先月の『関西オープン』(9ボール)を
取材していて、色々な発見がありましたが、
最も驚いたのは、準優勝の平口結貴プロの
ブレイクショットの完成度でした。
身体は固定して最後まで動かさず、
腕の振りで打つ、いわゆる
「コントロールブレイク」で、
手球と取り出し(1番)はほぼ毎回、
手前の短クッション近くまで戻って来て
高い確率で好配置になっており、
2番3番も近くにいることが多く、
1番が見えていれば、マスワリの予感大。
こんなブレイクです。↓ 動画2本。
(ブレイクキューは、
MEZZの『Power Break Kai(魁)』を使用)
平口プロのマネージャーさんによると、
大会2日間を通して
獲得ラック数「40」に対して、
マスワリで挙げたポイントは「18」。
マスワリ率は実に45%。
男子トッププロ並の数字が出ていたようです。
イリーガルは平口プロ本人曰く
「2日間で1回だったと思います」。
また、1番が攻められない形になっても
手球と1番は近くにいることが多いため、
効果的なセーフティも仕掛けやすいという
メリットも、この平口流ブレイクにはあります。
もちろんこのブレイクは、
一朝一夕で身に付いたものではなく、
数年前から練習を重ね、
少しずつ完成度を高めてきたもの。
このスタイルを考え、指導したのは
コーチの鳴海大蔵プロで、
「3、4年前から教えています」とのこと。
平口プロがプロ入りする前のことです。
「その当時、本人はハードブレイクを
打ちたがっていましたが、
僕から見たら全然なってなくて(笑)。
そっちを鍛えていくよりも、
将来のことを考えてもキュースピードに頼らない
コントロール重視型のブレイクは必須だろうと。
僕も探り探りでしたけど、
今のスタイルの方向性が見えたのが3、4年前。
そこからずっと練習させてきたんですが、
なかなか使えるレベルにならなくて、
実戦で最初に使ったのは、
『女流球聖』になった後からだったと思います
(2016年4月以降)」
(鳴海)
その後、平口プロは2016年7月にプロ入りし、
プロ入り初戦の『関東オープン』で優勝。
「あの時は今の形に近いブレイクでした。
だけど、まだ腕の振り方が下手で
パワーが足りてなかったので、
ストロークの最後の方は身体を動かしています」
(平口)
その後も着実に完成度を高めていましたが、
ちょうどその頃、
女子プロ公式戦のブレイクルールが
『9オンフットラック』になったので、
一旦は9オンフット用のブレイクの練習に専念。
昨年の途中にブレイクルールが
『1オンフットラック』に戻ってから
再びこのブレイクの練習に打ち込んできました。
鳴海プロも平口プロも口を揃えるのは、
この打ち方はテーブルコンディション
(台高・ラシャ&クッションの種類や状態)と、
ボール(摩耗度、汚れ具合など)の
わずかな違いによってバラツキが出やすいため、
かなりの練習量と経験が必要とのこと。
対応力・調整力・再現力が求められる
ブレイクスタイルである訳ですが、
それらがカチッとハマると、
「手が付けられなくなる時があります」と鳴海プロ。
「うちのお店(札幌『Vivapool』)での話ですが、
僕と9ボール7ラック先取でセットマッチをやって、
パーフェクトゲーム(マスワリ7連発)目前、
なんてこともありました。
そして、ブレイクが上手く行くと
イライラすることも減りますし、
他のショットにも集中出来るじゃないですか。
最近試合で良いプレーが出来ているのは
そういった影響もあると思います。
今はもう一つ別のブレイクも考えているので、
近々覚えてもらおうかなと思ってます。
本人の頭に余裕がある時に(笑)」
(鳴海)
…………
ここからは少しテクニカルな部分を
平口プロ本人に聞いてみます。
以下は、
ブレイクストロークのスロー動画です。
撞点は「下」で、
「ヒネリも使っている」とのこと
(右側から打つ場合は右ヒネリ)。
手球を短クッションまで引き戻していますが、
「引こうという意識は持ってないです。
それだと”求める球質”にならないので」。
厚みは、1番に当たった後の手球の動きが
示している通り、100%真っ直ぐではなく、
ほんのわずかに左(右サイドから打つ場合)。
手球の理想のラインは、
「真っ直ぐ短クッションの真ん中に辺りに
戻って来て、ヒネリで少し広がって
出て行くイメージ」。
そして、1番は、サイドポケットの脇
(フット側のクッション)に入れて、
自分が立っている側の
コーナーポケット方向へ転がして来ます。
手球と1番の動き、
双方をコントロールしているのですが、
大事なポイントは、
「1番を左のサイドポケットに入れず、
ツノにも当てない」こと。
さらに、2番と3番も手前側(撞き手側)まで
持って来て、ローボールの繋がりを
良くすることも意識しています。
出来るだけ2番や3番が他の球にキスしない
ようにするため(撞き手側まで走らせるため)の
調整方法もあるのだとか。
「初めの頃はとりあえず手球が手前の
短クッションに戻ってくればいいやぐらい(笑)。
すごく完成度が低くて、
たまに良い形になることもある、ぐらいでした。
何回も失敗を繰り返してきて、
いっぱい考えながらたくさん練習して
だんだん成功率が上がってきたんですが、
今でも別のテーブルに移動すると、
合わせられなくなってしまうこともあります」
(平口)
2018年シーズン開幕戦の
(準優勝)で、ブレイクに良い手応えを得た
平口プロは、そこからさらに完成度を高め、
続く『関西オープン』では、
複数の異なるテーブルにもきちんと対応して
打ち方が調整出来、全体的に
納得行くブレイクが打てたと言います。
「関西オープンでは、今までで一番と
言って良いぐらいマスワリが出ました。
決勝戦で使ったテーブルは、
今回BDさんが撮った動画のように、
1番をサイドポケットに狙う形になることが
多かったですけど、この台はこの形で
安定してたので、これはこれでOKです」
(平口)
コントロール重視型のブレイクは、
パワーをそれほどかけない分、
イリーガルのリスクがつきまといますが、
「”求める球質”で打てていれば、
イリーガルになることはあまりありません。
逆に、ハードブレイクをしても、
球質が悪ければイリーガルしてしまう」
と平口プロ。
今も日々ブレイク練習は怠らず、
プロ本人もコーチの鳴海プロも
「まだ伸びしろはあります」と語ります。
「関西オープンの前に沖縄に行ったんですが
(『チャリティービリヤード大会』に参加)、
沖縄のテーブルには合わせられませんでした。
でも、そこで試行錯誤したおかげで、
関西オープンでは調整力が上がったのかなと思います。
そして、このブレイクは海外では
まだそんなに成功してないので、
国際大会でどれだけ出せるか自分でも楽しみです。
現段階では全然『完成』ではないですし、
まだまだ高めていける……はずです、
たぶん(笑)」
(平口)
…………
平口プロは今月末の
『関東オープン』(東京)に出場した後、
3月上旬の『アムウェイカップ』(台湾)に
参戦予定です。
平口プロ、鳴海プロ、取材にご協力いただき、
ありがとうございました。
取材協力:Vivapool(札幌)
…………