私はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
7月といえば『ジャパンオープン』。
プロはもちろん、腕に覚えがある
ポケットのプレイヤーは皆、
真剣勝負の場を求め、参集する。
最終日の特設会場、
竹芝『ニューピアホール』行きは全員の目標だ。
オレの竹芝行きは、
キューのチェックが目的だがな。
ビョビョーン!
BDからのメッセージだ。
ジャパンオープンのレポート依頼か?
ふっ、それなら任せておけ……。
『K、そろそろ調査を完了させましょう。』
あ、あれ?
『インレイの続き、21世紀編お願いします。』
……それか(汗)。
『そうです。シーズン4は佳境を迎えました。
思い残すことがないよう完結させてください。』
うっ、最終回か!
『はい、今後のことは、別途検討しましょう。』
ふふふ(涙目)、ビジネスライクだなBD。
よかろう、オレはキュー探偵K。
最終回にふさわしいトピック、
その依頼、引き受けた!
*****
「インレイ」とは、
「象嵌細工」とも呼ばれ、
素材の表面に図形を彫り、
同じ形の別材料を嵌めこみ、
表面を平滑にすることでデザインを施す技法。
episode 04では、20世紀後半の
インレイデザイン発達史を述べた。
今回は、21世紀におけるインレイ技法の進歩と、
キューデザインの今後について述べてゆこう。
*****
およそ20世紀末まで、カスタムキュー製作は
手作業でなくてはならないという
「手作業最強伝説」が存在していた。
「コンピュータ制御の機械使用は、是か非か」
という議論が真剣に行われていたのだが、
21世紀に入ると自然消滅した。
繊細なインレイを施すためには、
手作業、コンピュータ制御の両方が
必要な時代に入ったからだ。
その理由は、素材とデザインの両方にある。
*****
まずは、素材。
1990年代、ターコイズやマラカイトなど、
「石もの」インレイが定着。
続く2000年代は、金・銀・銅などの
金属を多用する時代となった。
特に黒檀へ入れた金属インレイは、
光を反射して美しく、
高級感あふれるデザインとなる。
しかし、木に金属をインレイすることは、
硬さが大きく異なるゆえ、表面を平滑に磨き、
なおかつ塗装することが難しい。
高性能な工作機械、接着剤や塗料の
研究なくしては実現できないデザインだ。
また、バットの構造として
画期的だったのが「センターコア」。
芯にメイプルやパープルハートなどを
使った二重構造とすることで、
外側に用いる銘木の選択範囲が広がった。
木のコブや根元に出来る、
不規則かつ不均一な木目を持つ部位の
「バールウッド」はその代表的な例。
アダムジャパンの屋久杉や神代木を使用した
キューも、センターコアならではのものだ。
さらに、象牙代替材「エルフォリン」や、
さまざまな色や模様を持つ「ジュマ」といった
合成樹脂など、インレイや先角に
新たな人工素材を競って採用した。
これは、アクリル樹脂や
ナイロン糸巻きが流行した1960年代の
リバイバルと言えなくもない。
新素材が「何となく良さげ」に思えるのは、
いつの時代でも変わらないものだ。
*****
次にデザイン。
1990年代半ばから、キューメーカー同士の
活発な交流により、デザイン、特にインレイに
おける急速な進化を生み出した。
大きな役割を果たしたのが、
キューメーカー、ジョスウェストの
ビル・ストラウドが2002年から始めた
『インターナショナル・キュー・コレクターズ・ショー』。
略して『ICCS』。
ICCSの目玉企画は、イベント当日に
発表・販売される「コレクション」。
イベントごとにテーマを設定、
それをあらかじめ参加キューメーカーに伝えて
製作させた新作の集合体だ。
「サンタフェ」「ローンスター」
「グレコローマン」「ローヤリティ」などなど、
与えられたテーマを、どうデザインに
落とし込むかはメーカーの自由。
メーカー同士、どのようなキューを
製作してくるか当日まで互いにわからない。
いわば「キューデザイン大喜利」。
「他メーカーの作品に見劣りするような
キューは作れない」というプレッシャー、
普段の作風をとりあえず封印し、
テーマを優先させる割り切り。
ただ、テーマにとらわれすぎたり、
考えオチしたりで、
「座布団全部取っちゃえ」と
ツッコミたくなるデザイン(苦笑)の
キューがあったのも事実だ。
だが、ICCSの「コレクション」が、
各メーカーのインレイ技術の向上と、
デザインの幅を広げることとなった。
現在のカスタムキューの多くは、
ICCS展示キューの影響を受けていると
オレは考える。
*****
しかし、21世紀の今、
ブランド+バット+シャフトで
決まっていたカスタムキューの価値が、
ハイテクシャフトやカーボンシャフトの
登場により、ブランド+バットだけで
語られる時代となった。
また、優れた特性を持つキューであれば、
インレイによらないデザインであっても、
それをハイパフォーマンスの証と
プレイヤー達は捉える。
インレイ技術の向上に力を入れた結果、
少量生産メーカーにおける
パフォーマンス面の改良が
後手に回った面は否定できない。
キューメーカーやコレクターが今後も、
「カスタムキューは美術品」
「キューメーカーは芸術家」と定義し、
表現手段としてのインレイ技法に
こだわり続けるならば、
もう一歩進めて、
・メタファー(暗喩)を忍ばせて、
その意味がわかる人にはわかるデザイン
・抽象表現主義やシュールレアリズムのように、
見る人によって解釈が異なるデザイン
・9割がたは拒絶するが、1割は熱狂的に好む
アバンギャルドなデザイン
というアプローチがあって良いとオレは思う。
*****
どう解釈するかは人それぞれという例として、
最後に2本のキューを紹介しよう。
EXCEED(日本のMIKI)の『航海』。
2010年のICCSテーマ
「マリタイム・コレクション」を構成する
1本として製作された最高級モデル。
羅針盤や波を表すデザイン、
貝を多用したインレイなど、
果てしない海上の旅を想像させるキュー。
材料違いで2本製作され、
1本はフロリダ州サラソタ、もう1本は函館と、
まるでキューが意思を持って
港町に住むオーナーを選んでいるかの
ような状況が興味深い。
この2本が、再び出会う日を
オーナーでもないオレは望んでいる。
2017年のICCSで展示された、
エディ・コーエンのキュー。
一見すると、変わったインレイが
入れられただけの、染色された
バールウッドを用いたストレートキューが、
ラックに収まっている。
しかし、オーダー主が
ミネソタ州ミネアポリス在住で、
名称が「パープル・レイン」と聞けば、
このキューの意味がわかるだろう。
これは2016年に亡くなったミュージシャン、
ミネアポリス出身の「殿下」こと「プリンス」に、
地元のビリヤードプレイヤーが捧げたキューだ。
『パープル・レイン』は、プリンス主演の
映画とサウンドトラックアルバムのタイトル。
インレイは1990年代半ば、
彼を表すシンボルマークだったもの。
紫色のバールウッドは、激しく降る
紫色の雨であり、リングのインレイは
雨粒であると同時に、哀悼の涙だ。
*****
ビリヤードのプレースタイル同様、
一人ひとりが違う個性や考えを持つからこそ、
たとえオール人工素材のキューが登場しても
カスタムキューの世界は続く、
とオレは信じている。
メーカーには、イマジネーションを
無限に広げてくれるデザインを期待したいぜ。
いつかまた会おう!
よろしくな、BD!
(not to be continued… ? )
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こちらも合わせてどうぞ。↓
season 4 episode 03「キューのインレイ学〜材料編〜」
season 4 episode 04「キューのインレイ学〜20世紀デザイン編〜」
Detective “K”についてはこちら
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BD Official Partners :
世界に誇るMade in Japanのキューブランド。MEZZ / EXCEED
創造性と匠の技が光る伝統の国産キュー。ADAM JAPAN
ビリヤードアイテムの品揃え、国内最大級。NewArt
末永くビリヤード場とプレイヤーのそばに。ショールームMECCA
カスタムキュー、多数取り扱い中。UK Corporation
13都道府県で開催。アマチュアビリヤードリーグ。JPA
徹底した品質の追求。信頼できる道具をその手に。KAMUI BRAND
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