〈BD〉「K的コレクターの定義~価値観編~」――Detective K season 4 episode 01

 

私はDetective K。

 

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

いや、「探偵だった」というべきか。

 

~~~前回の顛末~~~

 

『やだなぁ、K。BDですよ。

TOCN調査ありがとうございました。』

 

ふぅ、焦らすな。

 

しかし、なぜBDが、

わざわざTOCN会場に?

 

『仕事の依頼はここまで、

と直接お伝えしたかったからです。』

 

どっきゅーん!

 

~~~~~~~~~

 

というわけで、オレは

MECCA Yokohamaの片隅で、

BDからダイレクトにクビを宣告された。

 

窓の外に見えるネオンが

オレを誘っているようだ……。

 

『話を聞いていますか?

新たなシーズンの開始、

と言っているんですよ。』

 

おお、そうだったか!

ネオン輝く店に行かずに済んだぜ。

 

『……そもそも

”K的コレクターの定義”が終わっていません。

 

仕事投げ出さないように!

ユー、アンダスターン?』

 

わかったわかった。

 

14-1のラックまたぎではないが、

足かけ2つのシーズンで調査だな。

 

season 4の開始だ。

 

オレはキュー探偵K。

依頼の続き、引き受けた!

 

*****

 

「K的コレクターの定義~誕生編~」で、

キューコレクターとは、

 

「自らの価値観に基づき、

選んだキューを複数所有するという

明確な意思を持っている個人や組織」

 

だと定義した。

 

そして、コレクターの脳内に、

1本手に入れるごとに次の1本が

幻のように浮かび、その繰り返しで

「キューコレクション」が

大きくなると述べた。

 

その過程で

コレクターの心に芽生えるもの。

それがコレクションの基準、

つまり「価値観」だ。

 

ありていに言えば、「好み」。

 

自分が好きなキューは何か?

キューの何が好きなのか?

 

それを自覚したところから、

本当のコレクションが始まる。

 

*****

 

コレクションの価値観は、

実にさまざま。

 

高価なキュー。

特定メーカーのキュー。

特定の素材を使ったキュー。

特定のデザインを持ったキュー。

特定の年代に製作されたキュー。

有名なプレイヤーが使用したキュー。

……等々。

 

例えば、ジナやサウスウェスト、

タッドなどをコレクションする、

というのは一番わかりやすい。

 

剣ハギを採用していた時代のショーン、

というニッチな基準で集めても、

すんなり理解されるだろう。

 

しかし、他人にとって

全く意味のない価値観もある。

 

例えば、オレ。

 

36歳の誕生日、

ビル・シックのキューを入手した。

 

そのステータスや、デザインの美しさは

第一の理由ではなかった。

 

最大の理由は、「4×9=36」。

 

「なぜシックを選んだのですか」と

聞かれたら、

 

「『しっく』さんじゅうろくで、

同い年だから」という

ダジャレを言いたかったからだ。

 

しかし、これは次の誕生日までの

1年しか使えないことに気付いた。

すぐにコレクションを断念した。

 

ある年の12月、キューが1本欲しくなった。

 

正月を迎えるにあたり、

買ってきた栗きんとんが目に入った。

 

「きんとんきんとんきん……、そうだ!」

 

オレはピート・トンキンのキューを

買うことにした。

 

しかし、これでは

毎年トンキンを買わなくてはならない。

1年限りにしておいた。

 

ファストフード店に入り、

喉が渇いていたオレはまず水を注文……

 

『ピコピコピコ!』

なんだBD、調査の途中だぞ。

 

『それ、マクウォーターでしょ!

K、ちゃんと目を覚まして書いていますか!』

 

わはは、少し暴走しただけだって(汗)。

 

閑話休題。

 

*****

 

 

やがてコレクターの心の中だけにある

「価値観」は、「エゴ」として表に現れ、

人間関係にも影響を及ぼす。

 

異なった価値観を持つコレクター同士の

人間関係は、友好的かつマイルド。

 

互いのコレクションを愛でて、称え合う。

 

「自分にはとても出来ない努力」と、

尊敬の念を抱く。

 

コレクション対象となるキューが

異なるからこそ得られる安息。

 

「自分にとって興味のないコレクション」は、

いわゆる「猫またぎ」。

 

所有欲や強欲が刺激されない、無害な存在だ。

 

ところが、同じ価値観を持つ

コレクター同士だとそうはいかない。

 

「素晴らしいコレクションをお持ちですね」

と互いのコレクションを愛でて、

称え合っても、これは「かりそめの平和」。

 

「なぜこのキューがそっち側にあるんだ!」

と、心の中では暗い炎が燃え上がる。

 

*****

 

「いつかそいつをオレのモノにしてやるぜ、

うひひ……」

 

コレクターの野望は、

ネットオークションやエキスポ、

あるいはコレクターズショーに現れた

1本のキューを巡る、現実の争いとなる。

 

ライバルを抑え、出し抜き、

目的の1本を手に入れた瞬間に訪れる感覚。

 

それは単なる満足を超えた、

勝利と征服の証。

 

逆に、目の前にあったキューを

さらわれた時の絶望。

 

想定外の1本をライバルが所有していると

知った際の焦燥と嫉妬。

 

その感情をエネルギーに、

コレクターは次の1本を探す旅に出る。

 

表面に噴出したコレクターの価値観、

すなわち「エゴ」。

 

それがぶつかることで

コレクションは増大してゆく。

 

良く言えば切磋琢磨。

実態は、奪い合いだな。

 

*****

 

果てしない苦労の末、

手に入れた1本1本の積み重ねが

コレクションとして提示された時、

コレクターの価値観が見えてくる。

 

価値観に合致したキューが

希少であればあるほど、そして、

コレクションの本数が多ければ多いほど、

キュー自身が持つ美しさと相まって

見るものの感情を動かすもの。

 

その背景には、

苦難と死闘の歴史が隠れているものだ。

 

コレクターとは、キューを求める狩人であり、

時にはキューを奪い合う戦士でもある。

 

*****

 

これまで2回に渡り述べてきたが、

簡単に言えば、

 

好みのキューが手元に溜まってきたら、

その魅力に気付いてしまい

次の1本を求めて止められなくなった、

というのが、コレクターというわけだ。

 

ま、本当に大切なのは、

目の前にある球をしっかり撞ける

ウデを持つことなんだがな(笑)。

 

*****

 

もし新たな依頼があれば調べるぜ。

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

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