キャロムキュー事情に精通している
「酔爺」氏が語る、
知られざるキャロムキューの世界。
プールキューとの比較を交えながら、
キャロムキューのサイズや仕様、
使われているパーツなどの
基礎知識を紹介しました。
今回からは、キャロムキューを
作っているメーカー(ブランド)に
焦点を当てていきます。
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酔爺・記:
これまでキャロムキューの構造的な部分に触れてきたが、今回から実際のキューメーカーを紹介して行きたいと思う。最初は国内で比較的よく使われている代表的なところから。
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言わずと知れた日本が誇る世界のブランド。1970年よりキュー製作・販売を開始し、間もなく半世紀を迎えるという老舗キューメーカーである。本社は埼玉県狭山市(狭山市ふるさと納税の返礼対象製品として同社のキューがラインナップされている)。
『MUSASHI』『MUGEN』といった独自のバット構造を開発し、また、シャフトも『A.C.S.S』を筆頭に『Solid 8』『Solid 12』など様々な種類の、いわゆる「ハイテクシャフト」を開発している。中でも『MUSASHI』構造を採用した『MUSASHIキュー』は、ハイエンドキューの位置付けとなっており、国内はもとより韓国などでも大変人気が高い。そのため現在MUSASHIのオーダーキューは数年待ちと言われている。
ジョイントもキャロム用にはトラディショナルな木ネジを始め、10山、14山、ラジアルピン、そして独自に開発したダブルジョイント、トリプルジョイントなど多彩なラインナップを揃えている。
国内では、”先生”こと小林伸明プロを始めとする日本の多くのトッププレイヤー達が長年に渡り使用しており、また、世界選手権優勝4度を誇るダニエル・サンチェス(スペイン)の使用キューとしてもよく知られている。
ちなみに、筆者が最初にキャロム用として購入したキューもアダム製だった。ン十年前にキャロムを遊びで撞くようになった頃、同じ店の仲間と一緒に入間の『ビリヤード原』(※閉店)に、吊るしのキューを購入しに行ったものである。最初のモデルは四剣ハギの木ネジという当時最もスタンダードなモデルであった。
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■ ササキキュー(Sasaki Cue)
現役JPBFプロプレイヤーの佐々木浩氏が手掛ける、ほぼキャロム専業と言って良い稀有なキューメーカー。拠点は大阪。2000年頃から生産を始め、国内で急速にシェアを伸ばしてきた。また、佐々木氏自身海外の大会にも積極的に参加し、販路を広げている。
国内では2017年MVPプレイヤーの界敦康プロや、『ニッカオープン』で優勝した真野正光プロなどが使用していることを見ても、プレイヤビリティは折り紙付きである。
特徴としては、ほとんどのキューがスリーピース構造バットを採用している。標準のジョイントは、ピンがラジアルピンで接合部はフラットフェイスと、キャロムキューのトラディショナルな構造からは一線を画している。特筆すべきはシャフトで、様々な構造や素材のシャフトを提供しており、バーズアイメイプルを使用したシャフトなどもその一つである。また、佐々木氏は米『TIGER Products』社に技術協力を行い、同社のキャロムキュー開発をサポートしていた。
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メイドインジャパンの高品質なキュー製作で知られるメッヅ(株式会社三木。群馬県富岡市)。あまり広告などは打たれていないため知られていないようだが、同ブランドにもキャロムキューシリーズが存在する。合わせてキャロムキュー用の『WXC 3C』『ハイブリッドアルファ3C』といった、いわゆるハイテクシャフトも用意されている。メッヅのプールキューのオーナーであれば、キャロム入門用にこれらのシャフトだけ購入して使用するというのは一案だと言えよう。
日本のプロプレイヤーでは、新井達雄プロが試合で時折使用している。また先日の『東京オープン』でベスト4入賞を飾った片岡紳プロはメッヅキューの契約プレイヤーである。
株式会社三木にはハイエンドラインの『EXCEED』(エクシード)ブランドもあり、プールプレイヤーから人気を博しているが、エクシードのキャロムキューは現時点ではラインナップされていない。
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■ ロンゴーニ(Longoni Cues)
1945年創業、70年以上の歴史を持つロンゴーニはイタリアのキューメーカー。本格的にキュービジネスを開始したのは1960年代にRenzo Longoni氏が社長になってからである。現在でも様々なキューを製作しているが、その中でもキャロムキューに力を入れている数少ないメーカーの一つである。
同社のキャロムキューの長さは56インチがスタンダードで、アダムジャパンの標準キャロムキューサイズより1インチ長いのが特徴。また、グリップ部が六角形になっているものや、人物像などの装飾を施した、ひと目見てそれとわかる特徴的なキューも製作している。
本稿第1回でも紹介したように、キャロムのワールドトッププレイヤーを数多くスポンサードしており、それらのプレイヤーのシグネチャーモデルを製作している。筆者もD・ヤスパースモデルと、F・カシドコスタスモデルを所有している(※ちなみにカシドコスタスは現在他のメーカーからスポンサードを受けている)。かつては甲斐譲ニモデル、島田暁夫モデルといった日本人プレイヤーのシグネチャーモデルも製作していた。
筆者は一度ビリヤードショーでRenzo Longoni氏を見掛けたことがあるが、まるで置物のようにブースの前に座っていたのが印象的だった。
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■ モリナーリ(Molinari Cues)
オランダにある数少ないキャロム専業メーカーで、T・ブロムダール、崔成源(チョ・ソンウォン)を始めとする世界チャンピオンが使用しているキューといえばピンと来るかもしれないが、基本的には米PREDATOR社のOEM商品である。従ってジョイントは『Uni-Loc』を採用している。
ブロムダールが使用しているモデルは、Molinariのロゴこそ入っているものの、ほぼそのまま『PREDATOR P3』であり、そのバットにキャロム用に開発されたシャフトを用意している。ある意味、シャフトさえちゃんとしていればプールキューであってもそのままキャロムに使えるという証左でもあるが、勿論だからといって性能が悪いという訳はなく、ブロムダールがこのキューに変えてから、ワールドカップ年間チャンピオンに返り咲き、世界選手権で優勝したこともよく知られている。以前彼が来日した際に特徴を聞いたことがあるが、ハードショットのコントロールが非常にしやすくなったとのことであった。
また、PREDATORといえば、フルカーボンシャフトの『REVO』を開発しているが、現在はプール用のみである、キャロムバージョンの登場が待たれるところである。
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連載第4回に続く。
※初回
※第2回
※第3回
※第4回
※第5回