私はDetective K.。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
皆からは”K”と呼ばれている。
玉屋で撞いていても、
目立たないのがオレの流儀。
よって、「キュー集めるだけで、
玉撞いている姿、見たことないですよ~」
と言われることすらあるぜ。
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ピコッ!
今月もBDからメッセージだ。
仕事の依頼だな。
『10月14日、横浜で行われる、
第2回トップ・オブ・キューズ・ニッポンを
調べてください。』
ああ、族の集会だな。
集団でハデなヤツを大量に並べて、
それを目当てにギャラリーが集まるという……。
『暴走族の集会じゃないですよ!
コレクター・メーカーが一堂に集い、
自慢のキューを展示するイベントです。
大丈夫ですか?』
週末のハマで、カスタム持ったやつらが
大勢集まるって点では、同じだろ?
『うまいこと言いますね……って、違うでしょ!
忘れずに調査してくださいね!』
わかった、オレはキュー探偵。
その依頼、引き受けた、バリバリだぜ。
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10月14日(土)朝。
オレは愛車のホンダを飛ばして横浜に向かった。
時々強く雨がフロントガラスを叩く。
10月にしては、やけに寒い。
交通量が少ない首都高をカッ飛んで、
無事MECCA Yokohamaに到着した。
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トップ・オブ・キューズ・ニッポン、
略して『TOC Nippon』は、
カーセンブロックの作品収集で
世界的に有名なコレクター、
松實伸之氏の発案によるキュー展示イベント。
そのコンセプト云々は、
先日のBDのブログを参照して欲しい。
今回は、昨年の麻布十番『God Dragon』で
行われた第1回に続く2回目。
ちなみに第1回の様子はコチラ。
今回は15名のコレクターと、
4つのキューブランド(早川工房、
ILC、9Hearts、ハク・カスタム)が展示する。
一般公開は午後3時から7時という
限られた時間のイベントだ。
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午前10時過ぎ、MECCA Yokohama到着。
店内では、松實氏特注のキュー展示用ラックの
組み立てが出展者によって始まっていた。
展示には、ビリヤード台3台と卓球台1台を使用。
ブランズウィック・ゴールドクラウン
『メトロ』1台が、
試し撞きやゲームのために確保された。
ビリヤード台に特製の布を掛けたり、
展示するカスタムキューが運び込まれたり、
梱包材を片付けたり、腹ごしらえをしたりと
店内はカオスな状態。
しかし、全員ある種の熱に浮かされたように
動き回り、みるみる準備が整ってゆく様は、
ある種の感動すら覚えた。
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午後1時~3時、関係者限定の内覧会。
ざっと数えて、およそ200本の名キューと、
数えきれないぐらいのビリヤード関連
コレクションが並んだ会場は、壮観の一言。
オレのブースは、マニアック過ぎた昨年を反省し、
わかりやすさを心掛けた。
タッドだけ14本並べ、タッドに関する
資料や思い出の品と合わせて展示した。
各出展者には5分の時間が与えられ、
自己紹介と展示ブースをプレゼンした。
出展者が、互いのプロフィールを知り、
一般入場者と接するウォーミングアップでもある。
だが、おそらく全員が、自分の感覚以上に
速く時が過ぎると感じたに違いない。
互いのコレクションをじっくり鑑賞する
ヒマなどなく、開場時刻を迎えた。
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午後3時、TOC Nippon開場。
ザンボッティ、カーセンブロック、ジナ、
タッド、マンジーノ、ブラックボア……
などといったカスタムキューに加え、
国産カスタムメーカーの作品が
同時に並ぶ機会は滅多にない。
菱沼巌氏の手によるILCの最新作、
ピンクアイボリーに鶴のインレイが
施されたキューは見応えがあった。
コレクターのブースは、
キューだけでなく自己表現の場でもある。
「アメリカ愛」を表現した酒巻博行氏のブース、
銘木「バックアイ・バール」を使った
キューとベースギターを並べた
UKコーポレーション大原秀夫氏のブースなど、
展示方法を競って工夫するのが、
TOC Nipponの流儀だな。
また、思いがけないキューに出会うこともある。
北海道出身コレクター共同の「道産子ブース」では、
8月末にラスベガスで行われた『ICCS 2017』で
展示されていたジョシュ・トレードウェイを発見した。
まさか買おうかと思って見送ったキューに
ここで出会うとはな……。
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各ブースでは入場者とアツいキュー談義が
交わされたり、特定のキューを無言で見続けたり、
一本ごとに撮影したりと、
展示者に60人以上の入場者が加わり、
会場は活気に満ちた。
内垣建一プロ、北山亜紀子プロをはじめ、
トップアマの小川徳郎、持永隼史の両氏も来場。
MECCAのオーナー、銘苅朝樹プロも登場し、
キューのデザインだけでなく、
性能や特性について、深い意見を聞くことができた。
プレー台では、
「キューのことはキューに語らせろ」ってワケで、
カスタムキューの撞き比べが随時行われていた。
さらに金沢在住の珍品コレクター、
飯田安保氏所有のクレイ・ボールの
試し撞きには皆興味深々。
20世紀半ばには姿を消した、
粘土を焼き固めて作られたポケット用ボールで
プレーした経験のあるヤツは、
日本に何人いるか?
ってぐらい貴重な体験だった。
オレはこのテーブルで、
勝ち残り方式10ボール1先ペアマッチ
「TOCN CUP」を主催した。
プロもアマチュアも、コレクターもメーカーも
入り乱れてのプレーは異様な盛り上がりを見せた。
やはりキューは眺めるだけでなく、
撞いてナンボだということだな。
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午後7時、閉幕・撤収。
達成感と疲労感がないまぜになった撤収時には、
悪かった点も含め様々な感想が出てくるものだ。
しかし、TOC Nipponが来年以降も継続して欲しい、
という考えはおそらく共通の意見に違いない。
しかも数日後、SNSを通じてこのイベントを知った
海外コレクターからの参加打診もあったという。
開催時間の延長や出展者数の拡大、
更にはプロやアマチュアの試合との
コラボレーション等、
もしイベントとしての拡大を本気で考えるならば、
TOC Nipponは国際的に、
より大きな存在となる可能性を秘めている。
2018年はどうなるか、楽しみだぜ。
もし新たな依頼があれば調べるぜ。
よろしくな、BD!
(to be continued…)
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