これまで無冠だったとは
にわかに信じられないほど
堂々としたプレーぶりだった。
東日本の『A級戦』決勝戦を
ぎりぎりで勝ち抜けて
大阪行きの切符を手にした
荒木愛(東京)は、
初めて挑んだ女流球聖戦の
クライマックス、
『挑戦者決定戦』と
『球聖位決定戦』で、
臆することなく、そして、
したたかに戦い抜き、
第12期女流球聖位の座に就いた。
安定感あるプレーの源となった
「決意」とは……!?
戴冠した翌日に、
大会を振り返っていただいた。
…………
Ai Araki
生年月日:1986年10月30日
出身・在住:東京都
所属店:『ビリヤード相馬』(東京)
使用プレーキュー: アートカンタンド(シャフトは314-3、タップはエルクマスター10t)
所属連盟:なし
ビリヤード歴:約13年
女流球聖戦参加歴:今年で10回目ぐらい
女流球聖戦でのこれまでの最高位:2019年『A級戦』2位
女流球聖戦以外の全国アマ公式戦入賞歴:
2019年『第18回鹿児島国体県民参加プログラム大会・アマチュアビリヤード都道府県選手権大会』準優勝
…………
――勝利から丸一日経ってのお気持ちは?
「なにか気の利いたことを言いたいんですけど、ただただ嬉しいとしか言えないです(笑)。『A級戦』を勝った時もそうでしたけど、今回も『明日朝起きて夢だったらどうしよう』と思ってました(笑)。たくさんお祝いのメッセージもいただいて、さすがに夢じゃないんだなと」
――「全国タイトル獲得」という目標を、女子アマ最高峰の大会で達成しました。
「去年の鹿児島(2019年『第18回鹿児島国体県民参加プログラム大会・アマチュアビリヤード都道府県選手権大会』)は準優勝でしたし、関東の『全関東』とか『9ボールクラシック』とかも含めて今まで一つも勝ててなくて。とにかくタイトルが欲しかったので本当に嬉しいです」
――会場の『マグスミノエ』(大阪)は初めてでしたか?
「学生だった10年ぐらい前、B級の頃に『全日本選手権』(兵庫)を見に行き、その時に『マグスミノエ』にも行きました。(所属プロの)浜西由希子プロのことが好きで、一緒に撞いていただいたんです。その時以来でした。あの頃は『ビリヤードができるのも学生のうちだけだろうな』って思ってましたけど、まさかこんなに続けることになるとは(笑)」
――『挑戦者決定戦』と『球聖位決定戦』の環境や雰囲気はいかがでしたか?
「すごく良かったです。この試合のために多くの方が動いていて、テーブルの配置を変えたり、ラシャを張り替えたりしていて、特別な舞台なんだなと感じました。私はメトロテーブルと新(さら)ラシャが得意ではないんですけど、新ラシャが上手い人からアドバイスをもらっていましたし、前日に試合テーブルで練習ができたおかげで、ある程度は対応できたかなと思います」
――土曜日にまず『挑戦者決定戦』を戦いました。
「序盤から思ったよりも集中して自分の球が撞けていたと思います。それはたぶん前日の練習でブレイクとか様々なショットの感覚をなんとなく掴めていたのが大きいと思います。おかげで意外と緊張はしてなかったですし、『あれだけ上手い方とこんなにいい環境で試合ができて楽しいな』と思いながら撞いてました」
――第1・第2セットを連取し、先にリーチをかけましたが、第3セットは取られました。
「頭から2セット連続で取れたのは御の字というか、出来すぎで怖いぐらいでした。第3セットを取られて『まあそうだよね。私の実力はこんなものだろうし』とむしろ冷静になれた気がします。特に動揺することもなく第4セットに入って行けました。もちろん第4セットも取られるとヒルヒルになるので、『ここで決めたい』という気持ちはありました」
――最後は、6-5で迎えた第12ラックで、相手の4番セーフティを空クッションで当てに行ったら手球が9番にも当たり、9番がポケットへ向かって……。セットカウント3-1で勝利。
「はい、フロックです(笑)。自分でも映像を見返したんですけど、9番はギリギリで一瞬静止したように見えて、それからコロッと落ちましたよね。新ラシャだから滑ってくれたのかな。あの球はライブ配信を見てた人からも結構言われました。『思わず声が出たよ』と。その声が9番を押してくれたのかもしれません。とりあえずしっかり撞いておいて良かったなと思いました」
――「挑戦者」になった感想は?
「『これで2日目も戦えるんだ』とホッとしました。お店(東京『相馬』)の人達をはじめ、多くの人にサポートしてもらってましたし、関東から応援に来てくれた方もいました(※今回は主催のJAPAのコロナ対策により事前登録制で最大5名までの入場が許された)。1日だけで終わらず、丸岡さんに挑戦できることが嬉しかったです」
――日曜日の『球聖位決定戦』。第1セットは丸岡文子選手が、第2セットは荒木選手が取りました。序盤は硬さがあったように思います。
「第1~第2セットは何をやってもうまく行かない感じがあって、『なんで入らないんだろう、なんで出ないんだろう』と混乱してました。自分では前日と同じように撞いてるつもりだったんですけど、観てる人からするとそうではなかったみたいで、そこを指摘されて我に返りました。第3セットからは自分の球撞きに集中できたと思います。丸岡さんの球は見ていて気持ち良くて、ああいうふうに撞きたいと思わせる球。序盤は気持ちがそこに引っ張られていたのかもしれません」
――第3セットを荒木選手が7-0で取り、大きく前進しました。
「だいぶ気持ちも落ち着いてきて、『そうそう、昨日はこんな感じだった』みたいな感覚で撞けてました。相手や展開のことは気にせず、目の前の球に集中するだけでした」
――普通のショットだけでなく、ブレイク、セーフティ、空クッションなども仕上がっている感じがありました。
「空クッションは以前から苦手で今回もそんなに良かったとは思わないですけど、セーフティは最近自分でも割と上手くできるようになってきたかなと思います。ブレイクは金曜の練習で『これで行こう』というものを見付けられたのが良かったです。イリーガルも2日間そんなになかったですね」
――セットカウント3-1でリーチをかけて迎えた第5セット。前半は序盤のようなミスが出ていました。
「自分でもなんであんなにしょぼかったのかよくわからないんですけど、ひょっとすると頭のどこかに『ここで1セット取られてもしょうがないな』っていう考えがあったのかもしれません。途中でハッと気付いて、『もし取られるにしても、ちゃんと抵抗しないと』と気合いを入れ直しました。それで一つ一つ返して行くことができて、『4-5ぐらいまで迫ればきっと相手は嫌だと感じてくれる』と思いましたし、そうなればチャンスはあるなと思ってました」
――最終的に1-5ビハインドから6連取(7-5)で上がりましたが、緊張感が強くなった場面はありましたか?
「5-5に追い付いた後の第11ラックですね。自分のブレイク番だったんですけど、そのラックを落とすと(5-6にされると)、次は相手のブレイク番だから、マスワリされて終わる可能性がある。なので、実質あそこがヒルヒルのラストラックだと思っていて、『絶対にマスワリする!』という気持ちで撞きました。緊張してましたし、どの球も納得して撞きたいと思っていたので時間もかかってたと思います」
――見事にマスワリで6-5で先にリーチをかけて、次のラックは相手が9番ミスで「OK」でした。
「1日目も2日目も、ゲームボールらしいゲームボールを撞かずに勝ってしまって不思議な感じです。『あ、これって私の勝ち? ……やった!』みたいな。でも、もし流れの中でゲームボールを目の前にしてたら、すごく手が震えてたと思うので、あの勝ち方で良かったのかもしれません」
――2日間を通して、ご自身のプレーをどう評価していますか?
「自分ではつまんないミスをたくさんしたなという感覚があるんですけど、周りの人達からは割と褒めてもらえたので、『あれっ、良かったのかな』と(笑)。あの舞台では誰もいつも通りには撞けなくなると思うんですけど、私はいつも通りにドキドキして、いつも通り球を外して、へぼいところも含めてまあまあ普段通りだったのかもしれません。私の負けパターンとして、『まあ、入るっしょ』『出るっしょ』という感じで適当に撞き、ミスをして、振り返るとそこをキーポイントにして展開が変わっていたということがよくあります。今回はそれだけはやめようと思ってました。どの球も後悔しないぐらいまで考えてから撞く。それならもしミスしても引きずることがないし、自信を持って撞けるはずだと」
――試合前のアンケートでは「中途半端なことはしない。苦手な球もちゃんと考えて一生懸命狙って、外すにしても納得できる一球にしたいと思います」とお答えいただきました。このことですね。
「まさにそれです。その言葉通りに戦えたと思います」
――女流球聖になった今、この先の目標とは?
「基本的には今までと変わらずビリヤードをやっていきます。今はコロナでなかなか試合もないですが、公式戦もハウストーナメントもこれまでと同じように出ていきます。出る以上は今回の勝利がフロックだと言われないように、そして女流球聖の名に恥じないように頑張りたいです。もちろん、来年のいつ開催されるかわかりませんが、このタイトルを防衛したいです」
――最後に、応援してくれた方々へのメッセージを。
「『ライブ配信観てたよ』という方がすごく多くて、今回それが一番嬉しいことだったかもしれません。土日の日中の一番いい時間帯に皆がリアルタイムで観てくれたことがなんだかとても嬉しかったですし、皆さんの応援の量で勝てた気がしています。昔から多くの人達とビリヤードを通じて出会い、その人達を味方に付けておいて良かったなと思いました(笑)。きっと昔の私を知ってる人達は『あの子があんなところで撞けるようになるなんて』って思ってくれたんじゃないかと思います。それもまた嬉しいです。これからも皆さんの期待に添えるように頑張りますので、ぜひ引き続き応援していただけたらと思います」
(了)