〈BD〉寄稿『あなたの知らないキャロムキューの世界』。vol.4「お前のキューは何色だ!」

 

キャロムキュー事情に精通している

「酔爺」氏が語る、

知られざるキャロムキューの世界。

 

第4回となる今回は前回の続きで、

キャロムキューを作っているメーカー

(ブランド)に焦点を当てています。

 

今回は酔爺氏が入手した、

あまり一般的には存在を聞くことのない、

アメリカンカスタムメーカー作の

キャロムキューのお話です。

 

…………

 

酔爺・記:

 

 前回は日本でポピュラーなキャロムキューおよびメーカーを紹介した。しかし、キューというものには「カスタムの沼」と呼ばれる闇が存在する。アメリカンカスタムとキャロムキューという取り合わせは一般的ではないが、必ずしも存在しないわけではない。筆者もこれまで様々なキャロムキューを様々な機会に購入したり、オーダーしてきた。今回(第4回)と次回(第5回)ではその中で印象深いものをいくつか紹介しよう。

 

…………

 

■ シューラー(Schuler Cues)

 

シューラーキュー
シューラーキュー

 

 もうかれこれ20年以上前の1996年のこと。フィラデルフィアのバレーフォージュで初めて開催される『スーパービリヤードエキスポ』(以下SBE)に参加する前に、当時のスリークッション世界チャンピオンのサン・リーの店がニューヨークにあるということで遊びに行ったことがある。

 

 その頃サン・リーが使用していたのがシューラーキューで、SBEにもブースを出していると聞いて早速訪問した。そこではシューラーキューの代表、Ray Schuler本人がトレードマークの葉巻を咥え、自分のマッセキューでマッセのデモンストレーションを行っていたが、その横で来客に対応していたのが当時シューラーキューで働いていたIvan Lee(アイヴァン・リー)だった。

 

 彼は後にラシャメーカーの『Simonis Cloth』(シモニス)の米国社長となり、全米キャロム連盟の会長にもなるのだが、当時はそんなふうになるとは知る由もなく、私は彼を通してサン・リーモデルを参考にインレイパターンを変更したキューをオーダーしたのであった。

 

酔爺「どんくらいでできるの?」

Ivan「うーん、だいたい3ヶ月くらいかなぁ」 

酔爺「なんぼ?」

Ivan「◯×◯×ドル」

酔爺「あいよ。んじゃ、半額先に払っとくから残りは出来た時ね」

 

 ……などと話をしていたが、結局仕上がったのは6ヶ月後であった。まぁ、今も昔もカスタムキューメーカーの納期は当てにはならないということであろう。

 

 シューラーキューでは他にも、故アレン・ギルバート(アメリカのキャロムプレイヤー)の家に遊びに行った時に、「これが俺のキューだ。買わねぇか?」と言われて購入したギルバートモデル(↓)も所有している、その時本人は「俺が死んだら価値出るから。ワハハ」などと言っていたが、今となっては本当に形見となってしまった。ちなみにその時「一緒にこのケースもどうだ」と言われて見せられた、アウターシェルが全て象革のアメリカンバイナルは今どうなったのだろう……。

 

シューラーキューアレンギルバートモデル
シューラーキューアレンギルバートモデル

 

 レイ・シューラー本人は2002年に故人となってしまったが、弟子たちがそのブランドを受け継いで現在は『Schuler Cue LLC』としてキュー製作を続けている。

 

 シューラーキューの大きな特徴は「Schuler Joint」と呼ばれるジョイント構造で、ネジのスレッドは5/16-14(14山)であるが、ピンは真鍮製の中空構造で短くカットされており、ジョイント部への荷重を出来るだけ軽減する構造になっている(↓)。

 

シューラージョイント
シューラージョイント

 

 また、シャフトはプール、キャロムあわせて4種類のテーパーを用意し、そのいずれもが交換可能となっている。このことからもわかるようにジョイントの径はプールとキャロムで同じサイズとなっている。全長に関してはキャロムキューでは56インチのサイズを採用しており、ロンゴーニなどと同じ長さとなっている。

 

 シューラーキューはヨーロッパでも人気が高く、かつては神様レイモンド・クールマンス(ベルギー)も一時期使用していた。中でも特にトルコではトッププレイヤーのM・N・チョクルが使用していたこともあり、根強い人気を誇っている。(現在チョクルは『セオリーキュー』を使用)。

 

…………

 

■ RC3

 

RC3
RC3

 

 また、別の年に『SBE』を訪れた際、ブースの間をウロウロしていると『RC3』のRichard Chudy(リチャード・チュディ)から声を掛けられた。「ヘイ、酔爺! おまえはいつもここに来るとビリヤードキューを探しているから作ってきてやったぞ」と言いつつキューを2本見せて来るではないか。

 

酔爺「は? 新手の押し売りか?」

RC3「ほら、見てみろビリヤードキューだ、なんならポケットのシャフトもつけてやるぞ」

酔爺「ん、そうかとりあえずなんぼ?」

RC3「こっちがン千ドルでこっちがン千ドル」

 

 1本はRC3が当時導入した最新式のCNCを駆使したノーラップのキューで、もう1本は黒檀にホーリーウッド、ハギはRC3のトレードマークとも言える”アシンメトリカルポイント”(片ハギ。↓)、長さは55インチ、シャフトはストレートテーパーでショートフェラル、そしてジョイントはG10ガラスエポキシフラットフェイス……という、まぁ言ってしまえばいつものキューを短くしてキャロム仕様にしただけとも言えるものだが、ネタとしてもなかなか美味しいところなのでその場で購入。

 

ホーリウッドアシンメトリカルポイント
ホーリウッドアシンメトリカルポイント

 

 その場では試すことは出来なかったのだが、いつもの球屋で使ってみたところ思ったより使いやすく、一時メインキューとしても使用していた。結構気に入っていたので、更にもう1本追加でバーズアイストレートでウッドグリップのキャロム仕様のキューをオーダーし、それはまだ手元に残っている。

 

 G10ガラスエポキシフラットフェイス
G10ガラスエポキシフラットフェイス
RC3 バーズアイウッドハンドルモデル
RC3 バーズアイウッドハンドルモデル

 

連載第5回に続く。

 

(了)

 


初回

第2回

第3回

 

第4回

第5回

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