〈BD〉「後付けハイテクシャフトは、アリ? なし?」――Detective “K” episode 07

カスタムキュー+ハイテクシャフトの例: 1995年製サムサラとプレデター314-3
カスタムキュー+ハイテクシャフトの例: 1995年製サムサラとプレデター314-3

 

オレの名は、K。探偵屋だ。

 

だから皆オレのことをDetective "K"と呼んでいる。

 

ビリヤードの道具、キューの調査なら任せてくれ。

 

2月はヒマだ。

玉屋に行っても手球・的球が転がっているだけ。

 

ネタ、つまり探偵の仕事は転がっちゃいねぇ。

 

ぷるぷるぷる……。

 

おや? BDからの電話だ。

 

「カスタムキューのバットに、

ハイテクシャフトを付けて撞くのはアリなんですか?」

 

BD、古くて新しい調査だな。

 

ただ、そのテーマは幅が広い。

 

これに触れたとたん3杯はごはんが……、

いや違った、3回は連載が続くぜ。

 

「わかっています。

 

高価なカスタムキューを手に入れても、

純正『ノーマル』シャフトを使わず、

後付けのいわゆる『ハイテク』シャフトに

交換するプレイヤーがいます。

その是非を調べてほしいのです」

 

なるほど、それは3回と言わず、5回でもイケる……。

 

「『キュー探偵K』は一話完結。

水増しと読者置いてけぼりの暴走はダメですよ!」

 

ちっ、相変わらずシビアだな、BD。

 

わかった、オレはキュー探偵。

 

引き受けるぜ、その依頼。

 

*****

 

BDの依頼は、アバウトだが奥の深い、

様々なテーマを含んでいる。

 

従って依頼内容の行間を読み、

テーマを絞らないと調査できない。

 

今回は、

 

「カスタムキューの純正シャフトを使わず、

他メーカー製のシャフトを装着するのは、

良いのか悪いのか?」

 

ということだ。

 

「ハイテク」「ノーマル」とは何ぞや?

という定義は、この際棚上げだ。

 

その言葉の成立過程も含め、いずれ語るときが

来る……来るかも……来ないかな?(汗)

 

*****

 

現在ではあまり使われなくなった表現に

 

「〇〇使いの誰々」

 

というのがある。

 

プレイヤーの名前と、

キューメーカー名がセットになって呼ばれることだ。

 

そのキューが高価であればあるほど、

希少であればあるほど、

そして使いこなすのが難しければ難しいほど、

他のキューでは出せないショットを操れる

上級者とされていた。

 

80年代から90年代のタッドや

リチャード・ブラックが、その代表格。

 

バラブシュカやガス・ザンボッティは希少すぎて、

その上を行く存在だった。

 

この「じゃじゃ馬使い」を是とする日本独特の風潮、

アメリカのキューメーカーたちに

それを説明したこともあったが、

彼らは納得しなかった。

 

「使いづらいキューを、なぜ選ぶ?」

 

至極当然の疑問だ。

 

「カウボーイのロデオみたいなもの」

と説明したら、半分ぐらいわかってくれた。

 

ま、20年以上前の話だ。

 

*****

 

プレデター314の最初のパンフレット
プレデター314の最初のパンフレット

 

キューのシャフトは消耗品。

 

長年の使用で細くなり、

コシがなくなったと感じた時、

あるいは曲がったり折れたりした時は交換が必要だ。

 

その対策は、

スペアシャフトをあらかじめ購入しておいたり、

キューメーカーに新品シャフトを注文したり、

というのが常識だった。

 

使用中のシャフトに寿命がきたと感じたら、

同じスペックのシャフトに交換していたわけだ。

 

そこに1994年、プレデター314シャフトが登場した。

 

開発したクローソン・キュー社(現プレデター社)は、

当初シャフトのみ製作していた。

 

キューメーカー純正のシャフトより

手球のトビを抑えた上に、

 

より多くのヒネリを与えることができるという

優れた特性を持つ「交換用シャフト」という、

新しい製品ジャンルを生み出した。

 

*****

 

1987年製のショーンR6+日本に持ち込まれた 最初期(1995年製)のプレデター314
1987年製のショーンR6+日本に持ち込まれた 最初期(1995年製)のプレデター314

 

プレデター314をまず購入したのは、

量産メーカー製のキューオーナーたちだった。

 

プレデター社は、

様々なメーカーのキューに装着できるよう、

バットとジョイントを接合する

複数のネジ規格に対応した。

 

シャフトとバットの

ジョイント部分における外径が若干違うとか、

ジョイントカラーのデザインが合わないとか、

細かいことは気にしないプレイヤーにとって、

ショップに在庫さえあれば、

すぐに手に入ったことも魅力だった。

 

高価なカスタムキューのオーナーたちは、

当初プレデター314シャフトを「キワモノ」扱いして、

見向きもしなかった。

 

ところが、カスタムキューと言えども、

ネジ規格さえ合えばプレデター314は装着可能。

 

その優れた特性が評価されるようになると、

使用している純正シャフトに寿命が来ていなくとも、

プレデター314に換装するプレイヤーが増え始めた。

 

さらに1990年代末から2000年代初めにかけて、

タイガーXシャフト、OBシャフトなど、

新興メーカーから続々と交換用シャフトが登場。

 

「交換用シャフト」への流れは

誰にも止められなくなった。

 

*****

 

それに異を唱えたのが、

主としてプレデター314登場以前から

プレーしていたベテランと、

少量生産のカスタムキューメーカー。

 

「キューの特性は、

バットとシャフトのトータルで設計され、

生み出されるもの」

 

「ムクのメイプル材から、時間をかけて削り出した

シャフトの打感や打音が最高」

 

「時間をかけて撞き込み、キューの癖や特徴を

自分のものにするプロセスが大切」

 

などなどの理由から、

純正シャフトの方が良いと主張した。

 

しかしホンネは、

 

シャフトを付け替えてしまえば、

高価なカスタムキューも、普及価格の量産キューも

変わらなくなるから許せない、

ということだろう。

 

もっとも、その考え自体が交換用シャフトの

性能を認めていることに他ならないんだがな。

 

*****

 

様々なジョイントリング例
様々なジョイントリング例

 

 

さらに交換用シャフトメーカーは、

ジョイントネジ部が未加工の半完成品

「パーシャルシャフト」まで市販するようになった。

 

これをキューリペア工房に持ち込み、

手持ちのキューに合わせて

ネジとジョイントカラーを加工してもらえば、

見た目純正と変わらないシャフトが出来上がる。

 

ここで問題になるのが、

「ジョイントリング」と呼ばれる、

バットとの接合部に取りつけられたパーツ。

 

特にカスタムキューメーカーには、

凝った装飾が施されているものが多い。

 

純正シャフトからこのリングを外して、

パーシャルシャフトに取りつけることを

「リング移植」とか、「サルベージリング」と呼ぶ。

 

純正シャフトはリングを外す際削られ、

使い物にならなくなる。

 

にもかかわらず、新品未使用のシャフトから

リング移植をして欲しいという注文すらあると聞く。

 

何年も寝かせたメイプル材を、

数ヶ月から数年かけて少しずつ削り、

適さないと判断したものは捨てて、

選び抜いて製作された純正シャフトだ。

 

それを使わないままつぶすのは、もったいない。

製作したカスタムメーカーに失礼だとオレは思う。

 

*****

 

現在では、量産メーカーは独自に開発した

高性能シャフトを標準装備し、

少量生産メーカーでさえ、オプションで他社製の

シャフトを選べるようにしているところもある。

 

最初は交換シャフトだけを製作していた

プレデター社やOB社は、

今や数々のキューを製作する総合メーカーだ。

 

プレデターREVOのように、

カーボン複合材を用いたシャフトまで市販される時代。

 

昔ながらのムクのメイプル材から削り出した

純正シャフトは、今や絶滅危惧種。

 

それでも、性能だけにこだわらず、

手に伝わる振動や、響いてくる音、

そして手触りも含めプレイヤーの感性に訴えてくる、

「キューのレスポンス」を味わうのも

ビリヤードの楽しさ、というのがオレの考えだ。

 

ふぅ、今回はマジメに調査してしまったな。

 

またなんかあったら調べるぜ。

よろしくね、BD!

 

(to be continued…)

 

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