本能的なショットセンスと爆発力で
3日間多くのプレイヤーを圧倒していた
オルコロが後手に回っていた。
「連覇なんて無理」と言っていた男は、
チャンピオンにふさわしい
堂々たる戦いぶりで、この日3人目となる
フィリピン選手との対決を制した。
オルコロに追い上げられた時間帯も
その表情に焦りの色は見えず、
頼もしさすら感じさせた。
「3連休を最後まで楽しむ」をテーマに
気負うことなくプレーしていた飯間智也は、
今年もニューピアホールの主役になった。
→ 2023ジャパンオープン結果記事はこちら
――連覇達成。まず率直なお気持ちを。
飯間:連覇ってすごいことだと思うんですけど、不思議なもので、去年の初優勝ほどの感動はなかったです。去年はしばらく、良い小説を読んだ時の読後感に浸るような感覚や、ジャパンオープンロス的な感覚があったんですけど、今回はすでに1回経験しているせいかクールダウンが早い感じで。割と普通に「今年もたくさんお祝いのお言葉をいただくだろうな」とか「祝勝会があるな。飲みすぎないようにしないと」とか先のことが頭に浮かんでいました。
――「連覇」を意識して出場していましたか?
飯間:いや、全くです。普通に考えてジャパンオープンで連覇なんかできないじゃないですか。どの試合もそうですけど、優勝しようと思ってもできないのがビリヤードやし。でも、本番が近付くにつれて、周囲からは「連覇頼むで」とか「期待してるで」とかよく言われてましたね。大会中もそんな感じでした。ディフェンディングチャンピオンは注目されるものやし、それもしょうがないですけど、僕は「無理無理!」って言い続けてました(笑)。それは実際本心だったんですけど、「連覇します!」なんて啖呵を切ったら余計にプレッシャーがかかるから口にしたくないっていう気持ちもありました。
――でも、連覇ができた。
飯間:連覇を意識せずに撞けたのもあるし、全体的に内容は悪くなかったと思います。あとは……オカルトっぽいことなんですけど、大会期間中、仲間と食事に行ったらお会計の時に僕が多く出したりしてました。徳を積みたくて(笑)。前から結構やってるんですよ。「これで試合でラッキーの回数増えるかもしれへんし」って。今回その効果はあったなと自分では思ってます(笑)。
――3日間、よく撞けたと思いますか?
飯間:そうですね。もちろん普段撞いてるコンディションとは違うので、ショットの感覚が違ったり、コントロールミスもしてましたけど、全体を通してそこまで悪くなかったです。初日の2試合目で喜島さん(喜島安広・現名人)にボコボコ行かれて負けましたけど、会場(渋谷『CUE』)のテーブルコンディションへの慣れも違っていたはずと自分を納得させて、まだダブルイリミネーションだったので、「次がある」と切り替えられました。2日目(池袋『ロサ』)も悪くはなかったですね。撞き急いだり、適当に撞いたりすることもなく、確認するところは確認しながらできた感じです。
――最終日も同じでしたか?
飯間:そうですね。始まるまではちょっと不安やったんですけど、いざテーブルに向かってみたら、コンディションには初めからそれなりに合わせられました。去年とポケットの感じが似てるなと思ったし、入れやすいなっていう感覚はずっとありました。ただ、去年よりは手球を引きにくいコンディションやったなと思います。
――会場の雰囲気や環境にも違和感はなく?
飯間:はい、「あっ、BGM、去年と一緒やん」ってめっちゃ安心できました(笑)。
――ベスト16はS・マラヤン、ベスト8はA・リニングと、フィリピン選手2人を倒しました。
飯間:ベスト16はシュートミスもあまりなく、良い感じで撞けてたと思うし、「うわ~、ラッキー」っていう場面が何回かありました。相手がセーフティに行ったら先球が入ってしまって、そのまま相手が丸隠れの球を撞くことになったり。それこそ積んだ徳を回収をしてる感覚がありつつ(笑)、気持ち良く上がらせてもらいました。僕にとっての関門はその次のベスト8でしたね。
――還暦を迎えたテクニシャン、リニング。
飯間:そうです。公式戦で当たるのは今回が初めてだったんですけど、リニングとガレゴは前からよく大阪にも来てましたし、僕が20歳ぐらいの頃から何度も平場で撞いてました。1回も勝ったことがなかったです。なんならリニングを参考にもしてましたし、全然勝てるイメージのない相手でした。案の定、0-4にされて「今日も勝てないんだろうな」って思ってました。
――そこから逆転勝利。
飯間:よく覚えてるのは第6ラック(飯間1-4リニング)の5番カットです。その前の4番でキューミスしてしまって5番が短―短に分かれた形になって。セーフティも考えられる球でしたけど、前日のベスト32(vs 鈴木清司)で同じような配置をカットで入れてたこともあって、良いイメージと良いテンションで攻められました。手球もイメージ通りのコースを走ってくれたし、自分でもナイスショットだったと思います。あれで自分の気持ちや場の雰囲気も切り替わった感じがあって、「よし、まだ戦える」って思いました。
――準決勝(vs 栗林達)は?
飯間:シーソーゲームの展開でしたけど、終盤は僕がラッキーだったと思います。また言いますけど、徳を積んだおかげで助かったなと思える場面が何度かありました(笑)。5-5の時(第10ラック)、9番を入れて手球がスクラッチしそうになったけどギリギリ残ったり(10番を入れて6-5に)。僕のゲームボールは相手が10番をミスしてイージーな形が回って来ました(8-6で勝利)。僕はブレイクが悪かったし、セーフティやショットのミスもあったけど、流れが自分に向いてることを感じながら、それに乗って立ち回れた感覚があります。
――2年連続で決勝戦へ。「まさか」という思いもあったのでしょうか。
飯間:めっちゃありました。でも、今回3連休での開催だったじゃないですか。僕は16日(大会初日)が誕生日だったので、「3連休を楽しむ」をテーマに東京に来てました。決勝戦も「最後の最後まで楽しむぞ」という気持ちでしたね。
――相手は2008年大会優勝、フィリピントップのD・オルコロ。
飯間:以前平場で撞いてボコられてますし、全く勝てるとは思ってなかったです。始まる前に同郷香川県の先輩の青木亮二プロ(2008年準優勝)から、「俺は決勝戦で頭から7連マスされた。だから智也は2分練習でバンキングも撞いとけよ」って言われて、1回だけバンキングのフリだけしました。ありがたいことに僕がバンキングを取れてそのままマスワリできたんで、「あれ?」みたいな(笑)。そんなスタートだったんで、「何があっても楽しく」「球の内容でテーブルと喋ろう」というテーマを守りやすかったです。
――相手に2点取られて1-2ビハインドになりますが、そこから飯間プロが6連取で7-2と先にリーチ。
飯間:途中、僕が4-2にした時にオルコロがタイムアウトを取りましたよね。あれはありがたかった。待ってる側はテーブルで練習できるじゃないですか。それがめちゃくちゃ気持ちよかったし、良いクールダウンになりました。「ああ、コンディション、こんな感じか。こう出るのか」みたいな感じで、ダイヤモンドテーブルともっと仲良くなれました。
――先にリーチをかけた時、「連覇」は現実味を帯びてきていたのでしょうか。
飯間:少し思いました。相手がオルコロと言えども「7-2ならさすがにあるかも」と。そこからオルコロに上手いこなし方をされて4点取られましたけど、全くターンが回って来てなかった訳じゃないし、こっちはリーチをかけている。一発回ってきたらワンチャンあるかなとは思ってました。
――そして最後の取り切りを迎えます。オルコロの1番セーフティーミスから。
飯間:去年も今年も最後は1番からの10個取り切りでしたね。今年も最後の配置はよく見えてました。4番から5番があのマスのキーだなと。
――4番を入れて5番へ引き球でポジション。
飯間:サイドスクラッチがありえる動かし方ですけど、一応スクラッチしない加減で撞いてました。ちょっと出過ぎましたけど、撞きづらにはならなかったし、あの時点で「行けるな」と。そこからは余裕とまでは言わないですけど、ウイニングラン的な感じというか。去年も取り切って上がる経験をしていたから、普通に撞けたと思います。あ、ゲームボールは去年より難しかったですけど。
――9番から10番への出しがショートしたため、10番はだいぶフリが付いてましたね。
飯間:はい、最後、順下で撞かないといけなくなりました。あの10番は「外れる訳ない」という気持ちと「入ってくれ」という気持ち、両方ありましたね。撞いて歓声が聞こえて「ああ、入ってくれた」みたいな感じでした。
――初優勝と2度目では勝利の喜びは異なりますか?
飯間:それはこれからわかってくるんじゃないかなと思います。僕としては去年優勝したのもフロックですし、今回もフロックなんですけど、周りの方々は「すごい」「2連覇ヤバい」みたいな感じで言ってくださる。それも評価の一つやと思うんで、そこはちゃんと受け止めて、どんな立ち振る舞い方がいいのかっていうのはこれから考えたいですね。
――ますます「海外で戦ってほしい」という期待が高まりそうですね。
飯間:そうなんです。初優勝の時もそうでしたけど、周りの意見はますます「海外」に集中してきています。もちろん僕も行きたいと思っているし、その期待を背負って戦えるプレイヤーでありたいので、そのためにはまずやっぱり環境を整えないといけない。日常生活から余裕を持つことがプレイヤーとしての今後の課題だと思います。
――応援してくれている人達に最後に一言。
飯間:スポンサーの皆様、応援してくれた皆様、ギャラリーの皆様、ともに戦った選手の皆様、大会関係者の皆様、本当にありがとうございました。皆様のおかげで3連休の最後の最後までビリヤードを楽しむことができて幸せでした。僕は大阪の人間なので、もっと関西のビリヤードシーンが盛り上がってほしいと願っています。自分が引っ張って行くというのもおこがましいですけど、以前BDさんにも記事にしていただいた『関西プールチャンピオンズリーグ』を通して、関西のプレイヤーが切磋琢磨しながら熱くビリヤードを楽しめる環境をさらに作っていきたいですし、自分自身ももっと熱くビリヤードを楽しみたいと思います。
(了)
※初優勝時インタビューはこちら
飯間智也 Tomoya Iima
1988年9月16日生
香川県出身・兵庫県在住
JPBA51期生(2017年1月~)
(※2008年~2013年もプロとして活動)
2009年『GPW-3』優勝
2017年『北海道オープン』優勝
2017年『北陸オープン』優勝
2017年『GPW-6』優勝
2018年『GPW-1』優勝
2019年『GPW-1』優勝
2022年、2023年『ジャパンオープン』連覇
他、入賞多数
プレーキューは『ZEN CUSTOM CUE』
ブレイクキューは『TⅡ Factory』
ジャンプキューは『GO JMP』
使用タップは『KAMUI』
使用チョークは『SUPER DIAMOND CHALK』
専属:『ビリヤードジム AMII』
スポンサー:株式会社フルカウント、BAR SHOOTERS、BANDEL
金額は空白欄に適当に(15円から)書きこんで下さい(あらかじめ入っている金額はAmazonの設定なので気になさらないでください)。受取人は 「 billiardsdays@gmail.com 」です。よろしくお願いいたします。