〈BD〉「カラーに口紅? ジョイントカラー論」――Detective “K” season 5 episode 02

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

台風がやたら日本に近づく今年の秋。

窓のない玉屋で長時間撞いた後、

外に出ると暴風雨。

帰るに帰れない状況を経験した

プレイヤーもいることだろう。

 

気圧のせいか、強風のせいか、手玉の動きに

影響を及ぼしているように、オレは感じる。

オレだけかもしれんがな。

 

リンリンリン♪

 

うむ? BDからネット経由の通話だ。

仕事の依頼だな。

 

『カラーについての調査です。』

 

カラー? 赤白黄色?

 

『ボケが軽いですね。キューでカラーと言えば?』

 

うっ(汗)……。ジョイントカラーのことだ。

 

『その通りです。

10・14・18山やユニロック、ラジアルピンなど、

バットとシャフトを繋ぐネジの規格は、

皆意識していますよね。』

 

確かに。

 

『ところが、そのネジの外側にある

“ジョイントカラー”については、

あまり語られていないと思いませんか?』

 

そうだな。

 

『そのジョイントカラーには、どんな役割や

歴史があり、メーカーやコレクターは

何にこだわっているのか、を調べてください。』

 

よかろうBD、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

コニー・フランシスの名曲

『カラーに口紅』(1959年)。

 

この「カラー」を色と解釈すると

「天然色に口紅」。全く意味不明だ。

 

この「カラー」は、ワイシャツの襟口のこと。

 

曲の原題は“Lipstick on your collar”

 

「あなたの襟に、誰かの口紅が付いているわよ」

という歌だ。

 

“color”も”collar"もカタカナでは

「カラー」なのが混乱のもと。

 

ペットの首輪や、棒状の部材を繋ぐ継ぎ手などが

”collar”といえば分かりやすいだろう。

 

キューの「カラー」とは、

シャフトとバットを結合するジョイントの部品。

 

シャフト側・バット側それぞれに

「カラー」は取り付けられているが、

調査はバット側に限定する。

 

「中輪(なかわ)」「ジョイントカラー」とも

呼称するが、面倒なので「カラー」に統一するぜ。

 

*****

 

カラーの役割は、ジョイント結合部の補強。

 

キューの素材が木材であるが故、

木目に沿って割れるのを防ぐ目的だ。

 

19世紀の、シャフトとバットに分割可能な

ツーピースキュー誕生と共に生まれた部品だ。

 

当時、カラーに使える素材はごく限られていた。

 

代表的なものは真鍮。

「ブラス」とも呼ばれる銅と亜鉛の合金だ。

 

様々な材料で作られたカラー。左から6本目のRambow(ランボー)キューはブラス製。ステンレスやアイボリーのカラーのキューも並んでいる
様々な材料で作られたカラー。左から6本目のRambow(ランボー)キューはブラス製。ステンレスやアイボリーのカラーのキューも並んでいる

 

熱を加えずとも曲げやすく、切削加工も容易で、

価格も手ごろだったことから多用された。

 

カラーだけでなく、ジョイントの

ネジとしても真鍮は使われた。

 

20世紀半ばまで、カラーの材料として

主な素材は真鍮、高価なキューであれば

アイボリーというのが定番だった。

 

*****

 

そのカラーに変革をもたらしたのは、

半世紀前のカスタムキューメーカーだった。

 

西海岸のメーカー、ハーヴィー・マーティンは

フラットフェースジョイントの

草分けとして知られるが、

 

カラーに真鍮を使わず、

合成樹脂のベークライトを使用した。

 

ハーヴィーキュー
ハーヴィーキュー

 

キャロムキューも製作していたメーカーだけに、

後述する重量バランスや打感を

重視した結果の選択だろう。

 

東海岸のメーカー、ジョージ・バラブシュカは

カラーにステンレススチールを用いた。

 

バラブシュカキュー
バラブシュカキュー

 

真鍮に比べると加工しづらいが、

硬くて凹みにくく錆びにくいメリットがある。

 

テーブル照明の下で鈍く光る

ステンレス製カラーの輝きは、

「カスタムキュー、バラブシュカ」を

強く印象付けたに違いない。

 

*****

 

1960年代後半から70年代前半にかけて、

カスタムキューメーカーだけでなく、

量産メーカーもステンレスや合成樹脂の

カラーを採用することとなる。

 

80年代は、バラブシュカや

ザンボッティ等の影響もあり、

ステンレス全盛期と言っても良いだろう。

 

鏡面仕上げや、24金メッキに彫刻を施した

カラーも登場し、他メーカーとの差別化を

図る部品としても脚光を浴びるようになった。

 

24金メッキのジョスキュー
24金メッキのジョスキュー
装飾されたカラーのAEキュー
装飾されたカラーのAEキュー

 

しかし、金属製のカラーは、

木材用のクリア塗装がかからないよう、

塗装工程でマスキングしなければならない

煩わしさがあった。

 

一方、リネン樹脂やABS樹脂等、

様々な合成樹脂をカラーに

用いるようになったのも同時期。

 

特に量産メーカーにとっては、

コストが安く切削も容易、

しかもクリア塗装工程が簡素化できるため、

合成樹脂製カラーが増えてゆく。

 

*****

 

カラーの重要な役割。

それは、重量と打感のチューニングだ。

 

木材同士をネジでつなぐだけでは得られない

キューの特性を、カラーの工夫次第で

いかようにも生み出せるメリットは大きい。

 

まず重量。

 

現代ポケットキューの標準的な重量は

18オンス~20オンスだ。

 

ハードメイプルだけでキューを製作すると、

重量は15~16オンスにしかならない。

 

黒檀だけでキューを製作すると、

重量はおそらく25~26オンスにも達する。

 

カラーの素材は、

比重が高い(つまり重い)順に、

真鍮>ステンレス>樹脂。

 

むろん、キュー全体の重量に占める

カラーの割合はわずかだが、

キューの真ん中付近に位置するカラーは、

重心を大きく変えることなく、

素材の選択により重量を調整できるのだ。

 

*****

 

次に打感。

 

手玉を撞いたインパクトは、

振動となってキュー後部に伝わる。

 

握った手に伝わるその振動が、

いわゆる「打感」だ。

 

ショットの良し悪しをプレイヤーに

フィードバックする、重要な要素だな。

 

ワンピースキューの打感は、

木材が持つ自然な振動なのだが、

同時に雑で、はっきりしない感触とも言える。

 

ツーピースキューにおけるシャフトとバットの

接合部、特にカラーは、その振動を変える

「フィルター」の役割を果たすのだ。

 

ステンレスや真鍮のカラーは、

合成樹脂やアイボリーと比べてその傾向が強く、

シャフトの振動をある程度吸収して、

バットに伝えるようだ。

 

「グリップに振動が響かない」

とも言われるこの打感、

どう評価するかはプレイヤー次第。

 

前述のハーヴィー・マーティンが

合成樹脂製のカラーを使ったのは、その逆で、

ワンピースキューのような重量バランスと

打感を持たせたかったからだろう。

 

振動をあまり吸収しない合成樹脂のカラーが、

90年代半ば以降主流になったのは、

「ワンピースキューのような打感」が

より多く求められるようになったからだな。

 

サウスウェストに代表されるスタイルの

キューが溢れている状況は、それを物語っている。

 

とはいえ、ここ数年急速に普及した

カーボンシャフトとの相性を考えると、

意外と金属カラーのキュー復権はあるかもしれんぜ。

 

*****

 

 

カラーは、プレイヤーの好みが明確に分かれ、

耐久性もおろそかにできないゆえ、

メーカーが絶えず改良や工夫を加えている部品。

 

コレクター目線では、

カスタムキューやヴィンテージキューの

製作年代や、改造の有無、真贋を見極める

大きな手がかりともなる。

 

シャフトとバットの組立・分解の時しか

意識しないカラーだが、

極めるとなかなか深い部品だな。

 

次の依頼を待っているぜ!

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

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