2019年末、
19歳と1日で自身初(日本人初)の
神箸渓心(かみはし・けいしん)選手。
神箸選手はスヌーカーの
メインツアープロを目指して、
2016年から海外修行に出ている。
現在はイギリス北部のダーリントンに拠点を置き、
プロたちとキューを交える日々。
「メインツアープロ」とはWorld Snooker認定の
プロプレイヤーのことで、128名限定の狭き門。
トップスター達がいる最高峰のステージだ。
彼らを始めとするトッププレイヤーの年収は
数千万円~数億円にもなる。
今まで日本人のメインツアープロは一人もいないが、
そこに最も近付いているのが神箸選手。
2019年末、神箸選手が
地元・愛知に帰省していたところをキャッチ。
2016年3月(当時15歳)以来となる
インタビューを行った。
以前より逞しくなった体つきと
正確無比のキューイング、
そして落ち着いた語り口からは
“日本人初のスヌーカープロ”への
決意と自信がひしひしと伝わってきた。
取材協力:『JIN』(愛知県名古屋市守山区川宮町6)
…………
Keishin Kamihashi
2000年12月29日生まれ(取材時18歳)
愛知県出身/イギリス・ダーリントン在住
実父は神箸久貴プロ(JPBA)
『公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団・スポーツチャレンジ』助成対象者
日本での主な戦績は
2014年『第13回全日本スヌーカー選手権』準優勝
2014年『第3回全日本6-redスヌーカー選手権』優勝
2017年&2018年『全日本スヌーカー選手権』連覇
2017年&2018年『スヌーカージャパンオープン』連覇
海外での主な戦績は
2015年『IBSF World Under-18 Snooker Championship』(U18世界選手権)9位
2016年『Hong Kong International Snooker Tournament』(U21)3位
2019年『IBSF World Under-21 Snooker Championship』(U21世界選手権)5位
2019年『IBSF World Under-18 Snooker Championship』(U18世界選手権)9位
2016年~2017年:CBSA北京世界スヌーカー学院所属
2018年4月~:シェフィールドStar Academy所属
2018年9月~現在:ダーリントンQ House Snooker Academy所属
…………
――前回のインタビューは4年近く前の2016年3月(当時15歳)。北京の『CBSA世界スヌーカー学院』に行く直前でした。
「そうでしたね。あれから北京に行って、2018年4月にシェフィールド(Star Academy)に移りました。2018年9月からはダーリントンにある『Q House Snooker Academy』という所にいます。どこにいても毎日ひたすらスヌーカーをやってるのは変わりません」
――この4年弱、海外ベースの生活ですが、もう慣れましたか?
「だいぶ慣れました。今はもう海外に住んでいてもそんなにストレスを感じることはないです。ペラペラってほどでもないですが、英語も覚えたんで、日々の生活でそんなに困ることもないです」
――今いるダーリントンの『Q House Snooker Academy』(Qハウス・スヌーカー・アカデミー)はどういう所ですか?
「様々な企業のオフィスとかが入っている施設の中にアカデミーがあって、フロアには8台のスヌーカーテーブルが並んでいます。そこに僕を含めて20人ぐらいの選手が所属しています。大半がプロで年上の人ばかり。僕は2番目に若いです」
――プロとトップアマが混ざっているハイレベルな稽古場のような所なんでしょうか。
「そうです。一番ランキングの高いプロだと、21位(※取材時)の『F』がいます(タイのThepchaiya Un-Nooh〈チェプチャイヤ・アンヌーン〉。F1カーのように速いプレースタイルから『F』と呼ばれる)。彼をはじめとして年齢もスヌーカー歴も僕より上の人ばかり。常に周りにプロがいる環境なので、すごく良い経験を積めています」
――神箸選手はアカデミーの近くに住んでいるんですか?
「はい、『F』とブラジル人選手と中国人選手と僕の4人でシェアハウスに住んでます。他のプレイヤーも皆だいたいアカデミーの近くに住んでます」
――普段どういうスケジュールなんでしょうか。
「毎朝7~8時に起きて、9~10時に家を出て、アカデミーで練習して、昼ごはんを食べて、午後は7~8時まで練習しています。2日に1回はジムに行ってトレーニングもしています。夜8時ぐらいに練習を終えて夜ご飯を食べて寝るという感じです。毎日9時間ぐらいは撞いてるかな」
――球を撞かない日は?
「全く撞かない日というのはないですね。疲れが残っている日はゆっくりアカデミーに行くこともありますけど」
――練習は実戦形式が多いですか?
「そうですね。一人練習ももちろんしますけど、これだけ良い環境にいるなら誰かと撞かないともったいないので、相撞きをすることが多いです。アカデミーにいるプロ達はいつでも・なんでもウェルカムな感じで教えてくれるので、僕にとってはプロ全員がコーチみたいなものですね。プロ達のプレーを見たり、言葉を交わしたり、一緒に撞くことがなによりのトレーニングです」
――充実した修行生活ですね。
「毎日スヌーカーが楽しいし、友達も出来ましたし、良い環境でやれてるなと思います。大半がプロで皆強いんで、球を外したら終わりの世界。とにかく集中して撞き続けるしかない。その繰り返しで皆と勝負になるレベルまできたと思いますし、プロが調子悪かったら勝てるなと思ってやってます。そんな場にいることがすごく楽しいです」
――アカデミーで腕を磨く目的は『プロになるため』ですよね。そこに近付いている実感は?
「あります。前の取材の頃とはまるで違います。今すごく自分の成長を実感出来ていて、あと一歩の所にいると思ってます。アカデミーにいるプロ達と互角に戦えるようになってきたというのが大きいですね。たまに圧勝出来たりすることもあるので」
――試合でも手応えを得ているのでしょうか?
「はい、試合でのパフォーマンスも前とはだいぶ変わってきたと思いますし、優勝出来るイメージも持てるようになりました。12月中旬の試合(※Europe Challenge Tour。イギリス、ドイツ、ベルギー、ハンガリーなどで年10回開催されるアマの試合。ランキング総合2位までに入るとプロになれる)はベスト16で負けちゃったんですけど、かなり自信を持って落ち着いて撞けるようになってきました。次は1月のマルタの試合ですね(『WSF Championships』。神箸選手の初戦は日本時間1/11)。あれも優勝したらプロになれる大会です」
――プロになる道はいくつかあるとのことですが、一番大きいのが『Q School』(キュースクール。プロ・アマ入れ替え戦)ですね。
「はい。Qスクールは16名ぐらいがプロになれるという、年間で一番大きなチャンス。今までに2回挑戦して、2017年は一度も勝てないで終わりました。2019年はあと2回勝てばプロになれるというところまで進んだんですけど、中国選手に負けちゃいました。でも、あれでQスクールで勝ち上がっていく感覚もわかってきました。2020年のQスクールは5月。そこに向けて仕上げていきます」
――自分を客観的に見てどんなプレイヤーだと思いますか?
「なんだろう……あんまりこう、直情的にはやらないというか。どんな球でも落ち着いて、考えてから撞く方ですかね。賢いというのもあれですけど、自分に有利な選択を出来るようになってきていると思いますし、セーフティもだいぶ上手くなってきたと思います」
――まだ足りてないなと思うところは?
「調子にムラがあるところは課題です。トッププロ達は常に一定のパフォーマンスレベルを保っていて、底のラインもすごく高いんですよね。僕はまだ上下の波が大きいので、それでは大会を勝ち上がって行くのは難しい。だから今は早くムラをなくしたいと思っています」
――そこがトップランカーとそれ以外の人達を分けるポイントでもあるのでしょうか。
「そう思います。やっぱりトッププロ達はアベレージが高い。勝敗を分ける局面は色々とありますけど、トッププロ達は一つ一つのショットの精度が高いからアベレージも高いんだと思います。セーフティひとつ取っても、甘い球を残したら相手に入れられて取り切られちゃう世界。最初のブレイク(オープニングのセーフティブレイク)から上手く撞かないといきなり取り切られますから。もちろん入れミスもネキミスもダメ。とにかく相手にチャンスを渡さないというのが大事です」
――メインツアープロの中で神箸選手が参考にしているプレイヤーや好きなプレイヤーは?
「誰だろう……。同じアカデミーにいるタイのノッポン・センカム(Noppon Saengkham。ランキング33位)は、とても真面目な人で取り組み方とかも参考になるし、話を聞いていても勉強になりますね。純粋にプレースタイルで言えば、中国のディン・ジュンフィ(丁俊暉。中国No.1スヌーカー選手。ランキング9位)は良いなと思います。ディンは2020年に自分のアカデミーを作るという話も出ていて、それは僕ものぞいてみたいです。もし本当にすごく良さそうなアカデミーだったら、そっちに移っても良いかもと思ってます」
――もうすぐ誕生日を迎えて19歳になります。約3年半前、前回の取材の頃に今の自分の姿は想像出来ていましたか?
「え~、どうですかねぇ。あの頃はただ目の前のことを一生懸命やっていただけで何も考えてなかったですから(笑)。振り返るとあの頃の僕は技術的にも全然上手くなかったし、弱かったなと思います」
――ここからさらに3年後、理想の自分とは?
「3年後は22歳……。やっぱりプロになって、プロツアーで活躍して優勝出来るぐらいになってるのが理想です。優勝したら一気に名が売れて皆に知ってもらえるので、早くそうなって、イギリスで自分で稼いで自分でなんでもやりくり出来るぐらいのプレイヤーになりたいです。今は稼ぐ手段がほぼないので」
――最後に2020年の抱負を。
「ダーリントンでしっかり練習して2020年のうちにプロになりたいです。自分の中でもプロに近付きつつあるというイメージは湧いてきているので、これまでに培ってきたものを最大限に発揮して目標を叶えたいです」
(了)