〈BD〉【寄稿】ロニー・オサリバン御用達! 動画で見るパリスキューの作り方 by The First Break

 

昨年BD上で、

 

本場イギリスのスヌーカー事情に明るい、

ブログ「The First Break」さんから、

「注目若手選手Top 10」という

テーマでご寄稿いただきました。

 

今回は「スヌーカーキューが出来るまで」に

ついて、以下の動画を題材にして

解説していただきます。

 

「スヌーカースター、オサリバン、

パリスキューの工房を訪れる」

 

 

The First Break記:

 

 「スヌーカープレイヤーの理想は1本のキューを生涯使い続けることだ」。世界選手権7度の優勝記録を持つスティーブン・ヘンドリーはこのように発言しています。

 

 キューイストにとってキューとは自分の体の一部。キューは長さも違えば密度も違い、またその弾性力もショットに影響しています。そんなデリケートなものを頻繁に取っ替え引っ替えしていては、これまで自分が練習してきたショットを再現できません。自分のイメージするショットはそのキューだからこそ実現できる動きだからです。

 

 そんなかけがえのない”体の一部”を選ぶのは気の滅入るような大変な作業です。どういうプレーが出来るかは、そのキューにかかっているといっても過言ではありません。特にメインツアープレイヤーなら自分の人生を預ける道具になります。キューに対して世界で最も厳しい目を持つトッププレイヤーたちが絶大な信頼を置くメーカーが、ロンドンのフォレストヒルにあります。ジョン・パリスが経営する『パリスキュー』(Parris Cues)です。

 

 パリスキューの最大の広告塔は間違いなくロニー・オサリバンです。ロニーのキューといえば「パリスキューのアルティメット(最上位モデル)のトラディショナル柄」と言われるほどで、このキューで数々のタイトルを獲得してきました。

 

…………

 

 上記の動画ではそのロニー・オサリバンがジョン・パリスの工房を訪れます。今回はパリスがオサリバンにキューの製作過程を解説します。簡単に行程を追っていきましょう。

 

 まずパリスがやることは木の選定です。スヌーカーキューの主材は「アッシュ」で、木目や色味を見て、長年培った経験から良質なキューになり得るかを判断します(0:55~)。

 

 次に木材を、角材の状態から円柱になるように削ります(2:08~)。ある程度削ったら「テーパー」をつけていきます。テーパーとはシャフトの形、太さとその変化のことで、バットからティップに向かいキューは段々細くなっていきます。これは厳密な数字で表現できないのでなかなか伝わりづらいかと思います。僕もキューをオーダーする時は「細めのシャフト」と指定しますが、これくらい大雑把にしか表現できません。その分、このテーパーの形状が最もキューメーカーの特徴が現れる部分だと言われています。以前僕もパリスキューを使っていたのですが、パリスの特徴と言えるやや太めのテーパーにどうしても馴染めず、他メーカーのキューに乗り換えた経験があります。

 

 シャフトの形が整ったらバットに「スプライス」(接ぎ木。ハギとも)を入れていきます(2:47~)。ここでよく使われるのはエボニー(黒檀)やローズウッドといった素材です。なぜわざわざ別の木材でスプライスを入れるのかというと、2つ理由があります。第一はキュー全体の重さと重心を整えること、そして、このスプライスの所が握る部分になるので触り心地をよく(スムーズに)するためです。

 

 ここまで全て手作業でキューが作られていますが、機械を使う工程もあります。今回紹介されているのはバットエンドにエクステンションを装着するための雌ネジを埋め込む工程です(3:45~)。

 

 スヌーカーキュー製作のほとんどの工程は手作業で行われており、機械で木を削って作られるマシンメイドのキューとは分別されています。肌感覚ですが、イギリス人の気質なのかハンドメイドが好まれる傾向が強いです。

 

 スプライスの形が整ったらスヌーカーキュー独特の形状であるカット(バットエンド部分を平らにする)を入れていきます。これはキューの性能には直接影響はしないのですが、昔使われていた名残で今日にも受け継がれています。

 

 その後、キューの先端部分の加工へ。「フェロー」(真鍮の先角)を埋め込みます。これはシャフトの先端部分を衝撃から守るために取り付けられるパーツです(4:30~)。

 

 そして、シャフト(アッシュの木目)に墨を入れていきます。これによりさらに指通りがスムーズになり、木目もはっきりと見えるようになります。アメリカン・プール(ポケットビリヤード)のキューとは違い、スヌーカーキューは質素だと言われています。しかし、墨を入れて浮き上がってきたその木独特の模様こそスヌーカーキュー最大のオシャレポイントだと言えるでしょう。なんといっても世界で二つとない模様です。アロー(板目)の数や木目の模様を見て楽しめるのもスヌーカーキューを買う醍醐味ですね。

 

 最後にキュー先にティップを接着剤で取り付けて、はみ出ている側面を断ち落とし、天面を丸く仕上げたら完成です。

 

 全世界で大量生産・機械化が進む今の時代にあって、ほぼ全ての行程が手作業で行われるスヌーカーキューの製作。いかがでしたでしょうか? ロニー・オサリバン、ジャッド・トランプ、ニール・ロバートソン、ショーン・マーフィをはじめとする多くのメインツアープレイヤーたちが使用するパリスキュー。興味のある方は注文してみてはいかがでしょうか。

 

 日本のショップで購入するとシンプルなスタンダードモデルは10万円以下で手に入ります。もし最高グレードの「アルティメット」シリーズを購入したければパリスの公式ホームページか海外のオークションサイトへ行けば購入可能です。15万円ほどで購入できますが、なんといってもアルティメットのスゴいところは、手に届くまでの待ち時間が驚異的なのです。噂によると今、新品で注文すると製作に5年かかるとか……。

 

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The First Breakさん、

今回もありがとうございました!!

 

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