〈BD〉「ローズウッドの憂鬱」――Detective “K” season 4 episode 05

 

私はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

いよいよ春本番。桜の開花宣言が話題だ。

 

ビョビョーン!

 

BDからのメッセージだ。

 

『仕事の依頼です。K。』

 

わかっているぜ、

インレイの続き、21世紀編だな?

 

『そう来ると思っていました。

それはまたいずれ。』

 

あ、あれ?(汗)

 

『同じ調査を続ければ、読者は飽きます。』

 

うっ、 ̶手̶な̶り̶で̶進̶め̶る̶と̶楽̶、 その通り。

 

『そこで、ここ数年密かに問題となっている、

“ローズウッド取引規制”

について調べてください。』

 

一昨年から始まった、国際取引における

規制強化の事だな。これまでになかった、

シリアスかつシビアな調査だ。

 

『そうです。

ローズウッドは、キューに欠かせない銘木。

 

それが入手困難になるとどうなるのか、

ローズウッド使用のキューを持つプレイヤーは、

海外遠征に携行できるのか否かなど、

いくつもの疑問がありますよね。』

 

確かに、大きな問題を

含んでいるかもしれんな、BD。

 

わかった、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

味わいのある色合いと木目を持ち、

ビリヤードキューに限らず、楽器や家具、

仏壇などに用いられてきたローズウッド。

 

含まれる精油分により、切削すると

芳香を放つのがその名の由来とも言われる。

 

日本では「紫檀」(したん)とも

呼ばれる銘木だ。

 

一口に「ローズウッド」、「紫檀」といっても、

実際には様々な樹種、産地があり、

150種類以上はあると言われる。

 

しかも、植物学で用いられる「学名」と、

木材として流通する際の名称は

一対一に対応しない。

 

同じ樹種なのに異なる名称が付けられたり、

同じ名称なのに異なる樹種だったりする

ことは珍しくない。

 

「ローズウッド」という名称自体に

ブランド力がある故、全く違う樹種でも、

見た目だけで「◯◯ローズウッド」と

付けることすらある。

 

原産地は、

主として東南アジアや中南米の熱帯雨林。

 

遠くの国から運ばれてくる木材故、

北米や欧州はもちろん、

日本でも古くから珍重されてきた。

 

20世紀に入り、伐採が続けば、ローズウッドの

多くは絶滅しかねない状況に至った。

そして2017年、

ローズウッド全般の国際取引規制が始まった。

 

*****

 

その根拠は、

野生の動植物を保護する目的の国際協定、

 

『Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora』、

略してCITES。

 

別名「ワシントン条約」とも呼ばれるのは、

1973年、80ヶ国の代表がアメリカの

ワシントンDCに集まり、この協定の

基本的な枠組みに合意した歴史に由来する。

 

2016年9月の

ワシントン条約第17回締約国会議により、

条約附属書が改正された。

 

この結果、2017年1月2日以降、新たに

附属書に掲載されたローズウッド類に関して、

事前に承認・許可をとらなければ

輸出入が出来なくなった。

 

附属書とは、規制対象となる具体的な

動植物のリスト。規制の強さにより

3段階にカテゴリ分けされている。

 

附属書I:

今すでに絶滅する危険性がある動植物。商業目的の輸出入は禁止。

 

附属書II:

国同士の取引を制限しないと、将来、絶滅の危険性が高くなるおそれがある動植物。輸出入には、輸出国政府発行の許可書が必要。

 

附属書III:

自国の動植物を守るために、その国が国際的な協力を求めているもの。輸出入には、輸出国政府発行の許可書が必要。

 

ローズウッドは、この附属書IIに加えられたのだ。

 

※以下、日本貿易振興機構(JETRO)のHPより引用

 

―――

 

ローズウッドについては、マメ科ツルサイカチ属(ローズウッド、学名Dalbergia spp. )、ブビンガ属3種(学名Guibourtia demeusei、Guibourtia pellegriniana、Guibourtia tessmannii )、アフリカローズウッド(学名Pterocarpus erinaceus )が附属書IIに新たに掲載されました(附属書Iに掲載される種を除きます)。丸太など木材そのものだけでなく、これらを一部でも使用していれば、規制対象となります。

 

―――

 

引用ここまで。

 

*****

 

今回の規制対象になるローズウッド類で、

キューに使用されるのは主として以下の樹種だ。

 

◆マダガスカル・ローズウッドまたはパリサンダー (学名:Dalbergia baronii ) 


◆キングウッド(学名:Dalbergia cearensis )


◆本紫檀(学名:Dalbergia cochinchinensis )


◆チューリップウッド(学名:Dalbergia decipularis )

 

◆イースト・インディアン・ローズウッドまたはソノケリン(学名:Dalbergia latifolia )


◆マダガスカル・ローズウッドまたはボア・ド・ローズ(学名:Dalbergia maritima ) 


◆アフリカン・ブラックウッドまたはグラナディラ(学名:Dalbergia melanoxylon )


◆手違紫檀またはチンチャンローズ(学名:Dalbergia oliveri )


◆ココボロ(学名:Dalbergia retusa )


◆ホンジュラス・ローズウッド(学名:Dalbergia stevensonii )

 

もちろんこれ以外のローズウッド類が使われている可能性もある。


*****

 

実は植物の国際取引規制、

今に始まったことではない。

 

2017年以前から、

附属書に記載されている樹種のなかにも、

キュー製作に使われてきたものがある。

二つだけ紹介しよう。

 

◇ブラジリアン・ローズウッドまたはハカランダ(学名:Dalbergia nigra )

 

ローズウッドの代表格、

ブラジリアン・ローズウッドは、

絶滅に瀕した動植物リストの中で最も規制を

要する附属書Iへ1992年に記載された。

国際取引は事実上の禁止だ。

 

◇紅木紫檀または紅木(学名:Pterocarpus santalinus )

 

マメ亜科インドカリン属の樹木であり、

今回のローズウッド規制強化とは関係ない。

しかし以前から「附属書II」に記載されている上、

原産地のインドで取引が厳しく規制され、

現在は入手が困難。

 

*****

 

↑ローズウッドを用いたキュー各種。左から、

Trustman custom(大阪府泉佐野市『サウスサイド』永井氏製作)、

Jon Spitz、

Steven Klein(最後に作られたシリーズの1本)、

Helmstetter(86シリーズ)、

Paul Dayton、

 

 

では、日本国内でローズウッド類が

使われたキューは買えないのか?

 

答えは「今のところ大丈夫」だ。

 

まず、規制開始前に輸入された

ローズウッド類が、銘木業者や

キューメーカーにまだストックされていること。

 

木材は、買い付けてすぐ加工できる

わけではなく、数年単位でゆっくり

乾燥させる必要があるためだ。

 

第二に、

「附属書II」に記載されたからといって、

輸出入が全面的に禁止されたわけではない。

 

輸出入それぞれの国で必要とされる

書類を提出し、問題なければ許可される。

 

これは、ローズウッドが材料として

使われた製品でも同様。

 

ローズウッドを使い製作したキューの

輸出入は可能だが、手続きが必要というわけだ。

 

*****

 

次に、ローズウッドが使われているキューを

所有するプレイヤーが、

海外遠征の際に処罰されたり、

没収されたりすることはないのか?

 

答えは「100%の保証はしかねるが、

基本的には大丈夫」だ。

 

重さ10Kg以下で、非商業用途の物品であれば、

「附属書II」記載の木材が使われていても

適用除外となる。

 

つまりキューが個人の持ち物として、

旅行の手荷物や、引越しの荷物に含まれ、

売買を目的にしないものであれば

OKということだ。

 

ただし、渡航先によっては

問題となるケースがあるかもしれん。

 

「売買するつもりのないキュー」ということを、

どう証明するのか?

 

海外の知り合いに売却したら、大丈夫なのか?

 

なかなか難しい問題だ。

 

*****

 

また、カスタムキューの本場、アメリカでは、

アメリカ国内に輸入する木材が、

不法に伐採されたり、

入手したりしたものではないことを

証明しなければならない法律がある。

 

「レイシー法」という、1900年に

制定された野生生物保護のための法律で、

 

2008年12月に、植物および植物を使った

製品にも適用するよう改正された。

 

米国内ではワシントン条約の附属書に

記載された樹種とは関係なく適用される。

 

実際に、大手のギターメーカーや

床板材販売会社が摘発された例があるのだ。

 

もし、日本国内で製作されたキューを

アメリカに輸出する場合、使用されている

木材の学名、輸入総額、木材の総量、

伐採した国などを申告する必要がある。

 

もちろん、

アメリカから輸出されるキューには、

ワシントン条約に則った手続きが必要。

 

書類作成・製品への添付にはコストが

かかるため、価格にも影響するだろう。

 

*****

 

キューに限らず、

楽器や家具などの木工品に於いて、

重要な役割を果たしてきた「ローズウッド」。

 

今後も資源保護による規制強化の流れは

変わらず、ローズウッドが使われた

キューの入手は、徐々に困難となるだろう。

 

カーボンシャフトが普及し始めた平成の終わり、

バットの材料が変わる時代も遠くない。

 

一方で、木材が持つ手触りや見た目の美しさが

もたらす温かみや安心感は、太古から樹木と

共に生きてきた人類共通の感情だと思う。

 

木製のキューでプレーするからこそ

得られる感覚、「ローズウッドのような、

美しい銘木のキューを所有したい」

という欲求は、これからも残るだろう。

 

また調査があれば、連絡してくれ。

 

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

※参考文献

・「同名異木のはなし」満久 崇麿 1987年 思文閣出版 

参考サイト

・日本貿易振興機構(JETRO)https://www.jetro.go.jp/

・CITES https://www.cites.org/eng/app/appendices.php

 

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Detective Kについて詳しくはこちら

 

 

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