私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
皆から単に”K”、
あるいは「なんちゃらK」と呼ばれている。
「でぃてくてぃぶけい」を10回続けて言うと、
「でででぶけー」になってしまうからだ。
ここ数ヶ月、身を潜めていた。
別に不祥事を起こしたわけじゃないんだがな。
ピコッ!
ココのブログ主、BDからメッセージだ。
ヤツからのメッセージは放置していたんだが、
既読にしておくか……。
『そろそろ、穴から出て来てください。
調査依頼ですよ。』
見捨てられたわけじゃないんだな、BD。
『短命、あるいは極端な寡作なのに知名度が高く、
人気のメーカーを調べてください。』
ちっ、自分が長身だからといって、
いきなりハードルを上げてきやがったな、BD。
マイナーなのに、メジャーという矛盾したメーカーだな。
皆がその名を知っているのに、
実物にお目にかかるのは難しいというヤツだ。
それならばいくらでも……ぐふぐふぐふふ。
『……! Kだけが知っていて、
誰も知らないメーカーはダメですよ。』
くっ。見抜かれているな。
わかった、オレはキュー探偵。
引き受けるぜその依頼。
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キューメーカーの評価は、撞いた時の特性とデザイン、
使われる素材で本来は決まるもの。
しかし、どれだけ多くのプレイヤーが評価するかで、
需要と供給のバランスは変わる。
量産メーカーのキューは、
「一人でも多くのプレイヤーが手にできるようにする」
のが基本。
よって、評価は価格設定や広告宣伝、
実際にそのメーカーのキューを所有する、
プレイヤーの多さによって決まる。
対照的に、少量生産メーカーは
「製作した分だけ売れれば良い」と考える。
広大な国土のアメリカでは、
地元のプレイヤーだけを相手にしている
「ローカルメーカー」も多い。
よってオーナーの数も少なく、その評価は限定的。
だが、何らかのきっかけで評判が広まり、
需要が供給を上回るメーカーが存在する。
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その状況を生み出す原因は、実はひとつではない。
有名プロや旅回りハスラーの使用により、
口コミで知名度が上がるパターン。
次に、メーカーが何らかの理由で
生産を止めた後に評価されるパターン。
そして、一部のコレクターが、
そのメーカーのキューを買い占めることで
市場に姿を現さないパターンだ。
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ま、ジナ、タッド、サウスウェスト、
ザンボッティなど、おなじみのメーカーは
皆が知っていることばかりだから、今回の調査対象外。
ここでは、名前を聞いたことあっても、
寡作ゆえ実物を見ることはほとんどない
キューメーカーを紹介しよう。
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Craig Petersen クレイグ・ピーターセン
1963年から1992年まで、途中数年間の中断を経て
イリノイ州シカゴ周辺で製作していたキューメーカー。
ガス・ザンボッティと並び評価されていたが、
1992年、46歳で早逝したことで更に価値が上がった。
コグノセンティキューの作者、ジョー・ゴールドに
キュー製作をアドバイスしていたこともある。
クラシックな4剣や8剣デザインに、
当時としては凝ったインレイワークが美しく、
現存するキューのほとんどはコレクター所有。
市場に出てくることはまずない。
キュー尻に刻まれた"CP"のモノグラムを見ると、
コレクターは普通興奮するが、
オレは漫画『すすめ!パイレーツ』を
つい想起してしまう。
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Frank Coster フランク・コスタ
ペンシルバニア州アレンタウンで、
1982年から1991年のわずか9年間、
一人で製作していたローカルメーカーで、
一風変わったデザインが特徴。
プロプレイヤー、アレン・ホプキンスが
1980年代に使用していたことで知られる。
亡くなった恋人の墓前で自ら命を絶ったという悲劇が、
その価値を高めた。
死後、彼の車から発見された数本のキューは、
通称「トランク・キュー」と呼ばれ、
高価で取引された伝説の逸品。
十数年前、売りに出されていた高級モデルを
手にする直前まで行ったが、
「そんなキューに興味があるのは、K、あなただけですよ」
というツッコミで断念した。
キュー探偵K史上トップテンに入る、痛恨の出来事だ。
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Ron Haley ロン・ハーレー
アーカンソー州スプリングデール在住のキューメーカー。
製作開始は1990年だが、自ら製作するだけでなく、
クリス・ニッティやアンディ・ギルバートをはじめ、
数多くのキューメーカーに
惜しげもなく製作ノウハウを伝授した
「キューメーカーズ・キューメーカー」的存在。
ただ、日本での知名度は低く、
国内で実物を目にすることは稀。
本人はコレクターズショーやエキスポに
しょっちゅう顔を出すが、
オーダーしたいという話題を振ると断られる。
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Randy Mobley ランディ・モブリー
フロリダ州在住のキューメーカー。
遅くとも1980年代には製作開始しているが、
「知る人ぞ知る」存在でプロフィールも謎。
個体が少ないため
本国アメリカでも実物を見ることは困難。
オレでさえ、電池内蔵で光る
ハロウィンデザインのキューが唯一手にした作品ゆえ、
まっとうな評価をしかねる難儀な存在。
本人とは一度話をしたことがあるが、
まるで学者かエンジニアのようなキューメーカーだった。
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Dennis Searing デニス・シアリング
フロリダ州ウェリントン在住。
ガス・ザンボッティの作品を
プレイヤーズキューとして愛用し、
ガスの死後、1991年から
キューを自ら製作するようになった。
ザンボッティの影響を強く受けつつ、
より高度で精緻なデザインにより
コレクター筋から絶大な人気を得た。
良く言えば研究熱心な性格が災い(?)して、
製作本数はごく少ない上に
一部のコレクターからのオーダーで手一杯なため、
入手は困難を極める。
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Jake Hulsey ジェイク・ハルゼー
2013年にインターネットフォーラム
『Azbilliard.com』で
「キュー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた、
テキサス州在住の新進メーカー
(※本記事のトップ画像)。
ハギの根元に一ひねり加えて、
出し尽くされたと思われていたハギのデザインを
斬新なものに生まれ変わらせたセンスが、
コレクター筋に高く評価されている
ビル・ストラウドが引退後、
彼に機材を譲ったのは有名な話。
オレ自身撞いたことがなく、
道具としての評価はできないが、
今一番そそられるメーカーだ。
*****
実物を見ることが稀なメーカーのキューは、
ネットが発達した今でも伝説の存在。
マニアやコレクターが群がる、誘蛾灯のようなもの。
ただ、「知る人ぞ知る」は
「知らない人はまったく知らない」ことの裏返し。
自己満足と呼ばれることを恐れていては、
寡作メーカーのキューは手に入らないぜ。
また依頼があれば調べるぜ。よろしくな、BD!
(to be continued…)
Detective “K”についてはこちら
…………
【10名にキュー探偵K・オリジナルステッカープレゼント!】
BD記:
ある日、Kから届いた一通の封書。
開けてみるとそこには、
ゴールドに輝くステッカー数十枚と
メッセージが……。
「キューケースに貼ったら、
皆、中のキューが何かを気にしちゃうステッカーで、
ライバルに差をつけよう! ――K」
そ、そうですか。
……ということで、
Kが自腹で作ったステッカーを、
10名様にプレゼントいたします。
BDが自腹で作った缶バッチも付けます。
ご希望の方は、
問い合わせフォームからご応募ください。
●お名前(ペンネーム可)
●メールアドレス
●以下のA・Bのどちらか(あるいは両方)にお答えください。
たくさん書いていただけるとKが喜びます。
A:『K』でこんなネタを読みたいという企画案
B:「こんなキューはイヤだ」選手権。さて、どんなキュー?
以上をご記入の上、お申し込みください。
厳正な抽選を行い、
当選者のみにお知らせをいたします。
その段階で、お名前・送り先など
詳細をお聞きします。
締め切りは7月末日。どうぞお気軽にご応募を。
あと、BDがしばらくの間
何枚か持ち歩くようにしていますので、
欲しい方は試合会場などで直接BDまで
(※直接ご希望された方には缶バッチはありません。
また、持ってないことや配り切っている場合もあります)。