キャロムキュー事情に精通している
「酔爺」氏が語る、
知られざるキャロムキューの世界。
前回(vol.1)では、
ポケットキューとのサイズの違いに始まり、
キャロムキューの「タップ・先角」や
「シャフト・テーパー」といった部分の
基礎知識を紹介しました。
今回は「ジョイント」「バット」
「グリップ」などに関するお話です。
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酔爺・記:
■ ジョイント
キャロムキューのジョイント部には、かつては「木ネジ」という、シャフト側に木製のオスネジ、バット側に木製の雌ネジが切られた、木と木で接合するジョイントが数多く使われきたが、最近ではキャロム用・プール用といった区別はほとんどなくなり、国内外の様々なメーカーが開発したジョイント形状が採用されたキューが作られている。
今現在、国内プロの間で最もポピュラーなのは、プールキューと同じく金属ピンを使用したジョイントであろう。ラジアル、ジュリオ(3/8-10山)などプールキューでも幅広く使われているジョイントがキャロムキューでも使用されている。かつてはほとんど使われていなかったフラットフェイスも、キャロムキューで知られる著名メーカーがメインで採用していたり、発売当初には「さすがにこれはキャロムのキューには使えないんじゃないか」と思われていた『Uni-Loc』(ユニロック)を使用したキューすら、今や世界のトップキャロムプレイヤーが使用する時代となっている。
一方で今もなお、木ネジのキューも「ジョイントってのはなぁ、木じゃなきゃ駄目なんだよ、木ネジサイコー」という打感至上原理主義者を生み出し、未だに根強い人気を誇っている。
ちなみに、打感至上原理主義者は、手に伝わる感触に余計なものが含まれないようにしたいという思いから、金属パーツを極端に排除し、バット構造も途中で継ぐことを好まず、ハイテクシャフトは感触が良くないということから忌避している。wood to woodの木ネジ、ワンピースバット、ノーマルシャフトを「至上」としている彼らの目には、スリーピース構造と金属ジョイントを持つバットにハイテクシャフトを組み合わせたキャロムキューは、異形の代物と映るだろう。しかし、すでにそういった考え方は廃れつつある。
私見ではあるが、現代の様々なジョイントは木ネジより高い精度を出すことができるため優れていると思っている。しかし、もちろんそんなことを原理主義者は意に介さない。とはいっても、やはり木ネジは摩耗や温度・湿度など、環境の影響を受けてわずかな隙間が生じ、ジョイントから異音が発生することがある、そういった場合にはダクトテープなどを使い、隙間を埋めると言ったテクニックが知られている。
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■ ジョイントカラー
キャロムキューのジョイントカラーには樹脂もしくは木材が使われることが多く、バットの太さと相まって全体的に後ろバランスになるキューが多い傾向がある(※「ジョイント」の項の画像のロンゴーニは木材のジョイントカラー)。
プールキューで一般的なブラスやステンレスなど金属のジョイントカラーを持つキャロムキューは、現在においても数少ない。これはジョイント部に重さを持たせないようにした方が良いと考えられていたためである。必然的に後ろバランスのキューがキャロムキューには多いが、その方が手元での細かい操作がしやすいと考えられていたようだ。
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■ バット
キャロムキューのバットは、かつては途中で木が継がれていない、1本の木材で出来た「1ピース」のバット、またはグリップ部の下側で2つに分割されている「2ピース」のものが主流であった。しかし、現在ではプールキュー同様、グリップ部とその上下の部位を繋いだ「3ピース」のバットも見られる。
デザインとしては、「タケノコハギ」(バタフライ)を使用したキューが多くあるのもキャロムキューの特徴である。タケノコハギの中でもバットエンドまでハギが貫通していないものは「本タケ」と呼ばれ、タケノコハギの中でも最高の技術が使われていることで人気が高い。もちろん本タケのキューは結構な金額となる。
余談だが、日本が誇る世界のハギ職人、粕谷氏(アダムジャパン)はこのタケノコハギの名工である。かつてとあるキューショップが、アメリカのメーカーが作成したタケノコハギのキューを「世界最高のタケノコハギ職人」と持ち上げた時に、粕谷氏はそのメーカーで作成していた同様のデザインを改良し、そのメーカーでは作成していなかった超絶技巧を凝らしたタケノコハギのコンビネーションを作ったという逸話もある。
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■ グリップ
前回説明した通り、キャロムキューの重量はプールキューに比べてやや軽く作られていることが多い。ただしキューの重量で忘れてはいけないのが、グリップ部に後から装着されることの多い「ラバーグリップ」である。素材の種類にもよるが、おおむね18~20g程度の重さがあり、オンス換算では0.6~0.7ozに相当する。全体の重量やバランスはこのラバーグリップを含めた形で考慮することが多い。
また、キャロムキューでは「糸巻き」をそのまま使っているプレイヤーはかなり少ない。もともとが糸巻きのキューでも、その上にラバーグリップをかぶせたりしているケースがほとんどだ。やはり様々なスピンを撞くために、しっかりキューを握ることが必要となるケースが多々あるため、滑りやすい素材を敬遠する傾向があると言えよう。その点、「革巻き」はある程度の弾性があるため、そのまま使われていることも多い。
余談ではあるが、キャロム界の『革命児』ことトルビョン・ブロムダールは、現在ジョイントは『Uni-Loc』、グリップには何も巻かずにウッドグリップのキューを使用している。
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これまで見てきたように、キャロムキューとプールキューの大きな違いはほとんどサイズに集約され、その他の構造的な面や素材などについては、近年ではプールキューとの違いが少なくなってきていると言って良いだろう。
これもまた私見ではあるが、シャフトさえしっかりした物であれば、ポケットのキューでも十分スリークッションが撞けると考えている。現代においては様々なハイテクシャフトが開発され、使われている。一例を挙げれば、プレデター社の『314』および『REVO』といったシャフトは、キャロムのボールに負けることがなくショット出来るので、そのままでも十分に実用に耐えるであろう。
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次回は国内外の代表的なキャロムキューメーカーを紹介しよう。
(了)
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