私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
周囲からは”K”と呼ばれている。
2018年は台風が日本にやたら上陸する。
玉屋に行くのも一苦労だ。
クルマでの移動がメインのアメリカ人には
理解されないのだが、
キューケースの防水加工は欠かせない。
傘兼用のキューがあれば、なお良しだ。
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『ビー・ビー・ビー!』
BDからメッセージだ。
シーズン3はイレギュラーな仕事ばかりだが……。
『最近、改めて思うのですが、
“コレクターの定義”とはなんでしょう?』
いきなり、真正面から切り込んできたな。
『例えば、本数で言ったら何本、
歴でいったら何年とか。
こういうキューは持ってないといけないとか。
こういう知識がいるとか……。』
ちょっと待て! 先走り過ぎだぜ。
『もちろん、そんなものは
公に決まっているわけもないですよね。』
明確な定義は、ないな。
『そこで、Kなりの
基準を提示してもらいたいのです。』
なるほど、わかった。
オレはキュー探偵K。
その依頼、引き受けた。
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まず、キューコレクションの定義。
プレーキュー、ブレイクキュー、
ジャンプキュー、マッセキューと
色々あるので、
同じ用途のキューが複数本ある状態、
すなわち2本以上の集合を
「キューコレクション」とする。
では、キューコレクターとは?
「キューコレクター」は、
「キューコレクション」を
所有していなければならない。
しかし、「キューコレクション」を
所有する個人やグループ、
あるいは組織全てを
「キューコレクター」と呼ぶべきか?
オレの考えではNOだ。
例えば、
あるプレイヤーが新しいキューを買い、
これまで使っていたキューと合わせて
複数本所有することとなった。
これまで使っていたキューは
とりあえず手元に置いておくだけ。
それだけでは不十分。
ただ複数のキューが手元にあるだけで、
「コレクター」ではない。
キューを複数所有するため、
自らの価値観に基づき、選別する
という明確な意思があって、初めて
「キューコレクター」と呼ぶべきなのだ。
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しかし、最初から
「キューコレクターになろう」とは、
誰も思わないだろう。
キューを複数持つ過程のどこかで、
「コレクター」に変わるのだ。
では、キューコレクターとなる瞬間とは?
オレの考えでは、最初の1本の次の次、
つまり2本目を手に入れた後、
短いインターバルで
3本目への欲望が湧くか否かだ。
「1本目より良いキューが、他にあるはず」
と思って買った2本目。
それで数ヶ月間プレーした後、
「これで十分」と思うか、
「さらにもう1本欲しい」と行動を起こすか、
ここがキューコレクターへの分水嶺なのだ。
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本来、プレーの道具として重要なキューは、
やたらと持ち替えるべきではない。
キューを替えたからといって、
すぐにプレーが上達するわけでもない。
周囲からの
「下手なのに道具はすぐ替えるヤツ」
という芳しくない評判も頂戴する。
それでも、3本目のキューを、
馴染みの玉屋で使うわけにはいかない
背徳感にゾクゾクしつつ買ってしまう。
まるでメインの交際相手以外に、
ひそかなパートナーを見つけた的な状況だな。
そして、
3本まとめて並べると見えてくるものがある。
「これでは足りない」。
3本目の横に、
そこにはないはずのキューが見えるのだ。
それは、3本目を購入する際、
迷ったキューかもしれない。
まだ実物を見たことがないキューかもしれない。
知り合いが使っているキューかもしれない。
「キューコレクター」誕生の瞬間だ。
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4本目以降は、何本所有しようが一緒。
周囲からの芳しくない評判は甘んじて受ける。
1本手にするたび、
その横に新たなキューの幻が見える。
その幻を現実のものとすべく、
ショップに通い、
ネットオークションを漁り、
キューメーカーと連絡を取り、
キューが並ぶイベントに足を運ぶ。
やっと手にすれば、また幻が見える。
その繰り返しだ。
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やがて、「キューコレクション」の成長、
つまり本数が増えるとともに、
コレクターの心の内で、キューを選ぶ
基準がどんどん明確になってくる。
ついには、他人から見ても
その「キューコレクション」から、
コレクターの心にある基準が分かるようになる。
基準がシンプルであればあるほど、
その基準に合ったキューの本数が
多ければ多いほど、
見るものは「キューコレクター」の
エネルギーを感じられるだろう。
その基準、すなわち
「コレクターの価値観」については、
稿を改めよう。
「コレクター」を定義するのは大変なのだ。
わかって……欲しい(汗)。
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この項続くぜ。
よろしくな、BD!
(to be continued…)
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