私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
周囲からは”K”と呼ばれている。
普段は善良な、
いちビリヤードプレイヤーとして活動。
見た目がハデなキューを使わなければ、
冴えない「おっさんハスラー」だ。
オレの仕事場に、スティーブン・クレインや
ジョシュ・トレードウェイといった、
目立たないキューが置いてあるのはそのためさ。
2018年。新たな年をどうにか迎えられた。
新年の抱負?
ま、いまだ見ぬ幻のキューや、
新進気鋭メーカーのフレッシュな作品との
出会いを期待、だな。
ついでに、
カーボン素材にこだわるメーカーには、
黒以外のカラフルなキューを、
そろそろ出してもらいたいものだ。
ピコッ!
新年早々、BDからメッセージだ。
仕事の依頼だな。
『今年も調査、よろしくお願いします。』
はいはい、こちらこそ……。
『”銘”を探してもらえませんか。』
メイ?
トウモロコシを持って迷子になった妹か?
ならばネコ型のバスに乗って探せば……。
『それは某名作アニメの話ですね。』
♪~(テーマ曲を歌う)
『新年だからといって、ネジ緩んでいませんか!?
ロゴやシリアルNo.など、
キューの様々な部分に入れられた
”銘”について調べて欲しいのです。』
(我に返り)そうだ。
オレはキュー探偵Kだったな。
銘は、キューの素性を特定するための
大切な手がかりだからな。
『だと思います。どこにも語られていない、
そのノウハウを教えてください。』
わかった、オレはキュー探偵。
その依頼、引き受けた。
*****
キューに刻まれたり、記されたりする"銘”。
それは、メーカーロゴやモデル名、
シリアルナンバーや製作時期など様々。
特に決まった様式はない。
その目的は、大きく分けて二つ。
*****
ひとつは、
キュー購入者に対する、メーカーの主張。
メーカー名やメーカーロゴをキューに
入れることは、「誰が作ったキューか」を
購入者に対して明示すること。
それは、メーカーが創造したデザインや
構造を法的に保護することでもある。
他の工業製品、例えば自動車のように
メーカー名を「エンブレム」として
目立つ場所に取りつけるのと同じだ。
よって、キューを立てかけた時、
さりげなく目に入るよう
バットエンドキャップにロゴを入れている。
初見のキューを鑑定するため、
最初にチェックする箇所だ。
エングレーヴィング(陰刻)や
ステンシル印刷が多いが、
高価なカスタムでは、
ブラックボアはロゴをインレイし、
ジナは別部品として製作したプレートを
はめ込んでいる。
ふっ、ぜいたくな仕様だな。
それはそれとして、とにかく目立つ場所に
ロゴを入れるメーカーもある。
フォアアームに入れるアダム・ジャパンや、
ジョイントカラーに入れる
90年代前半までのジョスのような例。
果てはキュー尻にサインを入れたり、
ロゴを成型したラバーバンパーを
取り付けたりとさまざまだ。
しかし、極めつけは、メーカー名を
インレイハギに見立ててデザインした、
ジョスの「ポスターキュー」モデルだろう。
もともと広告用にメーカー名を目立たせるため、
ワンオフで作られたキューだったが、
ポスターや広告を見た顧客から
「欲しい」とのリクエストが多数届き、
市販に至ったモデルだ。
*****
もうひとつは、
メーカー自身が必要とする記録。
メーカー自身が、
製作したキューの記録をなぜ必要とするか?
それは、リペアやレストアのため戻ってきたり、
盗難に遭ったりというケースで、
キューを手元の記録と照合し、識別するためだ。
そこで、キューメーカーは
キューのどこかに手がかりを残す。
それはシリアルナンバーか、製作年月日だ。
代表的なのは
1993年以降に製作されたサウスウェスト。
3桁のシリアルナンバーと
西暦下2桁をジョイントピンに入れている。
メーカーにその数字を問い合わせれば、
いつどのような仕様で作られたキューかがわかる。
ジナは、ジョイントカラーの
底部に入れることで、キューデザインに
影響を与えないようにしている。
タッドはキュー尻のゴムを外さない限り
シリアルNo.を見ることは出来ない。
メーカーだけが知っていれば良い情報と
割り切っているからだろう。
*****
ところで、キューメーカーが、
例外なく”銘”を入れるようになったのは、
1990年代半ば以降と言ったら驚くだろうか?
それ以前に製作された
少量生産メーカーの作品には、
”銘”がないものが少なからず存在する。
代表的なのが、
ジョージ・バラブシュカやガス・ザンボッティだ。
“銘”なくして、
そのキューの作者が分かるのか?
同じ作者のキューでも、
”銘"があったりなかったりするのはなぜか?
“銘"の有無が、キューの価値を左右するのか?
伝説のキューメーカー二人にまつわる話は、
”銘”に関する多くの示唆を含んでいる。
長くなるので、回を改めて調査させてもらうぜ。
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最後に
特殊なロゴを入れているメーカーを紹介しよう。
ジョン・ショーマンだ。
肉眼では判読不能な、
マイクロサインをバットのどこかに入れている。
それは気付かないか、気付いても小さな傷か、
シミのようにしか見えない。
虫眼鏡か顕微鏡で拡大してみると、
メーカー名と製作年が刻まれていることが分かる。
一見、無銘のキューのように見えて、
誰がいつ製作したのかがしっかりと記録され、
他メーカーの作品との混同も避けられ、
贋作の抑制にもつながるナイスアイディアだ。
ま、ショーマンは製作本数が極端に少ないから、
確かめること自体が難しいがな。
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2018年も、ぼちぼちっと探偵業を続けるつもりさ。
もし新たな依頼があれば調べるぜ。
よろしくな、BD!
(to be continued…)
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