カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)。
今回は、2015年にこの世を去った名匠、
Tim Scruggs(ティム・スクラグス)の
古いキューを紹介します。
スクラグスは1972年から6年間、
Dan Janes(JOSS)の元で働き、
1978年に独立。
メリーランド州ボルチモアを拠点に、
クラシックなもの、モダンなもの、
そしてそれを融合させたデザインのものまで、
数多くのキューを製作しました。
…………
今回紹介するのは、
1980年代に作られたと思われる、
フローティングポイント(浮きハギ)の
キューです。
バーズアイメイプルをベースに、
ローズウッドの長短6剣の浮きハギを入れ、
スリーブはローズウッドをベースに、
スピア(槍)とレクタングル(長方形)の
インレイを入れています。
計3ヶ所に入れられたステッチリングも
程良い存在感でキューデザインを
引き立てています。
大原氏・談:
「私が入手したのは10年近く前かな?
もう覚えてません(笑)。
うち(UK Corporation)では、
スクラグスを取り扱ったことはありません。
でも、個人的に1本は持っておきたいなと
以前から思っていました。
スクラグスはその昔、他メーカーに先んじて
CNC旋盤をいち早く導入したメーカーで、
初めてCNC旋盤でフローティングデザイン
というものを製作・販売しました。
このキューがまさにそうやって作られたもの。
ハギがティアドロップに近い形になっていて、
この丸みが美しいですよね。
大成功したデザインの一つです。
そんな背景が頭にあったので、
ある時オークションでこのキューを
見掛けた時に衝動買い。
一時期、『アルファインターナショナル』が
スクラグスを熱心に取り扱っていましたので、
そうやって日本に持ち込まれたうちの
1本かもしれません。
さすがに古いキューなので、
リングの辺りを触っていただければわかりますが、
経年劣化で少しでこぼこしています。
金属と木では収縮率が違いますから
よくそうなります。
ただ、リフィニッシュすればすぐに直ります。
売り物にするかどうかを今に至るまで
全く意識していなかったので、
まだ何もやっていないのですが(笑)、
もし売るということになれば、
もちろん丁寧にリフィニッシュします。
値段に関しては、もしご興味のある方が
いらっしゃればご連絡ください、
というところです。
このフローティングのデザインは
JOSSでも一時期使われていたんですが、
スクラグスのコピーにしか見えなくなるので、
JOSSはこのデザインの生産を中止した
という逸話も残っています。
ちょうど映画『ハスラー2』ブーム
(1980年代後半)の頃です。
そして、以前ここでご紹介した
このスクラグスのデザインの
オマージュだろうと私は考えています。
私はティム・スクラグス本人とは
それほど親しい間柄ではありませんでしたが、
とても人柄が良く、実直で、
職人気質の人という印象を持っています。
営業熱心なタイプではなかったこともあり、
高いクラフトマンシップと
実際の商品の質の割には、
そこまで高い評価を得られて
いなかったようにも感じています。
私もどちらかと言えば、
彼のキューに対して第一印象でそこまで
惹かれるものがなかった方です。
全てがハイクオリティなんだけど、
どうもどこか普通な感じがしていました。
ただ、こう時間が経ってみると、
このキューのように、年月を感じさせない
完成されたデザインのキューが多くある。
そこがスクラグスの良さだと思います。
キャリアの終盤、2010年頃には、
長年の相棒であり、
自身もキューブランドを持っていた
マイク・コクランが亡くなり、
さらには奥さんも亡くなり……と
スクラグスは不幸続きでした。
しかし、彼がキューの世界に遺した功績は
決して小さなものではないと思います」
(了)