〈BD〉「キューのインレイ学~20世紀デザイン編~」――Detective K season 4 episode 04

精巧で独創的なインレイの数々
精巧で独創的なインレイの数々

 

私はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

そろそろ春の足音が聞こえてくる季節。

同時に花粉症の恐怖もやってくる。

 

ビョビョーン!

 

BDからのメッセージだ。

 

『なごんでいる場合ではないですよ、K。』

 

えーと、なんだっけ?

 

『やはり忘れていますね。

インレイですよインレイ!』

 

あ……そうそう、インレイね。

忘れていないぜ(汗)。

 

『前回は材料編でしたが、

今回はインレイのキモ、

デザインをお願いします』

 

そうだな。デザインあってのインレイだ。

 

『はい。キューのデザインは千差万別ですが、

そこにはある種の法則やトレンドがあるはず。

それを調べてください。』

 

ふむ、語りだすと止まらないぜ。

ごはん三杯はイケるテーマだ。

 

『わかっています。

だからこそコンパクトな報告を期待します。』

 

深遠なテーマほど、依頼が軽いノリだな、BD。

 

わかった、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

「インレイ」とは、

「象嵌細工」とも呼ばれ、素材の表面に

図形を彫り、同じ形の別材料を嵌めこみ、

表面を平滑にすることでデザインを施す技法。

 

そのデザインを語るには、

字数がいくらあっても足りない。

 

そこで今回は、20世紀後半における、

キューのインレイデザイン発達史に限定する。

 

キューにおける、さまざまなインレイ

デザインが生まれた時期と背景は何か?

年代別に整理しよう。

 

*****

 

■ 1960年代初頭、アメリカ東海岸

 

1960年代から70年代にかけて、

多大な人気を誇り、ピーク時は1週間に

300本も製作するメーカーだった、パーマー。

 

アメリカ東海岸における

カスタムキューメーカーの草分け、

フランク・パラダイスともつながりが

あったピート・バーナーが、父のユージーン、

母のアイロナとともに設立したメーカーだ。

 

そのパーマーこそ、

真珠母貝(マザー・オブ・パール)の

インレイを取り入れた先駆け。

 

1968年頃のパーマー
1968年頃のパーマー

 

ギター装飾用素材として、

あらかじめ丸型や、四辺に切り込みが入った

菱形に加工された真珠母貝のインレイ材を、

専門業者から仕入れていた。

 

その結果、パーマーのインレイは、

ギター装飾から大きな影響を

受けることになったのだ。

 

パーマーはキュー製作用部品を、

ジョージ・バラブシュカをはじめとする

少量生産メーカーの求めに応じて販売した。

 

その中に、キュー製作用に特注された

真珠母貝のインレイ材も含まれていたのだ。

 

パーマーの生み出したデザイン様式は、

パーツそのものが他メーカーに

供給されたことで、広まったってわけだ。

 

*****

 

■ 1960年代中期、アメリカ西海岸

 

「キューに豪華な装飾を施せば、

高くとも売れるはず」と考えた、

ジナキューのアーニー・ギュテレス。

 

真珠母貝だけでなく象牙やシルバーも使い、

更に本来構造材であるはずのハギも

インレイ技法で入れ、

デザインの自由度を飛躍的に高めた。

 

ジナ(右から2、3、4、5本目)
ジナ(右から2、3、4、5本目)
TAD
TAD

 

同時期にキュー製作を始めた

タッドキューのタッド・コハラも、

ハデ好きな西海岸プレイヤーの

好みに合うデザインを生み出した。

 

ハギの先端に添える「クローバー」や、

キュー尻に入れた真珠母貝の

インレイを囲む「レクタングル」、

 

ドットと直線を組み合わせた「バーベル」や

「ガンサイト」などは、この二人が広めた

デザインと言って良いだろう。

 

*****

 

■ 1970年代

 

カスタム・量産問わず、他との差別化を

図るべく独創的なデザインが生まれた時代。

 

ジナキューが製作を止め、

ジョージ・バラブシュカが亡くなるという状況で、

ガス・ザンボッティの与えた影響は大きい。

 

ザンボッティ
ザンボッティ

 

真珠母貝ではなく象牙の板から自ら切り出し、

「プロペラ」「ピーコック」「スピア」

「カメオ」等、後に他メーカーがこぞって

コピーするインレイデザインを生み出した。

 

また、ロードプレイヤーとして

全米各地を回り、多くのキューに触れた

ダン・ジェーンズとビル・ストラウド。

 

2人が設立したジョスは、

いわばアメリカ全土に点在する

キューメーカーの良いとこどり。

 

1999年頃のジョスウェスト
1999年頃のジョスウェスト

 

ジョスとジョスウェストに分裂後、

他メーカーのデザインを昇華し、

それぞれ独自のインレイデザインに

進化させていったことは特筆に値する。

 

*****

 

■ 1980年代

 

石川英司氏のメウチコレクション
石川英司氏のメウチコレクション

 

映画『ハスラー2』ブームによる

キュー黄金時代の到来。

 

具体的なモチーフを大胆に

インレイしたのがメウチ。

 

1988年、社長のボブ・メウチが来日時、

「日本は、(バットのデザインやカラー

といった)キュー・スタイルという意味で、

アメリカの10年前ぐらい(の状況)※」と

言い放ったほど、当時は新鮮だった。

 

「ローズ」「クラウンジュエリー」

「ハイウェイ」など、メーカー型番以外の

ネーミングで呼ばれていたのも画期的だったな。

 

1988年製のリチャード・ブラック。UK Corporationより
1988年製のリチャード・ブラック。UK Corporationより

 

また80年代は、リチャード・ブラックや

ビル・シックに代表される、

より凝ったインレイデザインや、

貴重な銘木を用いたキューを製作する

プレミアムメーカーも台頭してきた。

 

「高価なものほど良い」という、

バブル経済に乗った感じだ。

 

一方、キューデザインに抽象性を

持ち込んだのが、当時サウスウェストの

ジェリー・フランクリンと

共同製作していた巨匠、

ディヴィッド・ポール・カーセンブロック。

 

1980年代半ばのカーセンブロック
1980年代半ばのカーセンブロック

 

様々な解釈が可能なインレイを見て、

他のキューメーカーやコレクターに、

「キューのデザインは、なんでもアリ」と

思わせた功績は大きい。

 

逆に、インレイなしでも、銘木の美しさと

卓越したプレイヤビリティで高い評価を得た

サウスウェストは、キューの価値を

考える上で、示唆に富んでいる。

 

*****

 

■ 1990年代

 

ポスト『ハスラー2』時代。

ブームは去ったが、キュー製作の

発展は止まらず、デザインも

それまでと異なるトレンドが生まれた。

 

バットのグリップを境に、

上下対称に大振りなインレイを

ハギの代わりに施すデザインの流行だ。

 

これで剣ハギに真珠母貝や象牙のインレイを

持つキューは、古典的とされてしまった。

 

コグノセンティ
コグノセンティ

 

その中で、コグノセンティ、ボブ・ハンター、

キース・ジョーシィ、コロラドキュー、

レオナルド・ブラッドワース、

ダン・ディーショウ……。

 

1990年代のカスタムキューを

知っていれば、必ず目にしたか、

手に取ったことがあるメーカーたち。

 

全てのモデルではないにしろ、

妙に似ていると思ったことはないだろうか?

 

実は、ティム・リークという人物が、

インレイデザインを上記のメーカーに

提供していたのだ。

 

そのデザインは多くのフォロワーを生み、

現在でも多くのメーカーが形は違えど、

同様の手法を使っている。

 

また、1970年代に製作を止めたジナキューが、

「第2世代」として復活したのもこの時期。

 

90年代半ばからは、

主として少量生産メーカーが、

作品を持ち寄り展示販売するイベントも

開催されるようになり、他メーカーの

キューに刺激を受ける機会が増えた。

 

その結果、インレイデザインは

更なる進化を遂げ、21世紀に突入する。

 

*****

 

というわけで、インレイデザインの変遷を

20世紀に限定しても長くなった。

 

21世紀における変化は、

項を改めることとしよう。

 

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

※参考文献:

「ビリヤードマガジン Vol.8」1988年6月 マガジンボックス社

 

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