オレの名は、K。探偵屋だ。
だから皆オレのことをDetective "K"と呼んでいる。
ビリヤードの道具、キューの調査なら任せてくれ。
2月はヒマだ。
玉屋に行っても手球・的球が転がっているだけ。
ネタ、つまり探偵の仕事は転がっちゃいねぇ。
ぷるぷるぷる……。
おや? BDからの電話だ。
「カスタムキューのバットに、
ハイテクシャフトを付けて撞くのはアリなんですか?」
BD、古くて新しい調査だな。
ただ、そのテーマは幅が広い。
これに触れたとたん3杯はごはんが……、
いや違った、3回は連載が続くぜ。
「わかっています。
高価なカスタムキューを手に入れても、
純正『ノーマル』シャフトを使わず、
後付けのいわゆる『ハイテク』シャフトに
交換するプレイヤーがいます。
その是非を調べてほしいのです」
なるほど、それは3回と言わず、5回でもイケる……。
「『キュー探偵K』は一話完結。
水増しと読者置いてけぼりの暴走はダメですよ!」
ちっ、相変わらずシビアだな、BD。
わかった、オレはキュー探偵。
引き受けるぜ、その依頼。
*****
BDの依頼は、アバウトだが奥の深い、
様々なテーマを含んでいる。
従って依頼内容の行間を読み、
テーマを絞らないと調査できない。
今回は、
「カスタムキューの純正シャフトを使わず、
他メーカー製のシャフトを装着するのは、
良いのか悪いのか?」
ということだ。
「ハイテク」「ノーマル」とは何ぞや?
という定義は、この際棚上げだ。
その言葉の成立過程も含め、いずれ語るときが
来る……来るかも……来ないかな?(汗)
*****
現在ではあまり使われなくなった表現に
「〇〇使いの誰々」
というのがある。
プレイヤーの名前と、
キューメーカー名がセットになって呼ばれることだ。
そのキューが高価であればあるほど、
希少であればあるほど、
そして使いこなすのが難しければ難しいほど、
他のキューでは出せないショットを操れる
上級者とされていた。
80年代から90年代のタッドや
リチャード・ブラックが、その代表格。
バラブシュカやガス・ザンボッティは希少すぎて、
その上を行く存在だった。
この「じゃじゃ馬使い」を是とする日本独特の風潮、
アメリカのキューメーカーたちに
それを説明したこともあったが、
彼らは納得しなかった。
「使いづらいキューを、なぜ選ぶ?」
至極当然の疑問だ。
「カウボーイのロデオみたいなもの」
と説明したら、半分ぐらいわかってくれた。
ま、20年以上前の話だ。
*****
キューのシャフトは消耗品。
長年の使用で細くなり、
コシがなくなったと感じた時、
あるいは曲がったり折れたりした時は交換が必要だ。
その対策は、
スペアシャフトをあらかじめ購入しておいたり、
キューメーカーに新品シャフトを注文したり、
というのが常識だった。
使用中のシャフトに寿命がきたと感じたら、
同じスペックのシャフトに交換していたわけだ。
そこに1994年、プレデター314シャフトが登場した。
開発したクローソン・キュー社(現プレデター社)は、
当初シャフトのみ製作していた。
キューメーカー純正のシャフトより
手球のトビを抑えた上に、
より多くのヒネリを与えることができるという
優れた特性を持つ「交換用シャフト」という、
新しい製品ジャンルを生み出した。
*****
プレデター314をまず購入したのは、
量産メーカー製のキューオーナーたちだった。
プレデター社は、
様々なメーカーのキューに装着できるよう、
バットとジョイントを接合する
複数のネジ規格に対応した。
シャフトとバットの
ジョイント部分における外径が若干違うとか、
ジョイントカラーのデザインが合わないとか、
細かいことは気にしないプレイヤーにとって、
ショップに在庫さえあれば、
すぐに手に入ったことも魅力だった。
高価なカスタムキューのオーナーたちは、
当初プレデター314シャフトを「キワモノ」扱いして、
見向きもしなかった。
ところが、カスタムキューと言えども、
ネジ規格さえ合えばプレデター314は装着可能。
その優れた特性が評価されるようになると、
使用している純正シャフトに寿命が来ていなくとも、
プレデター314に換装するプレイヤーが増え始めた。
さらに1990年代末から2000年代初めにかけて、
タイガーXシャフト、OBシャフトなど、
新興メーカーから続々と交換用シャフトが登場。
「交換用シャフト」への流れは
誰にも止められなくなった。
*****
それに異を唱えたのが、
主としてプレデター314登場以前から
プレーしていたベテランと、
少量生産のカスタムキューメーカー。
「キューの特性は、
バットとシャフトのトータルで設計され、
生み出されるもの」
「ムクのメイプル材から、時間をかけて削り出した
シャフトの打感や打音が最高」
「時間をかけて撞き込み、キューの癖や特徴を
自分のものにするプロセスが大切」
などなどの理由から、
純正シャフトの方が良いと主張した。
しかしホンネは、
シャフトを付け替えてしまえば、
高価なカスタムキューも、普及価格の量産キューも
変わらなくなるから許せない、
ということだろう。
もっとも、その考え自体が交換用シャフトの
性能を認めていることに他ならないんだがな。
*****
さらに交換用シャフトメーカーは、
ジョイントネジ部が未加工の半完成品
「パーシャルシャフト」まで市販するようになった。
これをキューリペア工房に持ち込み、
手持ちのキューに合わせて
ネジとジョイントカラーを加工してもらえば、
見た目純正と変わらないシャフトが出来上がる。
ここで問題になるのが、
「ジョイントリング」と呼ばれる、
バットとの接合部に取りつけられたパーツ。
特にカスタムキューメーカーには、
凝った装飾が施されているものが多い。
純正シャフトからこのリングを外して、
パーシャルシャフトに取りつけることを
「リング移植」とか、「サルベージリング」と呼ぶ。
純正シャフトはリングを外す際削られ、
使い物にならなくなる。
にもかかわらず、新品未使用のシャフトから
リング移植をして欲しいという注文すらあると聞く。
何年も寝かせたメイプル材を、
数ヶ月から数年かけて少しずつ削り、
適さないと判断したものは捨てて、
選び抜いて製作された純正シャフトだ。
それを使わないままつぶすのは、もったいない。
製作したカスタムメーカーに失礼だとオレは思う。
*****
現在では、量産メーカーは独自に開発した
高性能シャフトを標準装備し、
少量生産メーカーでさえ、オプションで他社製の
シャフトを選べるようにしているところもある。
最初は交換シャフトだけを製作していた
プレデター社やOB社は、
今や数々のキューを製作する総合メーカーだ。
プレデターREVOのように、
カーボン複合材を用いたシャフトまで市販される時代。
昔ながらのムクのメイプル材から削り出した
純正シャフトは、今や絶滅危惧種。
それでも、性能だけにこだわらず、
手に伝わる振動や、響いてくる音、
そして手触りも含めプレイヤーの感性に訴えてくる、
「キューのレスポンス」を味わうのも
ビリヤードの楽しさ、というのがオレの考えだ。
ふぅ、今回はマジメに調査してしまったな。
またなんかあったら調べるぜ。
よろしくね、BD!
(to be continued…)
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世界に誇るMade in Japanのキューブランド。MEZZ / EXCEED
創造性と匠の技が光る伝統の国産キュー。ADAM JAPAN
ビリヤードアイテムの品揃え、国内最大級。NewArt
末永くビリヤード場とプレイヤーのそばに。ショールームMECCA
カスタムキュー、多数取り扱い中。UK Corporation
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