キャロムキュー事情に精通している
「酔爺」氏が語る、
知られざるキャロムキューの世界。
第5回となる今回はいよいよ最終回。
キャロムキューを作っているメーカーに
焦点を当てています。
酔爺氏がキャロムキューの一点物を
オーダーしたメーカーはまだまだありました。
プールキューで有名なあのメーカーも……!?!?
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酔爺・記:
これまで4回に渡って紹介してきたキャロムキューであるが、今回が最終回。今回は前回の続きと、キャロムキューの今後について考えてみたい(※「タイトルと違う!」というツッコミは無しでお願いしたい)。
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■ ランブロス(Mike Lambros)
ランブロスのカスタムキューは大阪の江辺公昭プロが日本で紹介したこともあり、比較的有名だが、江辺プロより先にキャロムキューをオーダーしていたのが私、酔爺である(笑)。
『スーパービリヤードエキスポ』に初めて参加したランブロスに「こいつら、ただもんじゃねぇ」と感じた筆者は、プールキューを1本購入する際にキャロムキューの製作について尋ねてみた。すると驚いたことに二つ返事で「おう、作ってるぜ、ついでに今新しいジョイントを開発して、それがキャロムにぴったりだぜ」との答えが返ってきた、何を隠そうそれが『ウルトラジョイント』である。
納期は半年くらいとのことだったが、例のごとく結局1年以上待つことになった。仕上がりは申し分の無いものであったが、友人から頼まれ手放すことになった。
ちなみに今はなき『ビリヤードマガジン』誌でランブロスが紹介された時、そこに掲載されたオーダーリストの写真に酔爺の名前が載っている。ランブロスのキューも最終的には2本頼んだのだが、現在手元に残っているものはない。
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■ ハーセック(Joel Herceck)
現在では極めて入手困難なハーセックにキャロムキューをオーダーしたこともある。ハーセックの特徴でもあるバーテンスペイン譲りの”フルスプライスブランク”は、グリップ部分での分割がなく、いわゆる”2ピースタイプ”で作成できること。またグリップ部分にも自然と模様が入るためキャロムキューとしても十分使えるんじゃないかと考え発注した。
ハーセックから「シャフトのスペックがわからんから教えてくれ」と言われて、当時使用していたシューラーキューのシャフトを送付して、同じ寸法で作成してもらったのも良い思い出である。
約2年ほどかかって出来上がったキューは想像通りの美しさで、デザイン的には非常に気に入っていたのだが、友人からどうしても譲って欲しいということで手放してしまった。恐らく現在ならその希少性から購入時の金額のン倍で売ることも出来るであろう。
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■ ディックマン(Dennis Dickman)
アメリカのキャロム界を語る上で忘れてはならないのがディックマンである。デニス・ディックマンが作成するキューはネイティブアメリカンのデザインをモチーフとした独特な世界観を持っている。
ディックマンは、かつて日本でも活躍していたキャロムプレイヤー&コレクター、カール・コンロン氏とも昵懇の仲で、氏が亡くなられ、所有していたビリヤードコレクションのオークションを実施した際には、ディックマンが窓口となっていた。
オークションリストにはもはや日本で手に入れることすら難しい松山金嶺の『球撞術』や、NHK趣味講座のビリヤード教本など、もはや稀覯本と呼んでも良いような書籍が数多く含まれていた。このオークションの売上はキャロム発展のための基金として使われ、その後ラスベガスで開催された『3Cワールドカップ』は「カール・コンロン・メモリアル」となっていた。
ちなみに、オールドアダムのキャロムキューに『CCS』と記載されたモデルがあるが、これはカール・コンロン・スペシャルの略である。
話を戻すと、ディックマンキューのテーパーはヨーロピアンテーバーを採用。これについて聞いてみると、昔カール・コンロンが故・小森純一プロを連れてディックマンのもとを訪れた時に、小森プロのキューから採寸した寸法を元にしていると語ってくれた。また、ディックマンはキャロムキューのジョイントには木ネジを採用するケースが多く、バタフライポイント(タケノコ)のキューも作成している。
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■ 韓国キュー
ここまで紹介してきた日本製・欧米製のキュー以外にも近年シェアを伸ばしてきているのが、一大キャロム大国となった韓国のキューメーカーたちだ。代表的なメーカーとしてはハンバット(Hanbat)、JBS、ケイキュー(K-CUES)といった名前が挙げられる。
まず、Hanbatは韓国でも老舗のメーカーで、韓国プレイヤーにも数多く使われている。最近では『Plus 5』シャフトが有名であるが、様々なハイテクシャフトおよびバット構造を採用したハイエンドキューを作成している。また上記画像のようなかなり独創的なデザインのキューも数多く手がけている。
JBSは比較的安価なローエンドモデルを展開しているメーカーというイメージではあったが、最近ではプロモデルラインを発売し、ラインナップを充実させている。
そして、ケイキューはKan氏が製作しているカスタムキューと呼んでも良い少量生産のメーカーで、国内では小野寺健容プロが使用している。Kan氏は奥方が日本人で本人も日本語は非常に堪能であり、一時期Sasaki Cue(大阪)で修行をしていた。丁寧な作りとデザイン、六角形のコアを2重に入れた構造など独創的な構成で使用ユーザーからの評価も高い。
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さて、これまで様々なキューを紹介してきたがいかがだろう。キューに求めるものは人それぞれ。性能を至上とすることもあれば、デザインを優先することもあろう。個人的にはパワーがあって見越しが少なくてよく切れて感触がよくてデザインが良くてジョイントキャップが格好良いいキューがあれば他には別に要求しないが、残念ながらこれらの要件を全て満たしたキューは見たことが無い。
そして、キャロムキューはその競技の性質上、スピンを掛けたショットが前提となるため、求められる性能の評価はプレイヤーのプレースタイル(フォーム・ストローク)に依存する形にならざるを得ない。
やはり今後注目されるのは人工素材であろう。現在、PREDATOR社の『REVO』(プールキュー用カーボンシャフト)を使用しているキャロムプレイヤーも何名かいるが、本格的にキャロム用としてのカーボンあるいはそれ以外の人工素材を使用したシャフトが近い将来に現れて来るであろう。恐らくはハイテクシャフトが出た当時の守旧派と同様、あるいはゴルフのカーボンクラブが出たばかりのパーシモン派のように、一部に拒否反応を示されるであろうが、最終的には受け入れられていくであろう。
個人的に期待しているのは、人工素材であればより詳細に個人のデータに基づいたチューニングが可能になるのではないかということである。そのためにはマーケットのさらなる拡大が必要ではあるが……。
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さて、これまで5回にわたりキャロムキューについてその構造、流派から様々なメーカーまでを紹介してきた。読者の理解の一助になれば幸いである。この連載は今回が最終回。別の機会があるかどうかはわからないが、またBDで、あるいはビリヤード場か試合会場でお会いしましょう。――酔爺
(了)
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