カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)。
今回は、洗練されたデザインと
精細な技巧で人気が右肩上がり。
『Tonkin』
(トンキン。代表はピート・トンキン氏)の
最新モデルをご紹介します。
※以前にもトンキンを紹介しています。
こちら。
…………
今日紹介するのは、今年4月に
アメリカで開催されたエキスポ、
『SBE』(Super Billiards Expo)で、
トンキンのブースに展示されていた
2018年完成のキュー。
ベース材にオリーブウッドを使い、
エボニーの4剣ハギをフォアアームと
スリーブに入れています。
ベニアは内側からメイプル・黄色・赤・黒。
色板の間に黒のペーパーベニア入り。
これだけであれば「クラシカルなモデル」
ということになるのですが、
そこはやはりトンキン。
ウッドグリップ部は
らしさあふれるデザインです。
エボニーをベースに、
シルバーとアンボイナバールで
幾何学的な意匠を施し、
他メーカーとは一線を画する
独自の世界を創出しています。
大原氏・談:
「これは今年のSBEのトンキンのブースに
展示されていた中で2番目に高いキューです。
ちなみに1番高かったキューは
SBEの人気投票で3位に入ったものです。
これはFor Sale。
参考価格は……140万円ぐらいでしょうか。
オリーブウッドはメイプルとは色が違い、
味わいも異なりますね。
本来は柔らかい木ですけど、
トンキンはセンターコア構造を使って
堅牢さを補っています。
そして、フラットな重量バランスを保つために、
ジョイントピンにはカーボンと思われる
材料を採用しています。
このリングワークは私は他では見ていません。
トンキンはリングワークにこだわっていて、
人と違うものを常に模索してますから、
きっとこのリングは、
このモデルのために作られたものでしょう。
そしてなんといっても、
このグリップ部がかっこいいですよね。
彼のデビュー作もウッドグリップのところに
ものすごく細かい装飾が施されていて、
それが彼の作風・トレードマークとして
認知されるようになりました。
ただ派手に作り込んでいるだけではなく、
例えばこのキューであれば、
シルバーのラインが光り輝き、
アンボイナバールの赤みが
引き立つようなデザインを計算して
緻密に設計している。
ものすごく卓抜したセンスの持ち主です。
私もパッと見た時に、
『ああ、いいな』と思いました。
同時に『高そうだな』とも(笑)。
実際のところ、このキューは最終日まで
買い手が付いていなかった。
その一つの理由は価格だと思いますが、
実はもう一つ理由があります。
トンキンは、このキューを展示した時に
自分のミスを見付けてしまったのです。
完璧主義者の彼は仕上げに満足出来なかった。
そして、誠実な男でもある彼は、
そんな状態のキューを人に勧めるのを
良しとしませんでした。
ということで、
私はその事情を聞いた上で購入しましたが、
彼はこれを一旦工房に持ち帰って、
完璧にリフィニッシュしたものを
後日私に送ってきました。
そんなやり取り一つとっても、
信頼出来るメーカーだということがわかります。
それに良いものを誠実に作るだけでなく、
新しいものを作ろうという気概もある。
今彼は、アメリカンカスタムメーカーの中で
トップ5に入るぐらいの所まで来ていると
思いますが、それも頷けるキューであり、
仕事ぶりだと思います」
(了)