BAGUSメモリー2

道玄坂店で西尾プロに見せてもらった「透明な先角(さきづの)」。本文とは何の関係もありません……
道玄坂店で西尾プロに見せてもらった「透明な先角(さきづの)」。本文とは何の関係もありません……

 

(承前)

僕のテーブルに近付いてきたのは……

もちろん初めて会う男性でした。

前もって言っておきますと、

プロ、あるいは後にプロになる人ではありません。

 

年のころ20代後半で、当時の僕と同じぐらいか

ちょっと上かな? という印象。

 

カットソーにデニムにスニーカーで、髪型はさっぱり。

少しヒゲを生やしてて、ちょっとヤンチャな目つきをしてて、

よくビリヤード場で見るような、というより、

ビリヤード場によく生息している系の外見でした。

 

「良かったら一緒に撞きませんか」

 

にこやかでも、おどおどするでもなく、

むしろ少しぶっきらぼうな発声。

 

ビリヤード場で見知らぬ人と相撞きをするのは、

初めてではなかったですが、

それは友人などがセッティングしてくれたもの。

声を掛けられたのは初めてでした。

 

僕は少しドキドキしながら

「あ、大丈夫ですよ。お願いします」と

答えた記憶があります。

 

「き、きた、これが相撞きの誘いってヤツかぁ」などと

内面でウブウブしつつ。

 

そして、相手のテーブルへ移動。

 

その男性、Mさんとしましょう。

Mさんが聞いてきます。

「クラスは? セット数は?」

 

もじもじする純情派。

「えーっとですねぇ……」

当時の僕はまだこれを知らなかった。

 

Mさんはそこで「ふっ」と少し笑いました

(というか、わかる人はわかると思いますが、

「シフトチェンジした」んだと思います)。

 

「観た感じ、まだCクラスだよね。

僕はポケットはBクラスでやってるんだ。

じゃあ、僕が4で、えーっと小林さん?

小林さんが3でやろうか」

 

ああ、なんとなくハンデを頂いちゃってるのは

わかるぞ。ゲームはナインボールだよな。

「ポケットは」ってどういう意味だ?

……まあ、それはいいや。

 

「わかりました」

 

そこから、ナインボールが始まりました。

Mさん4ゲーム先取・僕3ゲーム先取の。

 

緊張しながらも楽しくプレーしました。


もちろん相手の方がはるかに上手いというか、

シュートをミスることもあるんですが、

判断を迷うことなくビシバシ撞いてきます。

 

Mさんのプレーを見て、多分僕はウブに

「なるほどぉ」とか頷いちゃってたと思います。

 

でも、僕もポジションは全然出てないながらも、

入れるのだけは頑張っていて、

ゲームの体裁は成していたと思います。

 

2試合やって1勝1敗か、3試合やって僕の1勝2敗か。

一つ勝ったと記憶しています。

今から思えば「一つ勝たせてもらった」のでしょう。

 

撞き終わった僕は、緊張感から解放されると同時に、

体の芯から熱くなるような昂ぶりを覚えていました。

 

「ビリヤードおもしれー。

知らない人との相撞きって最高だ」という内なる叫び。

 

どんだけ純情派。

今、思い出しながら書いてて

我ながら恥ずかしくなってます(笑)。

 

続く。