのかなと思ったら、ビリヤードに対する思いとか探究心とかについて、今僕が思ってるのと全く同じことを言ってたんですよ。あの頃から今に至るまでの15~16年の間には、僕の中に良い考え悪い考え、色々なものが入ったり出たりしたし、腐ってた時期もあった。でも、腐りきらなくて良かったなと。色々な時期を経て、原点というかビリヤードが好きな子供に戻って来てる感覚もあるんだよね(笑)。あの時も今もビリヤードが大好きで、あの時やりたいと思ってた海外遠征を今やれてるんだなって。たまに日本が恋しくなる時もあるけど、アメリカ生活、まだまだ楽しみます。
(了)
※前編はこちら
Naoyuki Oi
JPBA40期生/1983年1月10日生/東京都出身
JPBA年間ランキング1位・6回(2006年、2012年、2014年、2015年、2017年、2018年)
2007年『ワールドカップオブプール』3位
2012年『9ボール世界選手権』3位
2014年『全日本選手権』準優勝
2015年『ワールドカップオブプール』3位
2017年&2018年『ジャパンオープン』準優勝
2017年『ワールドゲームズ・ヴロツワフ大会』銅メダル
2017年『USオープン9ボール』5-6位
2018年『CBSAツアー 中国・密雲戦』優勝
2019年『ジャパンオープン』優勝
2021年『チャンピオンシップリーグプール』5位
2021年『10ボール世界選手権』準優勝
2021年『USオープン』3位
他、優勝・入賞多数(国内で約40勝)
使用グローブはOWL
使用プレーキューはHOW(ハオ)
使用タップは斬(ZAN)
所属:Shop FLANNEL、Pool & Darts FLANNEL
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