私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
台風がやたら日本に近づく今年の秋。
窓のない玉屋で長時間撞いた後、
外に出ると暴風雨。
帰るに帰れない状況を経験した
プレイヤーもいることだろう。
気圧のせいか、強風のせいか、手玉の動きに
影響を及ぼしているように、オレは感じる。
オレだけかもしれんがな。
リンリンリン♪
うむ? BDからネット経由の通話だ。
仕事の依頼だな。
『カラーについての調査です。』
カラー? 赤白黄色?
『ボケが軽いですね。キューでカラーと言えば?』
うっ(汗)……。ジョイントカラーのことだ。
『その通りです。
10・14・18山やユニロック、ラジアルピンなど、
バットとシャフトを繋ぐネジの規格は、
皆意識していますよね。』
確かに。
『ところが、そのネジの外側にある
“ジョイントカラー”については、
あまり語られていないと思いませんか?』
そうだな。
『そのジョイントカラーには、どんな役割や
歴史があり、メーカーやコレクターは
何にこだわっているのか、を調べてください。』
よかろうBD、オレはキュー探偵K。
その依頼、引き受けた!
*****
コニー・フランシスの名曲
『カラーに口紅』(1959年)。
この「カラー」を色と解釈すると
「天然色に口紅」。全く意味不明だ。
この「カラー」は、ワイシャツの襟口のこと。
曲の原題は“Lipstick on your collar”
「あなたの襟に、誰かの口紅が付いているわよ」
という歌だ。
“color”も”collar"もカタカナでは
「カラー」なのが混乱のもと。
ペットの首輪や、棒状の部材を繋ぐ継ぎ手などが
”collar”といえば分かりやすいだろう。
キューの「カラー」とは、
シャフトとバットを結合するジョイントの部品。
シャフト側・バット側それぞれに
「カラー」は取り付けられているが、
調査はバット側に限定する。
「中輪(なかわ)」「ジョイントカラー」とも
呼称するが、面倒なので「カラー」に統一するぜ。
*****
カラーの役割は、ジョイント結合部の補強。
キューの素材が木材であるが故、
木目に沿って割れるのを防ぐ目的だ。
19世紀の、シャフトとバットに分割可能な
ツーピースキュー誕生と共に生まれた部品だ。
当時、カラーに使える素材はごく限られていた。
代表的なものは真鍮。
「ブラス」とも呼ばれる銅と亜鉛の合金だ。
熱を加えずとも曲げやすく、切削加工も容易で、
価格も手ごろだったことから多用された。
カラーだけでなく、ジョイントの
ネジとしても真鍮は使われた。
20世紀半ばまで、カラーの材料として
主な素材は真鍮、高価なキューであれば
アイボリーというのが定番だった。
*****
そのカラーに変革をもたらしたのは、
半世紀前のカスタムキューメーカーだった。
西海岸のメーカー、ハーヴィー・マーティンは
フラットフェースジョイントの
草分けとして知られるが、
カラーに真鍮を使わず、
合成樹脂のベークライトを使用した。
キャロムキューも製作していたメーカーだけに、
後述する重量バランスや打感を
重視した結果の選択だろう。
東海岸のメーカー、ジョージ・バラブシュカは
カラーにステンレススチールを用いた。
真鍮に比べると加工しづらいが、
硬くて凹みにくく錆びにくいメリットがある。
テーブル照明の下で鈍く光る
ステンレス製カラーの輝きは、
「カスタムキュー、バラブシュカ」を
強く印象付けたに違いない。
*****
1960年代後半から70年代前半にかけて、
カスタムキューメーカーだけでなく、
量産メーカーもステンレスや合成樹脂の
カラーを採用することとなる。
80年代は、バラブシュカや
ザンボッティ等の影響もあり、
ステンレス全盛期と言っても良いだろう。
鏡面仕上げや、24金メッキに彫刻を施した
カラーも登場し、他メーカーとの差別化を
図る部品としても脚光を浴びるようになった。
しかし、金属製のカラーは、
木材用のクリア塗装がかからないよう、
塗装工程でマスキングしなければならない
煩わしさがあった。
一方、リネン樹脂やABS樹脂等、
様々な合成樹脂をカラーに
用いるようになったのも同時期。
特に量産メーカーにとっては、
コストが安く切削も容易、
しかもクリア塗装工程が簡素化できるため、
合成樹脂製カラーが増えてゆく。
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カラーの重要な役割。
それは、重量と打感のチューニングだ。
木材同士をネジでつなぐだけでは得られない
キューの特性を、カラーの工夫次第で
いかようにも生み出せるメリットは大きい。
まず重量。
現代ポケットキューの標準的な重量は
18オンス~20オンスだ。
ハードメイプルだけでキューを製作すると、
重量は15~16オンスにしかならない。
黒檀だけでキューを製作すると、
重量はおそらく25~26オンスにも達する。
カラーの素材は、
比重が高い(つまり重い)順に、
真鍮>ステンレス>樹脂。
むろん、キュー全体の重量に占める
カラーの割合はわずかだが、
キューの真ん中付近に位置するカラーは、
重心を大きく変えることなく、
素材の選択により重量を調整できるのだ。
*****
次に打感。
手玉を撞いたインパクトは、
振動となってキュー後部に伝わる。
握った手に伝わるその振動が、
いわゆる「打感」だ。
ショットの良し悪しをプレイヤーに
フィードバックする、重要な要素だな。
ワンピースキューの打感は、
木材が持つ自然な振動なのだが、
同時に雑で、はっきりしない感触とも言える。
ツーピースキューにおけるシャフトとバットの
接合部、特にカラーは、その振動を変える
「フィルター」の役割を果たすのだ。
ステンレスや真鍮のカラーは、
合成樹脂やアイボリーと比べてその傾向が強く、
シャフトの振動をある程度吸収して、
バットに伝えるようだ。
「グリップに振動が響かない」
とも言われるこの打感、
どう評価するかはプレイヤー次第。
前述のハーヴィー・マーティンが
合成樹脂製のカラーを使ったのは、その逆で、
ワンピースキューのような重量バランスと
打感を持たせたかったからだろう。
振動をあまり吸収しない合成樹脂のカラーが、
90年代半ば以降主流になったのは、
「ワンピースキューのような打感」が
より多く求められるようになったからだな。
サウスウェストに代表されるスタイルの
キューが溢れている状況は、それを物語っている。
とはいえ、ここ数年急速に普及した
カーボンシャフトとの相性を考えると、
意外と金属カラーのキュー復権はあるかもしれんぜ。
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カラーは、プレイヤーの好みが明確に分かれ、
耐久性もおろそかにできないゆえ、
メーカーが絶えず改良や工夫を加えている部品。
コレクター目線では、
カスタムキューやヴィンテージキューの
製作年代や、改造の有無、真贋を見極める
大きな手がかりともなる。
シャフトとバットの組立・分解の時しか
意識しないカラーだが、
極めるとなかなか深い部品だな。
次の依頼を待っているぜ!
よろしくな、BD!
(to be continued…)
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