〈BD〉「~One Hit Wonders~ 一発屋キューメーカー発掘」――Detective K season 3 episode 02

 

私はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

周囲からは”K”と呼ばれている。

 

前回は『スーパービリヤードエキスポ』

(SBE)現地からの、リアルタイムレポート。

 

体力を削られ、回復するのに時間がかかった。

仕切り直して、これからも調査を続けて行くぜ。

 

*****

 

『ビー・ビー・ビー!』

 

BDからメッセージだ。仕事の依頼だな。

 

『SBE、ご苦労様でした。』

 

礼には及ばん。

だが連日のレポートは疲れたぜ。

 

『まぁ、それはそれとして、今回の依頼です。

一発屋だったキューメーカーについて

調べてください。』

 

一発屋か。音楽の世界では

「One Hit Wonder」ってやつだな。

 

だが、キューを1本作ってオシマイ、

ってメーカーはそもそもダメだぜ。

 

『わかっています。

ある程度の本数を作り、

名前もそれなりに知られながら、

短期間で消えたメーカーを

調べてほしいのです。』

 

それなら納得だ。

 

オレはキュー探偵K。その依頼、引き受けた。

 

*****

 

カスタムキューは、

道具であると同時に嗜好品。

 

キューメーカーは、プレイヤーや

コレクターから選別される立場。

 

日本でも知られるほどの

アメリカのカスタムキューメーカーなら、

クオリティやデザインなど、

それなりの水準に達していたはず。

 

それにも関わらず、さくっと、あるいは

ひっそりと消えたメーカーを紹介しよう。

 

*****

 

 

NOVA(ノヴァ)

所在地:ウィスコンシン州ウェストベンド

 

社長のノバート・ワグナーは、

マクダーモット社が最初期に雇った

スタッフという経歴を持つ。

 

数人のスタッフとともに、

年間700本程度を製作していた。

 

ショーンやジョスにも通じるデザインと、

指を刷毛代わりにして仕上げ塗装するほどの

丁寧な作りで品質は高かった。

 

1990年代後半、日本にも輸入されていたが、

当時は日米でカスタムキューの

デザイントレンドが急速に変化していた時代。

その波に乗れず、

数年後にメーカー自体が姿を消した。

 

*****

 

 

Bella Sera(ベラ・セラ)

所在地:ルイジアナ州シュリーブンポート

 

所在地を見ただけで「ピン」と来たら、

相当なカスタムキュー好きだぜ。

キューメーカー界の巨匠、

ビル・シックと同郷だ。

 

ベラ・セラは数人で製作され、

中心人物のウェイン・アンダーソンは、

もともと『It’s George』、

いわゆるジョージケースを製作していた。

 

ビル・シックとも深い親交があり、

1990年代前半には同名ブランドの

キューも作っていた。

 

これだけのバックグラウンドがあれば、

良いキューを作れないはずはない。

 

オレ自身、1本オーダーしようと思ったぐらいだ。

 

だが、デザインの作風が一定せず、

評価が定まる前に本国で消えた。

 

*****

 

 

Mike Sigel(マイク・シーゲル)

所在地:フロリダ州ウインターガーデン

 

殿堂入り名プレイヤー、

「キャプテン・フック」の異名を持つ

マイク・シーゲル自身が製作していたキュー。

 

工作機械はキューメーカーでもある

ブラッドワース社が手掛けたものだ。

 

最初から高級志向で、マラカイトや

アズライトなどの半貴石を大胆に使い、

離れていてもそれと分かるほどの

大振りなインレイデザイン。

 

ダイヤ入りの最高級モデルまで作って

話題をさらうなど、マーケティングは

超強気かつ巧み。特に日本では、

プレイヤーとしての絶大な知名度もあり、

かなりの人気を得た。

 

このオレが気付かないうちに、

かなりの本数が国内に出回っていた。

 

しまいには本人が来日して、

あの『日本橋三越』で販売したほどだ。

 

ただ、試合でミスした際、怒りで自ら

製作したキューを破壊して評判を落としたり、

 

雲散霧消した『IPT』と密接な関わりを

持っていたりしたが故に、

 

キューメーカーとしてもプレイヤーとしても

表舞台から身を引かざるを得なくなった。

 

今でも使ってみたいキューではある。

 

*****

 

 

South East(サウス・イースト)

所在地:テネシー州クラークスビル

 

「サウス」と言えば「サウスウェスト」を

指すカスタムキュー業界においては、

天をも恐れぬネーミング。

 

1998年に登場した際は

平凡なデザインだったが、キューメーカー、

レオナルド・ブラッドワースの息子、

ドナルド・ブラッドワースが参画するように

なって、どハデなモデルも作り始めた。

 

ただ日本では、

キュー尻が折りたたみ傘の柄のように伸ばせる、

エクステンション装備のモデルに需要があった。

 

「その伸びるキュー、なんていうメーカー?」

「サウス……」

「サウスウェスト!?」

「……イースト」

 

という一発ギャグのため買う、

みたいな扱いではあったが、

それなりの存在感はあった。

 

もしこのエクステンションが当時より

軽量化できれば、今なら大ヒットだろう。

だが、人気は伸ばせなかったのだ。

 

*****

 

 

Paul Dayton(ポール・デイトン)

所在地:フロリダ州フォートピアース

 

一発屋のカテゴリに入れるには忍びないが、

採り上げる。

 

多彩な銘木を使用しながら、

クラシックな4剣と独特な飾りリングを

基調としたデザインで、一目で

ポール・デイトンと分かるスタイルを確立した。

 

作者のポール・デイトン自身、

紳士的、かつ笑顔を絶やさない好人物。

 

その人柄もあり、1990年代末から、

かなりの本数が日本に輸入されており、

価格も比較的手ごろだったゆえ人気を集めた。

 

銘木好きなコレクターなら、

1本欲しいと思わされる魅力を持っていた。

 

しかし、2000年代半ばになると、

ぱったり製作を止めてしまった。

 

もう少し続けていれば、更に評価が

高まったであろう、惜しいメーカーだ。

 

*****

 

 

Omen Custom(オーメン・カスタム)

所在地:フロリダ州メルボルン

 

ピート・オーマンが1993年から製作する

「オーメン・カスタム」は、

1990年代後半から

SBEでブースを構えていたことで、

日本に輸入されるようになったメーカー。

 

その名前がキャッチ―(笑)だったこともあり、

ちょっとオカルトなニオイの「オーメンキュー」、

あるいは、作者の名前から「おまんきゅー」

あるいは……。(以下略)

 

オーナーは、

キューのブランド名を口にする都度、

誇らしさと少々の恥ずかしさを感じつつ、

少しずつ呼び名を変える快感は、

他の追随を許さなかった。

 

ただ、それが災いしたのか、

数年後には国内から姿を消した。

 

銘木の美しさを生かした、

シンプルで好ましいデザインのキューなのだが、

それよりもネーミングは大切、という教訓だ。

 

*****

 

 

Showcase Custom(ショーケース・カスタム)

所在地:コロラド州ウェストミンスター

 

カスタムキュー人気が高まっていた1990年代末。

 

当時世界最大のビリヤード関連見本市、

『BCAトレードエキスポ』に、

オレと酔爺はほぼ毎回参加していた。

 

ある年のイベント初日、

ショーケース・カスタムのブースに

2人は目を奪われた。

 

大胆な銘木の使用、斬新なインレイデザイン、

そしてヤンチャな若いスタッフ。

 

我々2人は、限りない可能性と才能を感じて、

躊躇なく購入。

 

帰国後周囲からはなかなかの反響があり、

これはイケると思った。

 

しかし独特過ぎるシャフトテーパーや

デザインにより、人気が爆発する前に終わった。

 

おっと、これでは一発屋というより、不発弾だな。

 

*****

 

その他、

他メーカーを圧倒するド派手なインレイで

評判を得たCastle(キャッスル)

 

オメガ/dpkやコグノセンティと親交があり、

長さ59インチを標準としていた

Mystyque(ミスティーク)

 

キュー尻に独特のふくらみを持たせた

Perry Weston(ペリー・ウェストン)

 

打ち上げ花火のように輝いて消えた

メーカーはいくつもある。

 

もし、手元で眠らせているならば、

すぐにケースへ入れて玉屋へ向かうことだ。

 

独特の撞き味やデザインで、

周囲のプレイヤーが集まってくるだろう。

 

一発屋は、人を引き寄せる魅力を持つからこそ、

記憶に残る存在なのだ。

 

*****

 

もし新たな依頼があれば調べるぜ。

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

Detective “K”についてはこちら

 

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