都市圏のターミナル駅に複数の
大型店舗を構えている『バグース』。
バグースが、競技者層・一般層を問わず
多くのリピーターを獲得している
理由の一つとして、
「ビリヤードテーブルと備品の
クオリティの高さ」が挙げられます。
ハウスキュー、ボール、チョーク、
そしてビリヤードテーブル（ラシャ）に
至るまで、常に手入れが行き届き、
店舗による違いもほとんどありません。
この「バグースクオリティ」は
一体どのようにして維持することが
出来ているのか。先日、その一端を
体験する機会に恵まれました。
それがバグースの
新卒・中途採用社員を対象とした
『ビリヤードメンテナンス講習会』です。
これは社内研修なので、通常は部外者は
立ち入ることは出来ませんが、
今回は特別に見学させていただけることに。
そしてそれは、
業界のリーディングカンパニーである
という自負を強く感じさせる、
内容の濃いものでした。
以下、当日の模様を振り返ります。
…………
6月某日、『バグース道玄坂店』に
15名のフレッシュなバグースマン・
バグースウーマンたちが集合
（※講習会は別日にも行われており、
新入社員たちは分散して受講しています）。
彼らは今年4月に入社した新卒社員と、
この１年の間に中途採用で入った社員で、
全員がバグースの各店舗で勤務しています。
…………
講師を務めるのは、バグースの
チーフインストラクター・西尾祐プロ。
講習会のメインテーマは
「ハウスキューのタップ交換」について。
まず西尾プロはハウスキューを手に、
タップというパーツの持つ役割や、
良い状態・悪い状態について
解説を始めます。
新入社員たちは店舗から持参した
ハウスキューを手にしながら、
説明に耳を傾けます。
なかには、ビリヤードテーブルのない
店舗に務めている人もいますが、
この講習会は基本的に全新入社員必修。
いずれビリヤードテーブルのある店舗に
移る可能性があるから
というのも理由の一つですが、
『ビリヤードを基幹事業とするバグース』
の一員として、本講習は
欠かすことの出来ない基礎教養である
という考えに基づいています。
…………
西尾プロがタップ交換の手順を実演し、
それを真似る形で、
新入社員たちも作業に入ります。
ほぼ全員タップ交換は「初」。
道具を扱う手つきはぎこちないながらも、
西尾プロの一挙一動を凝視しながら、
古いタップの取り外し～先角の天面の均し
という工程に取り掛かります。
…………
刃物を使う工程が複数あるので、
西尾プロは引き締まった面持ちで
15名それぞれの進捗状況をチェック。
新しいタップの底面の均し～
先角のマスキング～接着～乾燥～
側面の削り～仕上げのヤスリがけ……
と工程が進むうちに、それぞれの
得手不得手や個性も見えてきて、
西尾プロは手際や仕上がりを確認しながら、
「おお、良い感じで出来てるね」
「これはお店に置けないなぁ」と
笑顔を見せる一幕も。
新入社員たちはすぐに2本目の
タップ交換に入りますが、
1本目よりは要領が掴めてきた様子。
同僚の手元を覗き込み合い、
「水平、取れてる？」
「刃の当て方はこうだよ」と
声を掛け合いながら作業に集中していました。
彼らの先輩にあたる道玄坂店の店長、
下脇さんも、慣れた手つきで
タップ交換を実演しながら
全員のもとを回って助言を送ります。
…………
2時間が経過する頃には、
15名×2本、計30本のハウスキューの
タップ交換が完了。
中には、未経験者が作業したとは思えない
美しい仕上がりのキューも多数ありました。
「では皆さん、7月末までに一人5本、
ハウスキューのタップ交換をして、
店舗責任者に見てもらってください」と
西尾プロが課題を出して、
タップ交換の部はお開きに。
…………
この日初めてタップ交換を行ったという
大安祥生（バグース錦糸町店）さんと
澄川晴海（バグース池袋西口店）さんは、
「タップ交換、難しかったです」と
口を揃えていましたが、
「絶対に上手くなりたいです」と
力強く答えてくれました。
「西尾プロに及第点をいただき、途中から少し楽しさも感じていました。本数をこなしていけばもっと上手く出来ると思います。
先日、お店で常連様に『タップ交換、出来る？』と聞かれ、期待に応えられなかったことを残念に思っていました。いずれはお客様のキューのタップ交換まで出来るレベルまで上達したいと思います。
タップ交換を含め、ビリヤード用品のメンテナンス全般に、『お客様に最高のサービスと環境でプレーを楽しんでいただく』というバグースの理念が息づいていると思いますので、そこを意識しながら向上させていきたいです」（大安さん）
「私が勤務している池袋西口店はビリヤードテーブルは1台だけですので、私が頻繁にタップ交換をするのは少し先のことになるかもしれませんが、道具に関する最低限の知識を得られましたし、この経験は店舗勤務の様々な場面で必ず活きると思います。
講習を受講したことで、ビリヤード用品だけでなくどんな道具・設備も常に良い状態に保ち、バグースをご利用いただくお客様に満足感を得ていただくのが私たちの務めだと、改めて認識することが出来ました」
（澄川さん）
…………
タップ交換の実習の後は、
シャフトのメンテナンス&クリーニング、
ハウスキューの曲がりチェックと補正方法、
ボールのクリーニング、
テーブル清掃、
チョークメンテナンス……といった
各項目の講習が続きます。
どれもビリヤード場スタッフの日常的な
業務として知られている仕事ですが、
「この工程・この動きには
そんな意味があったのか」と
BDも初めて知ることも多くありました。
高い専門性とキャリアを有する
インストラクターが、全新入社員に
ビリヤード用品メンテナンスの
正しい知識と手順を授ける。
当たり前のことに思えますが、
これだけ体系的に、そして全員一律で
学べる場はバグース以外には
ないのではないでしょうか。
最後に、西尾プロから
「ハウスキュー一つ、チョーク一つでも、
バグースのコンセプトの
エンターテイメント＆ホスピタリティー、
『お客様の期待を超越する』を
意識してメンテナンスをしてください」
という言葉が新入社員たちに贈られて、
講習会は閉会となりました。
余談ですが、バグースでは
責任者クラスの社員を対象とした
『アドバンスド講習会』も実施しており、
その名の通り、お客様からの
より踏み込んだ要望や、特殊な事例にも
対応出来るスキルを伝授しているとのこと。
そこまでやっているのか……と驚きました。
…………
最後に、
このビリヤードメンテナンス講習会の
概要や狙いなどを、
改めて西尾プロにお聞きしました。
西尾祐プロ・談：
「バグースではビリヤードだけでなくダーツ、卓球、ゴルフなど様々なアミューズメントを扱っていますが、もともとビリヤードから始まったブランドであり、創業時からビリヤードテーブルと備品のクオリティの高さが特長の一つ。その理念とメンテナンスのノウハウをしっかりと継承していくために、毎年この時期に新入社員に教えています。
僕自身、2001年の入社当時にハウスキューの状態の良さに驚きました。今でも『ハウスキューがしっかりしているからバグースで遊びたい』という声をプレイヤー・一般層問わず多くの方からいただきます。曲がりがなくて、タップがちゃんと付いていて、滑りが良いハウスキュー。我々としても、せっかく来てくださった方に少しでも良い道具で快適にビリヤードを楽しんでいただきたいと思っていますので、メンテナンスを怠る訳にはいきません。
新入社員の中にはビリヤード経験のない人もいますし、タップ交換のスキルは一朝一夕で身に付くものではありません。ですので、こちらとしても新入社員たちに完璧は求めていません。この講習で最低限『本当に良い状態とは何か』ということを理解してもらえたらと思っています。『ここまでやって初めてお客様にお使いいただけるのか。バグースではこのクオリティーが求められるんだ』というところです。メンテナンスマニュアルも作ってはいますが、マニュアルだけでは『その手順ややり方にどういう意図があるのか』という部分まではなかなか共有出来ません。この講習会は直接そこまで教えられる貴重な機会でもあります」
そう語る西尾プロの脇を、
キューケースを大事そうに抱えた社員たちが
「ありがとうございました！」と
言いながら通り過ぎて行きました。
あと数ヶ月もすれば、
各店舗で彼らがメンテナンスをした
ハウスキューを使う時が来るのでしょう。
バグースクオリティはこうやって守られ、
継承されていました。
（了）
