台湾の鄭喻軒(チェン・ユーシャン)の
初優勝で幕を閉じた
今年の『US OPEN』(10月末開催)。
日本からただ一人参戦していたのが
内垣建一プロ(JPBA)です。
結果は33位タイ。
5戦して3勝2敗でした。
「アマ時代から憧れていた舞台」と
語る内垣プロにとって、
これが7度目の参戦。
現・世界王者の柯乗逸を
TVテーブルで倒すなど、
今回も存在感をアピールしていました。
そんな内垣プロの目から見た今年の
USオープンとは?
帰国して数日後、
たっぷり語っていただきました。
…………
Kenichi Uchigaki
1969年1月29日生
JPBA28期生
『北海道オープン』2勝
『ハードタイムスオープン』準優勝
GPE、及び前身の東日本プロツアー優勝多数
USオープンには7回出場
使用キューはTAD
Supported by JPA、KINGDOME、TAD Custom Cue
内垣建一公式サイトはこちら。
――今回は33位タイ。
この結果をご自身ではどう捉えていますか?
「優勝から見るとずっと下ですから、
良かったとは言えないです。
だけど、今こうやって振り返ると、
自分なりには戦えたのかなと思います」
――5試合しましたが、
どの試合でも撞けた実感はありますか?
「正直言えば、一番最後の
D・オルコロ戦は、かなりボロボロでした。
それでも、
相手も良くなかっただけに、
『ひょっとしたら』が
あり得る展開だったんです。
それをものにできなかったのが
本当にもったいなかった。残念です」
――何が足りていなかったのでしょうか。
「あの試合に関しては、
こう言うのもあれですが、
調整ができてなかったなと思っています。
蓄積していた身体の疲れや
睡眠不足を回復できないまま
試合に向かってしまったので、
そこは反省しています」
――ですが、その一つ前では、
見事に現世界王者・柯乗逸を倒しました。
「USオープンのTVテーブルは
やっぱりすごく注目を集めますね。
観客だけでなく
トップ選手たちも大勢見ていました。
そんな所で撞けること自体が光栄だし、
そこで現役の世界チャンピオンに
勝てたというのは、
自分でもよくやったなと思っています。
Facebookでの反応や
メッセージなどもすごくて、
皆にあれだけ喜んでもらえたということが、
すごく嬉しかったですね」
――柯乗逸戦の勝因とは?
「ブレイクですね。
今回のUSオープンでつくづく、
"良いブレイクなくして勝利なし"
と思いました。
今回は、2回戦で負けたロシアのR・チナホフの
ブレイクにちょっとヒントを得て、
それをなぞるような感じで打ってみたら、
うまく割れました。
敗者ゾーンでの2勝は
それが大きかったですね」
――柯乗逸の印象とは?
「今回はブレイクが固まっていないように
感じられました。
そのせいでメンタル面も
良くはなかったのかもしれません。
でも、そこはやっぱり世界王者です。
『さすがだな」と感心してしまう
プレーが随所にありました。
球がね、すっごく綺麗でしたよ」
――ブレイクのお話が出ましたが、
今回はナインオンフットのブレイクボックスあり、
ラックシート使用のスリーポイントルール。
いわゆる「カットブレイク」を
使う訳ですよね。
(※真っ直ぐには当てない。
厚み・加減・撞点などにコツがある)。
「はい。
皆が皆やっていた訳でもないですが、
僕はカットブレイクを使いました。
でも、その秘訣を
言葉で表現するのは難しいですし、
繰り返し同じように打つのも難しいです。
すごく繊細なものなんですよね。
コントロールが必要なんだけど、
強さも回転もちゃんと乗ってないと、
スリーポイントをクリアできないんですよ。
その辺りの兼ね合いが難しくて、
そんなに楽ではなかったですね。
シェーン(バン・ボーニング)が、
今年上位フィニッシュできなかったのは、
効果的なブレイクが発見できなかった
からじゃないかと、僕は思っています」
ーー去年と大きく違うのが参加人数です。
256名から128名に半減。それによる違いとは?
「メンツが濃くなって締まってました。
今までだったらいたような……
まあ、変な表現ですが、
"楽な相手"がいないというのが大きいです。
初戦からいきなり高めていかないといけない。
皆めちゃくちゃ気合い入れて撞いてましたね。
といっても、
ブレイクも制約が多くて一筋縄ではいかないし、
ブレイク後の配置も基本的には楽ではない。
だから、そんなに簡単には撞けてなかった。
テーブルも難しいので、
技術の精度と幅が試されるような局面も多い。
それによって、
1回戦から好ゲームが続出していたので、
観る分にはかなり面白かったと思います。
僕自身も試合の合間に
他の選手のプレーを興味深く見ていました。
『どうやってブレイクするのかな』
『どうランアウトするんだろう』
という風に。
僕は試合がパターン化せず、
面白くなるのなら、
何か制約というか縛りがあった方が
良いと考える方なので、
今回のブレイクルールは嫌ではなかったです」
――エントリーフィーは1,000ドル。
高額ですね。
「そうなんですが、
勝者側で2回勝てば賞金は2,000ドルです。
敗者側で言うと3回勝てば良いのかな。
僕も今回2,000ドル獲得しています。
それだけ勝つだけでこの金額が出るというのは、
僕個人的には好きな設定です」
――でも、その「2回勝つ」が
簡単ではないですね。
「はい、各国代表クラスが出ていますし、
楽じゃないですね。
地元、アメリカのプレイヤーも
日本では無名に等しい人が多いですが、
強い人がいっぱいいますから」
――その他、昨年との違いとは?
「うーん、40週年記念大会ではあったけど、
そんなに派手でもなかったですね」
――昨年、賞金の支払いの問題がありましたよね。
それは?
「ああ、それについては
バリー・バーマン(主催者)が、
謝りまくってました。
今回は『アキュスタッツ』のP・フレミングが
賞金支払い窓口になっていて
お金の管理は彼がやってました。
今後もそうなるようです」
――今年のUSオープンで印象に残った
プレイヤーや国を言うと?
「アジアとヨーロッパが強かったですね。
アジアは、台湾、中国もそうだし、
フィリピンなんかはそんなに
出場数が多かった訳でもないのに、
結構上位の方に残ってくるし。
やっぱり強いです。
個人名を挙げると、今年印象的だったのは、
ロシアのチナホフと
アメリカのJ・バーグマンかな。
2人とも良い集中力を持ってると思いました。
バーグマンはボーニングに勝ってます。
それから、ドイツのベテラン、
O・オートマンも
すごくいい球撞いてましたよ。
シャキシャキっとした球をね。
こんな格好良かったっけ?
って思ってしまいました」
――今年優勝した鄭喻軒の印象は?
「自分のやるべき球撞きが
はっきりわかっていて、
それに対してすごく真っ直ぐというか、
実直な感じがしましたね。
丁寧に狙うし、構え直すことも厭わない。
かと言って遅くはない。
台湾のプレイヤーの多くがそうですが、
一旦集中すると、
余計なことを考えない。
清々しさや潔さがありますよね」
――USオープンの何が内垣プロを
惹きつけるのでしょうか?
「アマ時代からの憧れもありますが、
あのタフさが好きですね。
今、世界的な権威で言うと、
『世界選手権』が一番だと思います。
でも、世界一タフな試合は何?と
聞かれたら、
僕は迷わずUSオープンだと答えます。
USオープンは、
上手さと強さだけでは勝てなくて、
体力とガッツも求められる。
そこが面白いんですよ。
始めのうちは
他の試合と同じく技術の勝負で、
下手な人から順に
だんだん間引かれていくんですけど、
最後の方になると、
技術力の差とかではなく、
疲れで脱落していく人が出てくる。
それは見ていてわかります。
だから、ネームバリュー通りに
決まらないことがある。
上に行く人達は
ほんとすごいガッツを持ってます。
ボーニングはこの大会で3連覇しましたが、
信じられないぐらいすごいことですよ。
気持ちの強さが尋常ではない。
ああいうガッツは僕ら日本人に
ちょっと足りないかなと思う部分です。
唯一、そこに一番近付いたのは
奥村健プロ(2000年。現在はJPBFプロ)
でしょうね。
僕は現場にいて生で見ていました。
最後はE・ストリックランドに
負けてしまったわけですが、
そこまでの勝ち上がり方は本当にすごかった。
当時の海外のトップ選手たちを
"畳んで"ましたから」
――内垣プロはこの先も
USオープンに挑み続けるつもりですか?
「必ず出ると決めている訳ではないです。
やっぱり金銭的なことも含めて、
簡単に決められることではないので、
毎年毎年、出るかどうかをちゃんと
吟味したいと思っています。
ただ、アメリカ国内でも
良い試合はどんどん減っています。
アメリカで何に出る?ってなったら、
やっぱりUSオープンは上位候補になってきます。
だから、確定はしていないけど、
もし来年も出るのであれば、
賞金はきっちり取れるように
準備はしていきたいと思います」
(了)
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