カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)。
今回ご紹介するのは
Bill Schick(ビル・シック)です。
1970年代から一点物のキューを作っている
アメリカンカスタムメーカーの
「巨匠」の一人。
BDでは1年前に、シックの
スクリムショウが入ったモデルを
掲載しています(こちら)。
…………
今回ご紹介するのは、
1989年製の8剣モデル。
フォアアームは、ステン(染色)された
バーズアイメイプルをベースに
エボニーの子持ち8剣。
スリーブはエボニーをベースに、
スネークウッド、ゴールド、
シルバーなどを使った
ゴージャスで高級感あるデザイン。
このキューは、
今の大原さんのメインのプレーキュー。
大原さんの手元から離れたり戻って来たりを
繰り返した、思い出深い1本だそうです。
大原氏・談:
「これは
『ビリヤードエンサイクロペディア』
にも登場したキューです。
1989年に完成した後、恐らく
2、3人の手を経てシカゴのディーラー、
ジョン・ライトの所に入って来ました。
それを私が見て、あまりに
かっこよかったので購入しました。
売る気はなかったのですが、
ある時日本のあるビリヤード場で、
このキューに一目惚れして
8時間抱きしめて離さない人がいて(笑)。
私も根負けして売りました。
しかし、そこから様々な事が起こり、
私の手元に戻って来たのです。
再会出来て嬉しかったですが、
バットから音鳴りがしたり、
いくつか問題があったので、
シック本人に修理を頼もうと考えました。
でも、その時は
シックとコンタクトが取れなかったので、
アンディ・ギルバート(ギルバートキュー)に
相談したところ、彼がまとめて安価で
引き受けてくれることになりました。
で、そこから再度私の手元に戻って
来るまでにも色々な事があったのですが、
その顛末はまた改めてということで。
このキューを初めて見た時、
私が目を奪われたのは
このデザインパターン、
特にスリーブのデザインです。
とにかく素晴らしいの一言。
フォアアームのデザインは、
まあよくあるものというか、
ザンボッティに近い人達は皆、
こういう系統のものになるので、
そこにどうやって自分の味を加えていくか
というところになる訳です。
シックの場合は、
ゴールド使いやスクリムショウにこだわった。
このスリーブの『くの字』のゴールドは
手作業で曲げているので、ものによっては
微妙に角度が違っているんですが、
そこが非常に味わい深くて、
私はとても気に入っています。
一点物にこだわっているシックのことだから、
全く同じデザインパターンのものは作ってないと
思いますが、似たものはあります。
実は私の所にもありますので、
次回はそれをご紹介しましょう。
ちなみに、8時間このキューを抱きしめ、
一旦はオーナーになったその彼は、
このキューに惚れ込んだおかげで、
しなりの大きいシャフトじゃないと
撞けないような球や撞き方を、
集中的に練習して習得してしまいました。
見越しが大きなキューですが、
撞点を内側に寄せながら
柔らかくさばく撞き方もマスターして、
上手く転がしていた覚えがあります。
自分にキューを合わせるのではなく、
キューに自分を合わせて行く。
そうすることで技術の幅が広がって
行くことがあるということを、
改めて感じたキューでもあります。
また、色々な人の厚意や協力があって
手元に戻って来たキューですので、
私にとっては計り知れない価値があります。
おそらく私はこれを使い続けるでしょう」
(了)