メモリアルな節目にふさわしい
端正で堂々たるルックス。
曲線を巧みに取り入れた優美な意匠。
贅を凝らし、細部にもこだわった工作。
このデザインパターンは初めてのはずなのに
「あ、ジナだ」と直観に訴えかける存在感。
眼福。
アメリカンカスタムキューの老舗にして
今も高い人気を博しているメーカー、
Gina Cue(ジナ・キュー)。
創始者のErnie Gutierrez
(アーニー・ギュテレス)は
名匠として知られ、
彼が創り出すキューには、
世界中にファンがいます。
もちろん日本にも。
さて、そのジナの、
世界に50本しかないと言われる
「50周年記念モデル」が
日本に入ってきました。
所有者は、
UK Corporation代表・大原秀夫氏です。
大原氏は以前からアーニーと親交があり、
「50周年モデルを購入する50名」のリストに
以前から入っていました。
先日アメリカ・デンバーで行われた
『ICCS』
(International Cue Collectors Show)の際、
アーニーからこのキューを直接受け取った
大原氏はとても興奮したそうです
(渡す側のアーニーも高ぶっていたそう)。
2013年製作のこのキューは、
エボニー(黒檀)をベースにして、
ゴールド・シルバー・バールウッドなどの
材料を惜しげも無く使いながら、
豪奢で品のあるデザインになっています。
優美な弧を描くインレイ部と、
緻密な作りこみがなされたリング部の
コントラストも美しいですね。
一説には、このキューの製作を最後に
引退するとも言われているアーニー。
その辺りも含めて、
このキューを眼前に置きながら、
大原氏にお話をうかがってみました。
――この50周年モデルのデザインは、
ジナの過去のモデルが原型に
なっていたりするのでしょうか?
「いや、これは私も初めて見るもので、
恐らく前例はないでしょう。
しいて言えば、
『ラスプーチン』の進化系でしょうか。
『40周年記念モデル』も
曲線を活かしたデザインでしたので、
そこからのインスパイアも感じられますね。
でも、このリングは……
何にインスパイアされたかが
ちょっとわかりません。
そして、インレイの縁に
ゴールドとシルバーを
使い分けているのも初めて観ました。
ワンポイントで使われている木は、
明るいバール系の材料でしょう」
――50本限定。全て同じデザインですか?
「そうです。デザインは全く同じ。
カスタムキューと言いながら
プロダクションタイプのキュー
ということですね。
付け加えますと、
それが昔からのアーニーのやり方です。
彼はカタログを作って
そこに載せたデザインをベースに
長年受注販売してきました。
英語がわかる人なら、
カタログに記載されたアドバイスに従って
ベースデザインを決めてから、
オプションで色々なオーダーをすることが
可能ですし、そうすれば
『一点物』を頼むこともできます」
――大原さんは、アーニー本人から
手渡しでこれを受け取ったそうですね。
「はい。恐らく私がこの50周年モデルを
本人から直接受け取った第1号じゃないかと
思います。
8月の『ICCS』の初日にアーニーに会い、
その日のうちに彼のホテルの部屋に
連れて行かれまして。
彼も気が急いていたのでしょう。
扉を開ける前に10分ほど、
『あっ、部屋のキーがない! どこだ!
……あ、私が持っていた』
みたいな感じで、一騒動ありまして。
彼が慌てる姿なんて初めて見ましたよ(笑)。
部屋の中にはごついフライトケースがあり、
その中にこのキューが7本ぐらい入っていました。
ケースはとても重たそうでしたし、
厳重に保管していた様子でしたね。
引っ張りだす時にアーニーが体を入れて
無理矢理出してきた姿が印象に残ってます。
でも、そのケースには千万円単位のものが
収まっていた訳ですからね。
そんな彼の姿を見て、このキューを
初めて手渡す顧客が私だったのではないか
という思いを強くしました。
余談ついでにもう一つ。
皆さんご存知のニック・バーナー
(アメリカのトップベテラン選手)は、
これの象牙ハンドル
(グリップ部が象牙)タイプを持っています。
つまり、多少バリエーションはあるはずですね。
アーニーはその象牙ハンドルのキューを使って、
ICCS初日のナインボールトーナメントで
デモンストレーションをしていました。
1時間ぐらい、そのキューで
球を撞いているところを皆に見せる訳です。
その時も、ものすごく高価なキューだけに、
アーニーは一時も手から
離すことはありませんでした。
待っている間も、
キュー尻を自分の靴の上に置いてましたよ」
――今回の50本全て、
行き先が決まっている訳ですよね。
市場に出てくることはないのですか?
「ええ、今回はアーニーの顧客に
優先的に話が行き、
なおかつ、一人1本しか
オーダーできないというやり方でした。
つまり、入手した人も、
仮にその1本を売ってしまうと
もう手に入らない可能性が高いでしょう。
だから、市場には……どうでしょうね。
私も今のところ売るつもりはありません」
――仮に、仮にですが、
もしこのキューが市場に出てきたら、
どのぐらいの価格になると思われますか?
「わからないですね。
もし自分が売るとしても
いくらを付けて良いかがわかりません」
――目安程度でもお願いします。
「そうですね……
強いて言えば、400~500万円でしょうか。
私はこのキューを日本で
一般のビリヤードファンの方々に
お見せしましたが、
『これは、500万円ぐらいですか?』
という反応はいただいています。
しかし、アーニーが本当に引退するなら、
その途端にマーケットが変わる可能性はあります
もちろんアーニー本人はそれもわかっています。
色々と賢いですよね(笑)」
――アーニーは本当に引退するのでしょうか?
「彼の説明では、
『このキューを作り終えたら引退』
ということでした。
これを顧客に渡し終わったら、
その前から入っていて止まっている注文などを
やり終えて、そこで引退するのかなと思います。
ただ、多くのカスタムキューメーカーが、
引退しようとした時に、
『リフィニッシュやリペアをどうするんだ』
と言われて、
結局スパっと引退出来ない状態になるのを
私は見てきています。
例えば、Joss West(ジョスウェスト)の
ビル・ストラウドも、
そんな形でやめられなくなって、
引退宣言をした後も、
5年ぐらいは年に1本ぐらいは作っていました。
それはあくまでコレクター向けに
作ったキューですけどね。
そういう例もありますので、
アーニーがどうなるかは、
私にもまだわからないという状況です。
……しかし、50年ですからね。
本当に素晴らしいことだと思いますし、
この記念モデルも
格別のものだと思っています」
(了)
※こんなジナキューも、以前ご紹介しました。
※本企画の過去記事はこちら
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