私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
皆から単に”K”、
あるいは「なんとかK」と呼ばれている。
ただ玉屋を徘徊する「K」なる人物程度の
認識しか持たれていないからだ。
探偵だから、それでいいのさ。
目立っていたら調査できないからな。
ピコッ!
ココのブログ主、BDからメッセージだ。
『前回の続き、
「キュー好き、あるあるフレーズ」の
後編をお願いします。』
ふっ、言わずもがなのことだ……。
『放っておくと、このテーマを何回でも
続けそうですから、念のためです。』
…………バレたか。最低でも三回は……。
ピコピコピコッ!
再びメッセージだ、怒ったような着信音だな。
『さっさと進めてください!
「後編」ですよ「後編」!』
……わかったよ。
それでは後編、いくぜ。
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phrase 11 「パワーのある」
キュー自体に動力があるわけではないのに、
キューの特性を語る時に使われるフレーズ。
的球に対して、厚い配置のショットを撞いた際、
的球のスピードがプレイヤーの感覚より速い、
あるいは手球が的球を押しのけるような
フォローショットが撞きやすいといった
キューに対して使われる。
キューの重さや、重さバランスが
ある程度影響するとは思うが、
「あくまでも個人の感想」レベルの
表現に過ぎないと思う。
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phrase 12 「キレる」
感情のバクハツを行動や言葉に表したもの
……ではない。
手球のヒネリや押し引きの回転を
与えやすいキューに対して使われる。
かつては「キレる」キュー=見越しが大きく、
使いこなすのが難しいという傾向だったが、
いわゆる「ハイテクシャフト」の登場により
「キレも良く、見越しも少ない」キューが増えた。
とはいえ、手球に多くの回転を与えつつ、
狙った厚みに高い精度で当てられるかどうかは、
プレイヤーの技術次第。
つまり「キレる」のはキューではなくプレイヤーだ。
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phrase 13 「ブシュカ」「ザンボ」「コグノ」
「サウス」「ランブ」
有名なキューメーカー名は、
三音節に切り詰められることが多い。
故ジョージ・バラブシュカは、
アメリカで「ブシュカ」と呼ばれていたため、
日本でも同じ表現が使われる。
ザンボッティの「ザンボ」、
コグノセンティの「コグノ」は日本独特の表現だ。
「サウス」はサウスウェストの略だが、
「南西」を「南」と呼んでも通じるのは
そのブランド力ゆえ。
ランブロスの「ランブ」に至っては、
PCやスマホに打ち込むと
「乱舞」と変換されてしまう。
ただ「エクシード」や「プレデター」など、
微妙に略しづらい場合はそのまま。
元々短い名称のメーカーは短縮されない。
アダムを「ダム」とか、ジナキューを
「ジー」などと呼ぶヤツに会ったことはない。
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phrase 14 「ガス」「バリー」
さらに、「ザンボ」の場合は、ガスとバリーの
親子二代に渡り製作されているため、
ファーストネームだけで通じてしまう。
一見しただけではどちらの作品か
判別しかねる場合、「これバリー?」と、
息子の名前を先に出すのがマニア間のお約束。
仮に父親の作品だとしたら
「いいえ、ガスの作品です」と(優越感を持って)
否定出来るのがオーナーの特権だからだ。
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phrase 15 「タッドさん」「フレッド」
同じ親子二代でも、技術やビジネスを長年に渡り、
徐々に継承したタッドの場合は、
ザンボッティとは事情が異なる。
息子フレッドになっても「タッド」がブランド名の
ままゆえ、オーナーはザンボッティほど
親子どちらの作品か、さほどこだわらないのだ。
ただ、父を「タッドさん」と呼ぶのに対し、
息子は「フレッド」と、なぜか「さん付け」しない。
せめて「フレッドくん」と呼ぶべきで、ましてや単に
「ムスコ」呼ばわりするのはいかがなものか。
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phrase 16 「ステン」「樹脂」
キューの構造上、シャフトとバットを分割する
ジョイントは重要なパーツ。そのジョイントにおいて、
バット側接合部を補強するのが「カラー(collar)」、
日本語では「中輪(なかわ)」と呼ばれる円筒形の部品。
この材質がステンレススチール製のものが「ステン」。
かつて普及品には錆びやすい
真鍮製のカラーが使われていたため、
錆びにくく、キラリと光る「ステン」は
高級感のある仕様とされていた。
現在では、高級カスタムキューにおいても
合成樹脂製のカラー、通称「樹脂」が増え、
「ステン」は減少傾向。
よって、「樹脂」=「イマドキのキュー」、
「ステン」=「え? まだそんなキュー使っているの?」
的なニュアンスを感じさせられる。
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phrase 17 「ワンオブアカインド」“One-of-a-kind”
同一メーカーで、同じデザイン・材料を使った
キューが二本とない、いわゆる「一点もの」のこと。
他のプレイヤーと同じキューは持ちたくない気持ちを
射止めるための殺し文句だ。
特注する場合は、「あのメーカーが、自分のためだけに
特別なデザインのキューを製作してくれる」
という思い入れを表すのに良く使われる。
しかし、少量生産メーカーの場合は、
もともと注文を受けてから製作するか、
メーカー自身が作りたいように作るかのどちらかであり、
結果的に「ワンオブアカインド」だらけという
ケースも多い。よって、
「ワンオブアカインド」に価値を見いだせるのは、
有名かつ、カタログを用意するぐらいの
生産規模があるメーカーの作品だと思う。
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phrase 18 「ヌレる」
1990年代末、『スーパービリヤードエキスポ』
(アメリカ)に日本人業者が大挙して押し寄せ、
カスタムキューを「爆買い」していた時代、
キューを一本かせいぜい数本しか買えない
個人の参加者は弱い立場だった。
お目当てのキューメーカーのブースに行っても
“Sold”の札ばかり。挙句の果てには
「欲しかったら日本で買ってくれ」とまで言われる始末。
当時グループで渡米し、参加していたオレたちは、
厳選した一本を入手すべく、会場内に散って
逸品や掘り出し物の情報を収集し、共有することにした。
しかし、会場内で日本語を使っていたら、
せっかくの情報がダダ漏れ。そこでオレたちは
グループ内だけで通じる合言葉を決めた。
その一つが「良いキュー」=「ヌレる」だった。
「おい、あっちのブースがヌレているぞ」
「何! どんなヌレ具合か、早速見に行こう」
こんな会話なら、まさか良いキューを見つけたと、
他の日本人には気づかれないで済むと考えたのさ。
そして、お目当てのキューが売られている
ブースに到着すると
「ヌレているのはこれだ」
「おぉ~、これは……ヌレるな」
「ヌレヌレだぜ」
という会話を交わしつつキューをゲットしていた。
今では逸品を見つけると「ヌレる」と
表現するようになった、というわけだ。
*****
キューにまつわる表現は、一種の符丁であり、
相手の知識や経験の深さを測るツールでもある。
話し相手がどのようなリアクションをするかで、
深い話をすべきか否か、判断できるわけだ。
会話のところどころに挟み込まれる
耳慣れない表現の背後には、それなりのストーリーが
根底にあることを覚えておいてくれ。
また依頼があれば調べるぜ。よろしくな、BD!
(to be continued…)
※前編はこちら
Detective “K”についてはこちら
…………
【4名にキュー探偵K・オリジナルワッペンプレゼント!】
BD記:
ある日、Kから届いた一通の封書。
開けてみるとそこには、
鮮やかな色使いで細かいところの刺繍もキマってる
ワッペン4枚とメッセージが……。
「ステッカーとは打って変わって、
ポップでヴィヴィッドな色合いに仕上げてみたぜ。
完全に自己満足の世界なんだが、
欲しがる読者もいるかもしれないと思ってな ――K」
そ、そうですか。
……ということで、
Kが自腹で作ったワッペンを、
10名様にプレゼントいたします
(※BDが自腹で作ったBD缶バッチも付けます)。
ご希望の方は、
問い合わせフォームからご応募ください。
●お名前(ペンネーム可)
●メールアドレス
●以下のA・Bのどちらか(あるいは両方)にお答えください。
たくさん書いていただけるとKが喜びます
(前回のステッカーの時と同じですが、またよろしくお願いします)。
A:『K』でこんなネタを読みたいという企画案
B:「こんなキューはイヤだ」選手権。さて、どんなキュー?
以上をご記入の上、お申し込みください。
厳正な抽選を行い、
当選者のみにお知らせをいたします。
その段階で、お名前・送り先など
詳細をお聞きします。
締め切りは8月末日。どうぞお気軽にご応募を!