私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
平成も残す所あとわずか。
令和に代わる歴史的瞬間を
玉屋で迎えるのもオツなもの。
ビョビョーン!
BDからのメッセージだ。
『平成最後の依頼です。K。』
わかっているぜ、時代の変わり目、
インレイの続き、21世紀編だな?
『そう来ると思っていました。
それはまたいずれ。』
……また?(汗)
『手の内を読まれているようでは、甘いですね。』
うっ、その通り。
『書籍・図鑑・カタログ……。
キュー好きならば持っておきたい
"資料"を紹介してください。』
なるほど、ビデオ女優図鑑のような、
ファン必携の資料だな。
『ちょっと……、ベクトルが違いますね。
キューの歴史、構造や材料、
メーカーなどの情報。
言い換えればキュー調査・研究に
欠かせないデータ。それらの基礎となる
資料を知りたいのです。』
オレのメシのタネを
明かすようなものだ、BD。
だがよかろう、オレはキュー探偵K。
その依頼、引き受けた!
*****
情報は、ネットで簡単に
手に入るようになった平成の時代。
だが、かつてカスタムキューは、
詳細がベールに包まれ、
ウワサや口コミからその存在を知るだけ。
実物を目にすることは困難を極めた。
月刊誌などの定期刊行物は
発売初日に入手して
擦り切れるほど読み込み、
ショップで用品カタログや
パンフレットをもらうと、
宝物のようにファイルした。
空前の『ハスラー2』ブームの中、
ビリヤードに関する情報が極端に
不足していた昭和末期から平成の始め、
今では想像できないほど
情報に「飢えて」いたのだ。
それゆえ、オレはビリヤード、
特にキューに関する情報収集に
力を注ぐようになった。
わずかな手がかりから、
目的の情報源にたどり着くまでの
プロセスが生み出す高揚感。
さらに、キューの材料や製作技法に
至るまで、興味は限りなく広がり、
さまざまな分野の書物を手にした。
この情報や知識を探すこと自体が
オレの原動力でもあった。
手段が目的となってしまった感も
あるがな(苦笑)。
その中で、いつ消えるとも
わからないネットの情報より、
書籍や雑誌に頼ってきた面は大きい。
今回は、それをいくつか紹介しよう。
アメリカの書籍が多いのはご容赦願いたい。
*****
まずは、キューそのものに
スポットを当てた専門書から。
◆Making Blanks, Burton Spain 1992
オレが初めて手にした、
キュー製作に関する専門書籍。
「ハギ」に関する製作方法と、
それにまつわる歴史を
簡潔にまとめた自費出版書。
大手メーカー、ブランズウィック社
でなければ作れないと思われていた
「剣ハギ」を自作した、
バーテン・スペイン自身が記した記録だ。
1960年代中期のアメリカで、
ジョージ・バラブシュカ、
パーマー、
ディック・ヘルムステッター(アダムジャパン)、
ボブ・メウチ、
ゴードン・ハート(バイキング)、
クレイグ・ピーターセンなど、
名だたるキューメーカー同士が
様々な形で交流していたことが
記されており、キューの構造と
歴史を知る上で、貴重な一冊。
…………
◆Billiard Encyclopedia, Victor Stein and Paul Rubino, 1994, 1996, 2008
空前にして、おそらく絶後の
ボリュームを持つビリヤード百科事典。
オレは1993年に発売予告を
雑誌『Billiard Digest』で見付け、
興奮のあまり著者のビクター・ステインに
直接電話して注文したほどだ。
届いたのはそれから10か月ほど
経ってからだったが、
600ページ近いボリューム、
豊富なカラー写真、
膨大な量のテキストに圧倒された。
2008年までに2回改訂され、
ビリヤードの歴史(特にアメリカ)を
学ぶには必携の書。
…………
◆Blue Book of Pool Cues, Blue Book Publishing 1996, 1999, 2005
おそらく史上初のキューメーカー名鑑。
アメリカで販売されているキューを
数百ブランド掲載し、
それぞれのプロフィールや
キューの仕様、代表モデルの写真、
不透明極まりなかったキューの
新品・中古価格を掲載するという
暴挙快挙を成し遂げた。
正体不明のキューを手にしたら、
まずはこれで調べてみるというのが
オレの活用法。
メーカーの所在地や連絡先も引ける、
電話帳のような役割も果たしている。
1996年に初版、1999年に第二版、
2005年に第三版が刊行された。
このペースで改訂されれば、
今頃は第六版ぐらいのはずだが、
第三版編集時に著者が交代するという
ゴタゴタもあり、後が続かなかった。
改訂が望まれるが、おそらく誰も
やりたがらないだろうという一冊。
*****
ビリヤードキューを語る上で
欠かせないのが、木材に関する知識。
アメリカのキューメーカーが
使用する木を調べるには、
アメリカで出版された本を調べるのが一番。
オレが参照する書籍の一部を紹介しよう。
◆World Woods in Color, William A. Lincoln, 1986 Linden Publishing
「木の百科事典」的な書籍は
アメリカで数多く出版されているが、
アメリカで流通する木材の学術名、
商品名を見やすく整理している点で、
オレはこの書籍を一番活用している。
とあるキューメーカーのオフィスにある
書棚でも、これを見付けたことがあり、
良く知られた書籍なのかもしれない。
特徴的な色や杢目を持つ、
様々な樹木のバールウッド
(木の瘤部分)をカラー写真で
紹介しているのもポイントで、
オレがバールウッドを使ったキューに、
ある種のこだわりを持つ
きっかけとなった一冊。
…………
◆木のはなし 満久 崇麿 1983年 思文閣出版
◆続木のはなし 満久 崇麿 1985年 思文閣出版
◆同名異木のはなし 満久 崇麿 1987年 思文閣出版
銘木には、学術名の他、
木材として流通する際に
様々な名称が付けられているため、
特定するのは厄介。
その上、キューメーカーが使う銘木を、
日本では何と呼ぶのかは、
調べてみないとわからない。
日本国内でも多くの書籍が
出版されているが、参考にするだけでなく、
出版時期はやや古いが、
読み物としても面白いのはこのシリーズ。
樹木や木材に関する
幅広いトピックを取り上げており、
キューだけでなく木工品や
木造建築物まで興味を広げてくれる。
*****
インターネットの普及で、
その地位が徐々に下がりつつある雑誌。
だが、綿密な取材に基づく
特集記事や連載コラムは、
価値を減じることはない。
過去に国内で出版されていた、
『ピカソ』(後にポケットハウスと改称)
『ビリヤード・マガジン』(後にワールド・ビリヤード・マガジンと改称)
は改めて紹介するまでもなく
一読をお勧めする。
長く営業しているビリヤード場に行けば、
見付かるだろう。
そこで、オレが一番影響を受けた
連載コラムを紹介する。
◆Cue Talk by Dennis Dieckman
2018年に亡くなった
キューメーカー界の怪人、
デニス・ディックマンが、
かつて主宰していた雑誌
『The First National Billiards Exchange』に
連載していたコラム。
キュー製作に関するノウハウ、
様々なイベントに参加した際の
グダグダ話、そして自身のキュー哲学に
至るまでの多彩な切り口と軽妙な文体に、
オレは大きく影響を受けた。
キュー探偵として活動できるのは、
デニスあってのもの、
と言っても過言ではない。
◆Pool and Billiard Magazine, Annual cue issue
キューに関するトレンドを
毎年ウォッチしているのが、
雑誌『Pool and Billiard Magazine』。
年1回、決まって春先にキュー特集を組み、
注目のメーカーやデザイン、
製作技術を紹介している。
アメリカにおけるキューデザインの
トレンド、新素材や新構造のチェックに、
とても役立つ記事だ。
カスタムメーカーから量産メーカーまで
採り上げる守備範囲の広さは、
1983年創刊の伝統ある月刊誌ならでは。
プレイヤーやコレクターにとっての
キューを定点観測し、その変化を
理解するのが、オレの使い方。
キューは、常に進歩している
ということがよくわかる。
*****
ここで紹介したのは、
オレが活用する資料のごく一部。
まだまだ紹介すべき書籍やカタログなどが
あり、とうてい1回では足りないな。
この調査続くぜ!
よろしくな、BD!
(to be continued…)
…………
Detective Kについて詳しくはこちら
…………
BD Official Partners :
世界に誇るMade in Japanのキューブランド。MEZZ / EXCEED
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