私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を
引き受ける探偵だ。
12月も徐々に押し詰まってきた。
平成最後の年末と思えば、感慨深い。
探偵事務所は、ひっそりとして寒い。
ぴんぽーん♪
『どうも~、BDです。』
なんだBD、
年末のあいさつか、お歳暮か?
『ふふふ。
そんな格式ばったことじゃありません。
クリスマスにちなんだ仕事の依頼です。』
クリスマスにちなんだ?
『そう。クリスマスと言えばサンタ。
サンタの相棒と言えば?』
トナカイだな……。
『当たりです。そのトナカイにあるのは?』
真っ赤なお鼻?
『あー、惜しい!
頭にくっついているのは……。』
角だな。
『それです! キューの先端に
付いているのも"先角"ですよね。
似てませんか? わっはっは!』
BD、さては酔った勢いで
依頼しているな……。
『そうです、いやマジメにね、
先角の役割、歴史、素材について
調べてください。
メリークリスマース! よいお年を!
げらげらげら。』
わかった、オレはキュー探偵K。
クリスマスも正月もあったものじゃねぇ。
平成最後の年末仕事納め、
その依頼、引き受けた!
*****
シャフトの先端、
タップの下に取り付けられている
「先角」(さきづの)。
英語では”ferrule”、
「フェラル」とも呼ばれる。
シャフトに使われている木材が
衝撃や湿度の変化で割れるのを防ぐ
「割れ止め」だ。
傘やステッキの先端に付いている
補強部品も「フェラル」。
スヌーカーキューでは真鍮製だが、
「フェラル」と呼ぶ。
では、なぜ日本語では「先角」なのか?
これを「コツ」とも呼ぶところに
ヒントがある。
*****
「コツ」とは「骨」。
「角」とは、牛や鹿の「ツノ」。
つまり機能ではなく、素材の名称だ。
これは麻雀牌や印鑑の文化があるからだ。
麻雀牌は、かつては牛骨と竹が主な素材。
印鑑は水牛の角が素材の一つとして、
いまだに使われている。
象牙は高級、合成樹脂は安価という
基準は両者共通。
合成樹脂は安物的なニュアンスで
「練り」とも呼ばれる。
かつての日本において、ビリヤードの
主たるプレイヤー層は旦那衆。
たいてい麻雀も嗜み、
仕事で印鑑を使うことも多かったであろう。
それらと同列に捉えられた結果の
呼び名が「先角」だったのではないか。
ただ、牛骨が先角の素材として
使われたことがあったかはわからない。
その意味で「コツ」と呼ぶのは
不適当な気もするが、まあ良しとする。
*****
先角の素材は、麻雀牌や印鑑同様、
長らく象牙が最高とされた。
「象牙の先角は撞いた時の音が良い」
などと良く言われたものだ。
しかし、動物保護の観点や、
天然素材であるが故のバラツキ、
湿度の変化に弱く、
割れることがあるなどの短所、
素材としては高価であることから、
徐々に象牙製の先角は減少してきた。
一方で、シャフト材と比較して比重が高く、
かつ硬度が高い素材を先角に使うと、
手球にヒネリを加える際のトビ、
すなわち手球の方向性に
少なからず影響を与えることが、
研究によりわかってきた。
その先駆者が、1980年代のメウチ。
象牙やフェノリックリネン樹脂より
柔らかいPVC樹脂製の先角で、
影響を減らそうとしたのだ。
1990年代以降、
いわゆる「ハイテクシャフト」開発に
しのぎを削る各メーカーは、
重すぎず、硬すぎず、耐久性があって
チョークが付きにくく、かつ安価で、
ついでに見た目が象牙に似ていれば
なお良い、という素材を探し求めた。
ざっと素材名を列挙すると、
Micarta
PVC樹脂
ABS樹脂
Ivorine
Ivorex
Aegis
Juma
Titan
Elforyn
まだまだあるが、これ以上思いつかん。
異色なのは、メイプルを貼りあわせ
加工したOBキューの先角
(※トップ画像下から3本目)。
耐久性や、撞いた時の音を
多少犠牲にしても、
メイプルシャフトとの相性抜群の先角だ。
ま、「木を隠すなら森の中」
みたいな発想だな。
*****
さらには先角の長さも影響する。
ポケットよりも大きな球を、
ヒネリを多用して撞く
キャロムプレイヤーたちは、
早くからこのことに気付いていた。
ヒネリの撞点で撞く際、
タップが手球を捉えた瞬間、
先角がキュー先のしなりを抑え、
手球の方向性やヒネリの回転量に
影響してしまうのだ。
キャロム用のキューが、ポケット用に
比べて先端径が小さいだけでなく、
先角が11~12mmと短いのは、
その影響を最小限に留めたいからだ。
ポケットはゲームの性質上、
キャロムほどヒネリを多用しない。
ブレイクショットの衝撃でも壊れず、
ミスキューで手球がシャフトに
当たっても凹みや傷がつきにくいよう、
耐久性も考慮した約25mm(1インチ)の
先角が、ポケット用では一般的だった。
一方、PVC樹脂を採用したメウチは、
柔らかい素材の耐久性を考慮してか、
約31.5mm(1.25インチ)と、
より長い先角が特徴だった。
しかし、1990年代半ばに登場した
プレデター『314』シャフトは、
「シャフト先端部の軽量化」が
トビの軽減に重要な要素と考え、
約18.9mm(0.75インチ)の先角を採用した。
ここから、ポケットキューの
先角短小化が始まる。
先角の変革者としてのプライドがあった
メウチは、プレデターに強烈な対抗心を
燃やしたせいか、長い先角にこだわり続けた。
まぁ、当時のカスタムキュー好きが、
「先角は長い方がカッコイイ」だの
「短いと貧乏くさい」だのと、
見た目重視の考えを
持っていたせいもあるだろう。
しかし、20年後の現在、その差は明らか。
現代のプレデター『Z-3』、『OB-2+』、
メッヅ『WX900』に代表される、
タップの直径が11.75mm~12mmと小さい
「ハイパフォーマンス」シャフトは、
約10mm(0.4インチ)~
12.6mm(0.5インチ)と、
より短い先角が装着されている。
メウチもついに、
12.6mmの先角を付けた
“The Pro”シャフトを作るようになった。
もっとも、それ以外のモデルは、
相変わらず先角が長いままなのが、
メウチらしいところだ(笑)。
*****
そして平成末期、
プレデター『REVO』、
MIKI((株)三木)『IGNITE 12.2』
(2019年早々に発売予定)などの
カーボン製シャフトの登場により、
先角は短小化の極致、
「タップ座」の厚さとほぼ一緒か、
ついには
「先角なし」に至った。
木材より強い耐衝撃性を持った素材に
「割れ止め」は不要なのだ。
先角がないのは、コスト面でも
性能面でもメリットが大きい。
ついに先角の命運が尽きる時代が来た
……と思いきや、
「先角がないとシャフトの先端が
わかりづらく、撞きづらい」
という意見がプレイヤーから出てきた。
先角には、キューの先端を示す目印、
というヴィジュアル的な役割がある
ということに今更ながら気付かされた。
ナニ? 慣れの問題だって?
そう言ってはミもフタもない。
先角のように見えるペイントや、
アタッチメントが今後出回るかもしれん。
先角は、たとえ元来の役割が変わっても
当分不滅、ということだ。
もし新たな依頼があれば調べるぜ。
よろしくな、BD!
(to be continued…)
※Detective Kについてはこちら
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