私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
皆から単に”K”、
あるいは「なんとかK」と呼ばれている。
この世界で、イニシャルだけで
特定できる便利屋はそうそういないからな。
今オレは、ベーリング海上空1万メートルの上空にいる。
ロサンゼルスから羽田へ、約11時間の旅だ。
言っておくが、プライベートジェットじゃない。
ボーイング777のエコノミーだ。
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話は約1週間前にさかのぼる。
オレはラスベガス行きのチケットを取り、
ちょいと豪華なホテルを予約し、
旅支度を整えていた。
夏の終わりにベガスで優雅にバカンス、
カジノやプールサイドで美女をはべらせて
過ごすってわけだ。
ピコッ!
うっ! BDからメッセージだ。
『ラスベガスに行くそうですね。
どうやら目的はカスタムキューだそうで。』
どこから情報をかぎつけたんだ、BD。
『2年ぶりにインターナショナル・
キュー・コレクターズ・ショー、略して”ICCS”が
あることぐらい把握していますよ。』
うっ、図星だぜ。だがコレはあくまでも
ネタの仕入れのためで……。
「シーズン2では、
inside reportがまだありませんよね。
当然、報告してもらえるものと期待しています。』
仕方ない。バカンスは取りやめだ。
というわけで、今ぼちぼちと書いている最中だ。
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ICCSは、その名の通り、
キューコレクターによる、
コレクター主催のイベント。
2002年の第1回を皮切りに、
今回で14回を数える。
かつてはキューメーカー主体の
展示即売会という面もあったが、
徐々にコレクターとメーカーのつながりを
深めるためのイベントという意味合いが強くなった。
広大なアメリカ本土に、
「カスタムキューとは何か?」を伝えるため、
毎回、開催場所を変えるのが特徴。
今回はネバダ州ラスベガス、
ICCSとしては最多の3回目の開催地だ。
イベントは前夜祭を入れて、
8月24日から26日までの3日間。
会場はレッドロック・スパ&リゾート
展示会はプレビュー、一般公開それぞれ
約4時間という限られた時間で行われる。
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8月24日。
前夜祭代わりの9ボールトーナメントが
『グリフス・ラスベガス』で行われた。
かつては『プールシャーク』という名前で
全米に知られた名店だ。
コレクター、メーカー合わせて約30名が、
それぞれ所有するキューでプレー。
ジナ50周年記念モデルでブレイクする
コレクターもいたほど、贅沢の極みだぜ。
ゲストとして、トリックショットの名手、
マイク・マッセイが登場し見事な球を披露。
ついでに、映画『ハスラー2』にも
エキストラだが出演した往年の名プレイヤー、
ジミー・マタヤも姿を現した。
ま、目的は、愛用のキューを買ってくれる
コレクターを探すことだったがな。
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8月25日。
コレクターズショー初日。
恒例となっている、ICCSとして設定した
テーマに沿ったデザインで製作された
「コレクションキュー」の初披露と、
関係者のみのプレビューが行われた。
今回のテーマは「ボックスキュー」。
長方形のインレイをハギの代わりに
バット上部に入れたデザインの総称で、
最高級デザインの代名詞でもあり、
数多くのメーカーが手掛けている。
この元祖は1965年製作の
ジナということが知られている。
参加メーカーが思い思いに製作した
ボックスキューを、関係者の前でプレゼンし、
最低希望価格を発表する。
その後はオークション形式で入札し、
最高額を付けたバイヤーが
手にすることができるという寸法だ。
コレクションを展示するコレクターは、15名。
同時に新作を発表するメーカーは11名。
もちろんメーカー展示の新作は購入できるし、
コレクター間のトレードも行われる。
キューを展示したアメリカンメーカーは、
ジョシュ・トレードウェイ、
マイク・ダービン、
リチャード・ブラック、
rc3、
マクウォーター、
エディ・コーエン、
pfd、
ピート・トンキン。
ドイツからはアーサーキュー、
そして日本からはエクシードとILC。
まさにインターナショナルな顔ぶれだ。
オレ自身は、
コレクションを展示しないものの、
日本からのコレクターの一人として参加した。
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8月26日。
最終日は、朝9時半から
コレクターのミーティング。
ここでは次回の開催時期・場所を始め、ICCSの
運営についてさまざまな議論が交わされる。
そして、今回展示したキューメーカーの新作から、
「コレクターズ・チョイス賞」として1本だけ
投票で選ぶ、アツくシビアな作業が行われた。
オレも当然、一票を入れさせてもらったぜ。
どのキューを選んだかは秘密だがな。
午後は1時から5時半まで、一般公開。
入場者は、コレクター・メーカーの
展示キューの中からベストな一本を選ぶ
「グランド・コレクション賞」の投票や、
「ボックスキュー」の入札、
そして商談も可能だ。
会場には
サウスウェストのローリー・フランクリン、
タッドのフレッド・コハラ、
マイク・ベンダー、そしてジナキューの
アーニー・ギュテレスも姿を見せ、
会場内のあちらこちらで話の輪ができた。
カスタムキューの最前線で聞ける情報は、
新鮮かつ驚きの連続。かなり勉強になったぜ。
展示終了後は、午後7時半から晩餐会。
ワインは好きなだけ飲めるが、
酔っぱらっていては、探偵の役割を果たせない。
各賞を誰が受賞するのか、ここで発表されるからだ。
「コレクターズ・チョイス賞」は、
ピート・トンキン、
「グランド・コレクション賞」は
pfdのポール・ドレクスラーが受賞した。
あとは好きなだけ、キューメーカーや
コレクターと会話を楽しんだ。
キューがどうのこうのより、
結局は人と人のつながり、
いわゆる「絆」が一番大切だと気付かせてくれるのが
このICCSってわけさ。
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そして8月27日早朝。
午前4時半にレッドロックからチェックアウト。
午前6時発の便でラスベガスから
ロサンゼルスに向かい、
現在、帰国の途というわけだ。
無事に帰国出来たら、ゆっくり話そうぜ、BD!
(to be continued…)
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