オレの名は、K。探偵屋だ。
BD最初の依頼は、「ハギ」に対する調査だ。
長い方が良いのか? 尖っている方が良いのか?
ふむ、至極まともな疑問だな。
まず「ハギ」というのは、
「接ぐ」(はぐ)という日本語が語源。
つまり二つのものをつなぎ合わせること。
キューの「バット部分」を製作するとき、
十分な長さを確保するため、
二種類の木をつないだ部分を
「ハギ」と呼んでいるんだ。
そいつは、接合する木材に切り込みを入れて、
嚙み合わせて接着したもの。
こいつを丸く削ると
先端が鋭く尖った山型の接合面が現れる。
↑ Richard Chudy(リチャード・チュディ)の「スニーキーピート」(1997年作)
これが「ハギ」の正体だ。
先端が尖っていることから「剣ハギ」とも呼んでいる。
つまり、「ハギ」は
必要な強度さえあれば良い「構造」だった。
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ところが、アメリカのカスタムキューメーカーたちが、
1960年代にとんでもないことを考え付いた。
「二種類の木をつなぐなら、
金属のボルトでいいんじゃね?」
これは実に合理的な手法だった。
しかし、プレイヤーは常に保守的だ。
「ハギがないとキューらしくない」
そこでボルトでバットの前半と後半をつないでも、
ハギは残した。
ハギは構造上の強度を受け持つ役割を放棄し、
重量バランスを整えるという役割だけを残し
デザインの一要素に変わった。
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しかし、アメリカ東海岸と西海岸では、
そのやり方が違った。
東海岸のバラブシュカやパーマーは、
一旦組んだ剣ハギを切断し、ボルトでつなぎ直した。
60年代末には、
ザンボッティが最初から切断された状態のハギを組み、
ボルトでつなぐようになった。
どちらも糸巻や革巻きで根元を隠せば見た目は変わらない。
ニューヨークやシカゴあたりの、
保守的なプレイヤーの好みだったんだな。
少量生産メーカーではリチャード・ブラックや
ティム・スクラグス、ポール・モッティなどが
フォロワーとして登場し、
量産メーカーではメウチ、
更には日本のアダムがこの手法にこだわった。
一方、西海岸メーカーはぶっちゃけていた。
「見た目がハギっぽいインレイ入れても一緒じゃね?」
ジナキューが、ハギと同じ形に溝を彫り、
ハギで使われる銘木を
インレイとしてはめ込む手法を考えついた。
これはデザインに大きな自由度を与え、
ハギに使う高価な銘木の量も節約できることもあり、
いいことづくめだった。
ただ、インレイゆえに
ハギの先端を限りなく尖らせることは、
当時の技術では困難だった。
先端が丸いハギの誕生だ。
↑JOSS(ジョス)の「モデルNo.8 4剣インレイハギ」(1987年作)
この「インレイハギ」はタッドやシュレーガー等、
アメリカ西海岸のメーカーを中心に広がった。
陽光降り注ぎ、サンセット大通りを美女をはべらせ
ビーチボーイズをかけながらコンバーチブルで飛ばす、
お気楽極楽なカリフォルニアの連中は、うらやましい
……いや違った、伝統にこだわらなかったんだな。
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早い話、ハギづくりは二派に分かれたわけだ。
その後はどちらも進化し、過激化する。
「昔ながらの剣ハギが良い」
という一派は、剣ハギの精度や美しさに磨きをかけた。
ハギのルネッサンス(古典回帰)を目指した、
ボルトを使わずハギに強度を持たせたキューを作る
ハーセックやブラッククリーク、
剣ハギをどんどん長くして、
ジョイント部まで届くまで伸ばした
ランブロスやカポーンといったメーカーも出てきた。
ただ、製作時に高価で貴重な銘木を削りまくり、
手間もかかるこの手法は、今や少数派だ。
「自由なインレイハギが良い」
というもう一派は、ハギの本数を増やしたり、
様々な形のハギを生み出した。
更に進化すると、ハギがあるべき位置に大振りな、
ハギとは言い難い形のインレイを入れた、
コグノセンティなどのメーカーまで登場した。
工作機械の精度が上がった最近では、
エクシードのように、剣ハギと見まがうばかりの
精緻なインレイハギを持つキューも珍しくない。
生産効率の良さから、
80年代半ばごろから数々の量産メーカーにも
広く採用されるようになったこともあり、
今や主流となったのはこっちだ。
*****
結局のところ、
キューの強度を受け持たなくなった時点で、
長い・短い、尖っている・丸いは、
どうでも良くなったってわけだ。
それで価値が決まるわけでも、
入らない球が入るようになるほどの
違いを生み出すわけでもねえ。
「ハギは長ければ長いほど良い」とか
「尖っている方が本格的」、
「丸い方がカワイイ」とか言うのは……、
まぁ、あれだ、オトコのロマンってやつだな。
ただ「イカすぜ!」って思えたら、それでOKだ。
細かいところにこだわりすぎると、
キューコレクションの迷路にはまり込むぜ。
オレみたいにな。
またなんかあったら聞いてくれ。
報酬はスイス銀行の口座に……って嘘うそ。
ネット銀行の口座で良いでーす♪
よろしくね、BD!
(to be continued…)
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Detective "K"――ディテクティブKについてはこちら。
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