カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)。
今回ご紹介するのは
『Espiritu』(エスピリチュ)です。
ミシシッピ州を拠点に、
1984年からキュー製作を開始。
銘木の木目を活かしたプレーンモデルから、
伝統的な剣ハギモデル、さらに、
精緻に作り込んだ高級カスタムモデルまで、
様々なデザインのキューを手がけている
メーカーです。
日本にも定期的に来日しているので、
代表のRuss Espiritu
(ラス・エスピリチュ)氏を
見たことのある方もいるでしょう。
近年ラス・エスピリチュは、
ACA(アメリカンキューメーカーアソシエーション)の
役員会会長を務めたり、
在住しているミシシッピ州ブランドンの
市長にもなっているとのことで、
多忙な身ではありますが、
現在もキュー製作を続けています。
…………
今回撮影したのは、
2002年に完成したキュー。
エスピリチュが、親交のある
大原氏のために作った一点物です。
フォアアームは、
バーズアイメイプルをベースに、
希少な銘木、カリフォルニアバックアイバール
(California buckeye burl)の
子持ち8剣ハギが入っています。
スリーブはカリフォルニアバックアイバールを
ベースに、独創的なインレイが施され、
磨かれたシルバーがキラリと輝きます。
なんといっても、
「バール」(木のこぶの部分)特有の木目と、
グレーとオレンジが混ざりあったような色合いを持つ
カリフォルニアバックアイバールの美しさに
魅せられるキューです。
大原氏・談:
「素晴らしいですよね、この木目と色合い。
私が初めてカルフォルニアバックアイバールという
木を認識したのがこのキューでした。
この後、私はカリフォルニアバックアイバールを
使ったキューやベース(楽器のベース)を見たら、
すぐ手が伸びるようになってしまいました(笑)。
このキューは、
ラスが友情を込めて私のために作ってくれたもの。
売り物ではありません。
もともと、私が初めてラスの工房に行った時に、
ハギだけが組まれた状態で置かれていました。
インレイは入ってなくて、
ジョイントも付いていなかった。
ジョイントだけラジアルピンを希望し、
それ以外は『お任せで』と言って
その場でオーダーをしました。
スリーブのインレイも見事ですよね。
光が当たるとよくわかるんですが、
たくさんシルバーを入れてくれています。
仲良くなって良かったなと(笑)。
とても気に入っているキューですが、
一つ物足りない点を挙げるなら、
エスピリチュはスリーブが短いんですよね。
Jerry Olivier(オリビエ)なんかもそうですが。
あと1cmでもスリーブが長いと、
特にこのキューの場合は
もっと全体のデザインバランスが良くなって、
カッコよくなっただろうとは思います。
撞いた感じは……、
私が持っているキューの中で、
一番ヒッティングサウンドが良く、
一番見越しが出るキューです。
完成した当時のサウンドは、
人が振り向くぐらいの素晴らしい
『木琴』サウンドでした。
そして、すごく見越しが出るけど、
ヒネリもものすごく乗るので、
曲球のようなショットが出来るキューです。
現在の私のストロークでは
使いこなせないんで使ってませんが……。
エスピリチュは、まず球を撞く道具としての
基本性能をしっかり満たしたキューを
作っているメーカーだと思います。
基本的に、あまり高い価格帯のキューは
作りたがらない人で、
手頃な価格帯で、皆が手にしやすくて、
すぐに気楽に試合に出られるようなものを
作りたいというのが彼のポリシー。
実際、他のメーカーと比べても、
同じような材料・デザインだけど、
明らかにエスピリチュの方が安いということが
よくありました。
デザイン的には、シンプルなものを基本にして、
どこかしら個性的だったり、
風変わりなテイストが入っているものもあります。
ラス自身は気さくで大らかな人物で、
キューメイキングの裏事情なども含めて、
色々な話を聞かせてくれました。
彼との付き合いで得た知識や情報は
私にとっても大きなものです。
近年は『セントラル』さんの招聘で、
年に一度のペースで来日していて、
私もその時に会って遊ぶことが多いです。
普段は、人間よりも牛の方が
多いような所で市長をやっていて、
同時並行でキュー製作を続けているので、
日々忙しいと思いますが、
ぜひこれからも素晴らしいキューを
作り続けてほしいと思います」
(了)