私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
皆から単に”K”、
あるいは「なんちゃらK」と呼ばれている。
「でぃてくてぃぶけい」と、
正しく言えるのは探偵小説マニアぐらいだからだ。
日本の暑い夏、玉屋ほど過ごしやすい場所は無い。
温度・湿度には敏感なオーナーと客が多いからな。
撞かなくともつい足を運んで、涼をとるには最適だ。
ピコッ!
ココのブログ主、BDからメッセージだ。
調査依頼だ。
ヤツには夏休みってものがないらしい。
ま、探偵も一緒だがな。
『キュー好き、あるいはキューマニアが
口にする表現を集めてください。』
真夏向けのライトな調査だな。
『ワインやギターや車などを評価する時には、
独自の表現や通なフレーズが多々あります。
そのカスタムキュー版です。』
ふむ、「火打石のような香り」の白ワインや、
「音楽を奏でるようなエグゾーストノート」の
スポーツカーや、
「極上の枯れたトーンを持つ」ギターなど、
わかる人にはわかる表現ってやつだな。
『そうです。そのカスタムキュー版、
ありていに言えば「キューあるあるフレーズ」を
集めて欲しいのです。』
わかった、オレはキュー探偵。
引き受けるぜその依頼。
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キューの良さを他人にわかるよう伝えるためには、
言葉による表現が必要だ。
だが、それらは、人それぞれの趣味・嗜好が
反映された感覚的・抽象的・相対的なもの。
相手側に共通の価値観がなければ、
伝わらない不可解な表現。
そこで、BD読者の半分は「は?」と思うが、
残りの半分は「その表現、あるある~♪」と
思うような表現を集めてみた。
それらを、キュー探偵的見地から解説する。
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phrase 01「じゃじゃ馬」
真ん中以外の撞点を撞いた時に、トビやカーブが
大きいキューを「じゃじゃ馬」と呼ぶ。
しかし、決してネガティブではなく
「使いこなせれば、他のキューでは
無理なショットができる」という意味が込められている。
メーカーで言えば、
タッドやリチャード・ブラックに対して使われる、
というかその代名詞でもある。
「扱いが難しいキューを使いこなしてこそ上級者」
という考えが強かった時代を象徴する表現だ。
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phrase 02「扱いやすい」
「じゃじゃ馬」の反対語と捉えれば、
最近のキューはたいてい「扱いやすい」となる。
しかし、さほど特徴がない特性を持つキューに
対して「素直でつまらない」という
ニュアンスを含むことがある。
異性を友人に紹介する時に
「割と普通だけど、イイ人だから付き合ってみない?」
というようなもの。キュー好きが口にしたら、
その真意は何か、まず疑ってみるべき表現。
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phrase 03「味わいのある」
主としてインレイやハギなどの出来栄えに対して使う。
有名メーカーの作品でありながら、
ハギの高さが揃っていなかったり、
インレイが少し傾いたりしている
キューのオーナーに気遣った便利な表現。
アラを見つけても、はっきり言わないのが
大人の対応なのだ。ただ、それも「個性」と
割り切って愛するオーナーもいる。
晩年のバート・シュレーガーの作品は、その代表格。
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phrase 04「印鑑のような」
先角が軽く、短くなる傾向にある現在では珍しい、
1インチ以上の長さの先角を、
その外観から、「印鑑のような先角」と呼ぶ。
30年ほど前までは、長い先角=高級感あふれる仕様と
考え、あえて長めの先角に交換するプレイヤーもいた。
また、メウチのシャフトは、
1.25インチ長の先角が標準装備であるため、
メウチのキューそのものを指す場合も多い。
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phrase 05「長い」
キュー尻の、デルリン樹脂製バットエンドキャップが
一定の長さではないタッドを語る時に欠かせない表現。
「それ長い?」
「かなり長い」
「うわー、実物を見たい」
という会話がタッドオーナー同士では成り立つ。
ちなみに1.75インチを超えてくると
「長い」カテゴリに入る。
現在流行の、付けっぱなしバットエクステンションを
30年以上前に先取りした仕様に、
オレは敬意を払いつつ「長い」タッドを愛している。
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phrase 06「ファンシー」 “Fancy”
日本語のニュアンスでは、
猫やネズミや熊のぬいぐるみを売る
「カワイイ」雑貨店のイメージだが、
キューの世界では「そのメーカーの、
凝ったデザインが施された上位モデル」
を指す世界共通語。
有名カスタムキューメーカー、
「ジナ」「サウスウェスト」「ザンボッティ」
等の前に「ファンシー」と付けると、
国内外のコレクターは例外なく目の色を変え、
血圧や脈拍数が上がる。
それは、手に入れたくなるか、
少なくともチェックしておかなければならない
逸品に違いないからだ。
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phrase 07「EC最強」
メッヅキュー『EC』(現『EC7』)シリーズは、
ベーシックモデルながら、メッヅならではの
高いクオリティを持ったラインナップ。
好みのハイテクシャフトとタップに換装すれば、
上級モデル同等のパフォーマンスが
リーズナブルに得られる。
転じて、『EC』は、インレイやハギなどの
デザインにお金をかけたキューに反感を持つ
「アンチカスタムキュー」の代名詞となった。
ただ、「EC最強」と言いつつ、腕が上がってくると
キューを買い替えたくなるのがプレイヤーの心理。
結局はEXCEEDや、カスタムに宗旨替えする
プレイヤーも少なからずいるはずだ。
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phrase 08「古き良き時代の」
製作されてから、
20年ぐらい経過したキューに付けられる表現。
オレが初めてキューを手にした80年代後半には、
60年代後半のキューが「古き良き時代」の
作品だったが、現在では90年代後半に
作られたキューも、同じように呼ばれる。
「新しい=良い物」とは逆行する、
「古い物に対する郷愁や憧憬」の対象は、
世の流れと共に変わるもの。よって、
キュー好き同士の会話でこの表現が出たら要注意。
製作年代もメーカーも違うキュー同士、
例えばバラブシュカとランブロスの
優劣を比較するような、
不毛な論争に発展する可能性があるのだ。
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phrase 09「乾いた音」
撞いた時に甲高い音がするキューを
「乾いた音がする」と表現するプレイヤーがいる。
打球音は、先角の素材やタップ、シャフトやバットの
構造など多くの要素によって決まるが、近年は、
低く、こもった音がするキューが多いように思う。
かつては、キュー製作の最終チェックで、
ダミーのシャフトを付けてコンクリートの床に落とし、
音で出来栄えを判断していた
カスタムメーカーがいたという。
音で気持ちを高揚させてくれるキューは、
まさに「相棒」と呼ぶにふさわしい存在だ。
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phrase 10「枯れたシャフト」
立ち枯れたメイプルから作られたシャフト……
ではなく、使い込まれ、
手垢やチョークが入り込んで変色し、
木材自体も締まって硬さが増した状態を指す。
天然素材であるがゆえの変化は、
「キューを育てる」と同時に
「そのキューと共に上達する」楽しみを
プレイヤーに与えてくれるもの。
しかし、プレデターREVOなど人工素材を使用した
シャフトの登場で、やがては死語になるかもしれん。
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と、いくつかの表現を解説したところで、
文字数が尽きてしまった。
次回はさらに難解で、
ディープな表現を紹介していきたい。
よろしくな! BD!
~後編へつづく~
(to be continued…)
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