日本を始めとして世界各国で
競技プレイヤー層を中心に強い支持を
得ているハイクオリティ積層タップ、
『斬』(ZAN)。
その代表を務める湯山功プロ(JPBA)の
インタビュー企画。後編をお届けします。
※前編はこちら
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語り手:湯山功
聞き手:BD
――斬タップのデビュー当時(2011年)、ユーザーや周囲からどんな反応があったのでしょうか?
「覚えてないです。というか、当時の僕は全く余裕がなくて、周囲の反応は気にせず、自分にとって良いものを作り続けるということしか考えていなかった。ニーズを探ったり、お客さんに合わせるということはしませんでした。プロプレイヤーの意見・フィードバックなども採り入れてないです」
――そうだったんですね。
「今に至るまでそういう開発方法はしていません。どんなに僕よりランキングの高いプロの方に言われても、タップ作りだけは僕の方が長けていると思っているので、自分の感覚を信じて、自分の作りたいものを作ってます。そこに斬タップの基本理念と僕のプライドがあります」
――タップはユーザーによって好みが大きく分かれるものでもあります。
「そうですね。斬タップは高反発という特徴がありますが、人によってその性質を『硬い』と捉える方もいるかもしれません。使っていただければ、ただ硬いのではないとわかっていただけるとは思いますが……。もちろん柔らかいタップを作るのが得意なメーカーも実際にありますし、それを好む人がいることも理解しています」
――ご自身がプレイヤーであることは、開発に有利だと思いますか?
「もちろんです。ただ、僕は自分のキュー切れや感覚に自信を持っていますが、それだけに頼って開発している訳ではありません。ショット時にタップやボールがどういう動きをしているのかという研究は相当やってきました。ハイスピードカメラなども駆使して科学的なアプローチで裏付けも取っています。そのデータはタップ開発だけでなく、タップ選びのアドバイスやレッスンなどに役に立っています」
――タップ論は感覚先行になりがちですよね。
「僕がタップ事業を始める前は、特にポケットビリヤードのプレイヤーには『柔らかいタップがベスト』とされていた。でも、僕はそれは違うと思っていたんです。タップに一番必要なものは反発力だろうと。弾力性と言っても良いと思います。それは自分の研究でも実証出来ましたし、言語化して伝えられるようになりました。ただ、さっきも言いましたが、『反発力のあるタップ』と言うと『硬いタップ』と思われてしまう難しさはまだあります」
――最近はその辺りも理解が進んでいるのではないですか?
「そうですね。それでもまだかつての『定説』はあちこちに見られます。例えば、特にキュー切れのない女性プレイヤーに多いのですが、男性の上級者に『柔らかいタップを付けて長いタッチで撞くこと』と言われて、それでも上手く引けなくて悩んでいる方とか。そういう方には『そもそもキュースピードが遅いのに、Sとか反発係数の低いタップを使っても引けないし押せないよ』という話はよくします。詳しい理屈や技術の話はまたの機会にさせてもらいたいと思いますが、僕の説明に耳を傾けてくれて、ハイブリッドマックスやグリップハードに変えてくれた方はたいがい納得してくれます。特に女性は効果がわかりやすいです」
――斬タップでも『S』と『プレミアムソフト』を作っていますが……。
「実際、Sもプレミアムソフトも人気のあるタップなんですけど、これはただ柔らかいだけじゃないです。柔らかいタップって、フィーリングがボケやすいものが多いですけど、ウチのは適度な反発力があるのでボケにくい。そこを評価していただいているのかなと思います。……ただ、すみません。プレイヤーとしての僕自身はSとプレミアムソフトは最近使ってません(笑)。もちろん、メーカーとして品質が安定していて、不良がないことはわかっていますが」
――いずれその辺りを詳しくお聞きしたいです。実演していただきながら。
「いいですね。キュー切れの理論にしても、タップやキューなど道具のことにしても、国内ポケットビリヤード界には強く言い切れる人がまだまだ少ないと感じています。僕がタップの開発・製作をしている根本には、自分がベストだと思うタップを世の中に出したり、それを自分で使うという形で、僕自身がその役目を担いたいという思いもあります」
――わかりました。最後に、現在開発中のタップや、作ってみたいタップはありますか?
「今はバックオーダーがかなりあり、皆様をお待たせしている状況で、新モデルを開発する余裕が全くありません。でも、進化していくために研究は続けていきます。タップの世界は競争が激しいので、きっとまた他のメーカーさんからすごく良いタップが出てくると思いますし、間違いなくそれに触発されて、製作意欲が高まってくると思います。それと今後はタップだけじゃなくて、『斬ブランド』として、他のビリヤード用品も発表する予定です。それも斬タップと同じく『僕自身が使いたいもの』にこだわって監修したものを出す予定ですので、楽しみにしていただければと思います」
(了)
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