私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
令和2年は暖冬、かつ雨が多い。
普通ならメイプルのシャフトが
ほどよく締まり、曲がりが出ていても
ピシッと真っすぐになる時期だ。
おっと、
カーボンシャフト使いには関係ないハナシだ。
キューケースから取り出す時に、
ひんやりと冷たいカーボンに
曲がりや締まりといった変化は無縁だからな。
リンリンリン♪
おお、BDからネット通話だ。
新型コロナウィルス問題で、
しばらく会っていないな。
『最近Kは、出不精になりましたよね。』
懐は寒いし、人が多い場所をうろつくのは
控えなければならないからさ。
『Kは、カスタムキューのある場所ならば、
どこにでも出かけて行くと聞いています。』
まぁ、ちょっと前はそうだったな。
『そこで人里離れた場所や、
小さな町にあるキューメーカーの工房を
訪ねて行った話を聞かせてもらえますか。』
それは調査というか、オレ自身の冒険譚だな。
『これから遠くに行かせるには、
時間がありませんから。』
よかろう、オレはキュー探偵K。
その依頼、引き受けた！
＊＊＊＊＊
有名・無名含め数百あるという、
アメリカのカスタムキューメーカー。
大手メーカーや一部の有名高級メーカーは、
大きなビリヤード場があって、
キューの売買や修理といったビジネスが
成立する場所に工房を構えている。
しかし、少量生産メーカーは
町の中に工房を構えることはなく、
家賃が安い郊外や自宅のガレージなど、
アクセスしづらい場所にあるケースが大半。
時には最寄りの街から、
何時間も車を走らせなければならないとか、
街はずれの治安が良くない場所に
行かなければならないとか、
キューメーカーに会うため、
オレは数々の困難を克服しなければならなかった。
廃線となった駅舎を利用していた「ノヴァ」、
ガラの悪い連中がたむろする
自動車修理工場の隣の「ランブロス」、
人間よりも鹿の方が多い山の中に
住んでいた「ジャッド」、
湖のほとりに東京ドームほどの広大な
土地を所有する「リチャード・ブラック」、
などなど、いくらでも例を挙げられる。
今回はオレが実際に尋ね歩いたなかで、
日本から行くには最寄りの空港まで直行便なし、
たどり着くには15時間以上かかるという、
辺境のキューメーカーをいくつか紹介しよう。
＊＊＊＊＊
◆ ハンタークラシック
所在地：ニューメキシコ州アラモゴード
テキサス州エルパソから
深夜のハイウェイを北上すること約3時間。
中米からの不法入国者や麻薬を取り締まる
チェックポイントで、車のトランクを
開けさせられるという経験をしつつ向かった。
アラモゴードと聞いてもピンとこないだろうが、
1945年7月、人類初の原爆実験が
行われた所と言えば、わかるかもしれんな。
人口約3万人の町だが、現在でも
アメリカ軍のミサイル発射実験場がある。
↑2枚目&3枚目。アラモゴードにある『Mission Billiards』はハンタークラシック作者のウェス・ハンターが営むビリヤード場
真っ白な砂丘が広がる
ホワイトサンズ国定公園と
ピスタチオ農園が観光資源。
その町で製作しているのが、
ハンタークラシック。
8分の3インチ、8.5山という
他にないジョイントネジ、
多彩な銘木の使用と
ネイティブ・アメリカンの影響を
強く感じさせるデザインが特徴だ。
工房は自宅隣の作業小屋。
中に足を踏み入れて説明を受けていると、
視界の片隅に何かの気配を感じた。
よく見ると壁に巨大なタランチュラ！
作者のウェス・ハンターは、
アメリカ人としては例外的なほど寡黙で、
あわてて「追い出さないと～！」と伝えても、
「ああ、おとなしいヤツだよ」とそっけない返事。
数多くのキューメーカー工房を訪れたが、
タランチュラが住み着いているというのは、
唯一のケース。
もしかしたら名前を付けて
飼っていたのかもしれんな。
＊＊＊＊＊
◆ エスピリチュ・カスタムキューズ
所在地：ミシシッピ州ランキン郡パケット
手ごろな価格のカスタムキューとして知られる
エスピリチュが製作されている場所は、
アメリカ深南部のミシシッピ州パケット。
ミシシッピ州のジャクソン空港から車で1時間弱。
パケットは人口約350人、
幹線道路を制限速度で走っていると、
気づかず通り過ぎてしまうぐらい小さな村だ。
ここでラス・エスピリチュは
キュー製作に加えて牛の飼育も手掛け、
さらに2004年から現在に至るまで、
村長の職も兼ねる名士でもある。
ちなみに、2005年8月のハリケーン
「カトリーナ」では村全体が甚大な被害を受け、
村長として復興の陣頭指揮を執り、
キューどころではなかったという。
オレが訪れた際は、見慣れない日本人に対して
村人たちも牛たちも皆フレンドリー。
もっともこれはラス・エスピリチュ自身が親日家、
しかも母親が日本人であり、
多くのキューが日本へ輸出されていることが
知られているからだろう。
アシスタントは朝来て仕事をしたら、
昼はシエスタ（昼寝を含む長い休憩）でノンビリ。
忙しくなれば親戚を呼ぶという
おおらかさは新鮮だった。
とはいえ工房内にはすぐ手が届くところに、
実弾が装填された拳銃がホルスターに入れて
吊り下げられていたのが深南部らしいところ。
オレは1969年の映画『イージー・ライダー』の
ラストシーンをつい思い出したが、
いつ撃たれるかわからないのが
アメリカを旅する上でのコワイところだ。
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◆ ギルバート・カスタムキューズ
所在地：ミズーリ州クリスチャン郡クレバー
（※現在はフロリダ州に引越し）
高いクオリティと、緻密なインレイワークで
知られるギルバート。
ミズーリ州セントルイスから南西に車を走らせ
約4時間半の、クレバーという
人口約2000人の町に自宅兼工房があった。
自宅、というより所有する土地は広大で、
広々とした草原と林があり、
日本でいえばピクニックができる
森林公園のような「家」だ。
アンディ・ギルバートが、
「自宅を案内するよ」といって
乗せてくれたのはヤマハの4輪バギー。
時速50キロぐらいで疾走しても、
一周するには数分かかる広さ。
「仕事で煮詰まったら、
林の中を歩いてリラックスする」
というライフスタイルは、
都会であくせく働くオレには夢のようなハナシ。
しかも巨大なキャンピングトレーラーを所有し
（内部の広さはたぶん8畳間ぐらいある）、
「オフにはこれで10日ぐらい釣りに行く」
と話していた。
アンディ・ギルバートは、
人懐こい笑顔で話好きな好人物なのだが、
普段は人と会うことが滅多にない場所で
製作に励んでいることの裏返しなのかもしれんな。
オレが訪問した数年後の2016年には、
釣りを堪能するため海のないミズーリ州から、
大西洋やメキシコ湾に面したフロリダ州に移住。
年間製作本数を減らしつつも、
自身のライフスタイルを優先しているようだ。
＊＊＊＊＊
このほか、まだまだ辺境の地で
製作に励むキューメーカーは多い。
狩りに出ると連絡が付かない
アラスカ州デルタジャンクションの
マイク・ベンダー、
船で沖に出ると長期間音信不通になる
フロリダ州ボカ・ラトンのボブ・マンジーノなど、
いつか行ってみたい工房はたくさんある。
「このキューは、
どんなところで作られているのだろう」
と想像を巡らせるだけでも楽しめるのが、
カスタムキューの良いところだ。
次の依頼を待っているぜ！
よろしくな、BD！
（to be continued…）
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BD Official Partners :
世界に誇るMade in Japanのキューブランド。MEZZ / EXCEED
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ビリヤードアイテムの品揃え、国内最大級。NewArt
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