既報のように、
2/19にビリヤード・スピードプールの
ギネス世界記録™が樹立。
じゅんいちダビッドソンさん(協力出演)と、
バグース所属のJPBA男子プロ5名
(西尾祐、赤狩山幸男、塙圭介、東條紘典、渡辺剛史)の
プロ・アマ混成チームが
世界記録保持者となりました。
その模様を振り返ります。
…………
記録への挑戦は一般観覧可の
イベント形式で行われました。
舞台は東京・渋谷の
BDは開場時間(2/19 18時)の前に会場へ。
中に入った瞬間、普段のビリヤード
トーナメントとは違う空気を感じました。
チャレンジに使うテーブルは2台。
それ以外のテーブルは片付けられ、
観覧スペースが出来ています。
まず目が行くのは
黄色の大型スポーツタイマー。
一秒ごとに「ッシャ、ッシャ……」と
表示が切り替わる音が聞こえ、
妙に急き立てられる感覚があります。
プレイヤー6名はテーブルコンディションを
確かめながらウォームアップ。
その間にもメディア・関係者・
スタッフが続々と到着し、
次々にカメラや機材が組まれて行きます。
「これほどおおごとだとは……」
と微笑む渡辺剛史プロ。
目は笑っていませんでした。
…………
おおごと、と言えば、用具の規定と
その確認が厳格なことにもびっくり。
さすがはギネス世界記録™。
今回使うテーブルのポケット幅
(コーナー)は117.5mm以下と
狭めに設定(いわゆる
「トーナメントエディション」サイズ)。
キューについても、
「長さ40インチ以上」で
「先端径14mm以下」というような
規定があります。
…………
18時。開場時間を迎えたので
プレイヤーは一旦控室へ。
皆さんからコメントをいただきました。
じゅんいちダビッドソンさん:
「前からビリヤードが好きでイベントに絡めたらと思っていたので、バグースさんからお話をいただいた時はすごく嬉しかったです。でも、内容を聞いて『何年も撞いてなかった人間捕まえて世界記録狙わせるって、無茶言うなぁ』ってちょっとだけ思いました(笑)。練習は何度かしましたけど、ミスしてたんで不安なまま今日を迎えました。正直、プロ達に迷惑かけまくるでしょうけど、記録的にはプロ達が頑張れば間に合うと思うんで(笑)、皆さんに助けてもらいます」
塙圭介:
「素早く動けるように、この日のために42年間スタイルを保ってきました(笑)。初めてのことなんでドキドキが止まらないです」
東條紘典:
「3日前の『関東オープン』決勝戦より緊張してます(笑)。他のメンバーに迷惑かけないように頑張ります」
渡辺剛史:
「この舞台に立てる幸せを噛み締めながら、一球一球大事に撞きたいです」
赤狩山幸男:
「今日は赤狩山ではなく『早狩山』で行きます。……でもまあ行けるでしょ。楽勝です」
西尾祐:
「練習していてムラがあったので、本番では良い状態の自分が出ることを祈ってます。達成出来るかどうかはやってみないとわからないですけど、これだけ注目されている場で撞ける機会もなかなかないので、プロとして良い所を見せたいです」
…………
19時。一度暗転し、
照明が灯された会場にゲストMCである
赤坂泰彦さん(協力出演)が登場。
朗々と響く声でチャレンジャーを
一人ずつ呼び込みます。
プロ5名の後に
じゅんいちダビッドソンさん(協力出演)が登場。
すかさず赤坂さんが
「いかがでしょう、本田選手」と振ると、
じゅんいちダビッドソンさん(サッカーの本田圭佑選手のモノマネで):
「今回、サッカー以外のイベントに呼んでもらったというのは、俺、チャンスやなと。皆さんはここにいる5名のプロが上手いのは知っているので、『じゅんいち、どんなもんやねん』と僕が撞く時に注目すると思うんですね。出来れば、あまり見ないでいただきたい(会場大笑)。緊張するので、僕が撞く時はなるべく顔を伏せるようにお願いしたいなと……思いますね!」
一気になごむ会場。……が、
…………
続いて、
ギネス世界記録™公式認定員の
マクミラン舞さんが現れて、
日本語と英語で高らかに挨拶すると、
場の空気が瞬時に引き締まりました。
じゅんいちダビッドソンさんは
思わず一言、「めっちゃガチやん!」。
その後、西尾プロから
競技ルールの説明がありました。
今回挑むのは、
「チームが1時間にプレイしたスピードプールの最多フレーム数」
(Most speed pool / speedball frames completed in one hour by a team (US table))というもので、
記録達成の最低ラインは
「27フレーム」(27ラック)。
1フレーム平均2分13秒で取り切れば
クリア出来ます。
ルールと流れを簡潔にまとめると、
的球15個を使ってラックを組み
(ラックシート使用OK)、
ブレイクショットでスタート。
8番以外の的球14個を「順番自由」
(エニーボール)で全て入れてから
8番を入れると1フレーム獲得。
シュートミスをしてもペナルティは
ないので、入れるのが難しい的球を
「ひとまず穴前に送る」戦術も使えます。
これがなかなか難しいのですが……。
8番が入ったら、隣のテーブルで
次の番手のプレイヤーがブレイクし、
プレースタート
(ラックは先に組んでおいてOK)。
……という流れで、
2台のテーブルを交互に使って
6名が一人ずつプレーし、1時間に
27フレーム以上の取り切りを目指します。
主な注意点として、
「動いている手球は撞いてはいけない」
こと(的球は動いていてもOK)、
「ファウルをすると10秒ペナルティがあり
(ブレイクでのファウルは5秒)、
次のプレイヤーがスタートする前に
ペナルティ消化時間(何もせず待機)がある」
こと、
「8番を途中でポケットしたり、
8番インスクラッチをすると
そのフレームが無効になる」
ことが挙げられます。
ファウルはやむを得ないとしても、
この「フレーム無効」は大きなロスタイムに
なるので絶対に避けたいところ。
また、プレイヤーへのアドバイスは禁止で、
そうみなされる行為・言動があった場合は、
チャレンジ自体が「無効」になるため、
ギャラリーに向けて「お気を付けください」
とアナウンスがありました(もちろん
通常の声援・拍手は全く問題ありません)。
…………
審判員として登場したのはJPBAの
有田秀彰プロと岡田將輝プロ。
2人が全ショットをチェック。
1時間ニコリともしませんでした。
…………
そして、19時20分。
「……3、2、1、Go!」のコールで、
一番手の赤狩山プロのブレイクで
記録への挑戦がスタート。
赤狩山プロは3回シュートミスをしましたが、
1分58秒(ペナルティ無し)という
まずまずのタイムでランアウト。
2巡目以降はどんどん速くなり、
1分30秒台や1分20秒台も記録。
さすがの判断力とテクニックでした。
…………
赤狩山プロが8番を入れた後、
隣のテーブルで2番手・塙プロがスタート。
1巡目(第2フレーム)の記録は
2分18秒(ペナルティ無し)と及第点ペース。
このBテーブルはラックが
少し立ちづらかったようで、
難しい配置になることが多く
スピードが上がりませんでした。
4巡目(第20フレーム)で
難しい8番を「穴前に送る」作戦に出て
ドツボにはまった時は、
「会場が冷えるのを感じた」とのこと。
…………
3番手はAテーブルで西尾プロ。
シュートミスもあり2分25秒で
ランアウト(ペナルティ無し)。
「この1マス目で『あ、これは厳しいな』
と思ってしまいました」。
2巡目(第9フレーム)も
ブレイクスクラッチがあり苦しみましたが、
3巡目からスピードアップ。
…………
コンスタントに速めのペースで
撞けていたのが、
4番手の渡辺プロ(Bテーブル)。
1巡目(第4フレーム)は
1分48秒(ペナルティ無し)。
テーブルの周りを弾むように駆けながら、
ショットそのものは丁寧にこなし、
ミスをしても慌てず対処していました。
…………
5番手の東條プロは1分49秒という
好タイム(ペナルティ無し)。
終始落ち着いていたように見えましたが、
2巡目(第10フレーム)から
「なぜか頭が回らなくなって」、
2分台のフィニッシュも。それでも
安定したタイムを記録していました。
…………
そして、じゅんいちダビッドソンさんが
6番手で登場(Bテーブル)。
「めっちゃ手震える!」と口にしながら、
3分27秒でフィニッシュ(ペナルティ無し)。
2巡目(第12フレーム)は高いショット力を
発揮してノーミスで2分16秒をマーク!
毎回ブレイク直後に落ち着いて
チョークを塗りながらテーブルを見渡し、
考えをまとめてからプレー。
カット・ロング・厚いハードショットなど
経験者も嫌がる難球をズバズバッと攻略。
強心臓ぶりを発揮していました。
…………
じゅんいちダビッドソンさんの後は
また赤狩山プロの番となり、
2巡目、3巡目、4巡目……と続きます。
最後まで全く楽観を許さない
ペースだったため、ギャラリーも
息を潜めるようにテーブルを見つめ、
懸命に拍手と声援を送っていました。
…………
いよいよ終盤。
54分10秒から赤狩山プロの
5巡目(第25フレーム)がスタート。
赤狩山プロ・塙プロ・西尾プロの3名が
一人平均1分56秒で取り切れば
ぎりぎり間に合う計算です。
1分40秒(ペナルティ無し)で
上がった赤狩山プロは安堵の表情。
…………
続く第26フレーム、塙プロは
1分48秒で上がり(ペナルティ無し)。
いくらか時間の余裕を作って
西尾プロに命運を託します。
…………
残り2分21秒。
ギャラリーから「がんばれ!」
「ファイト!」の声がかかる中、
西尾プロが第27フレームをスタート。
しかし、ブレイク直後のショットで
不運な的球2個イン&スクラッチファウル。
会場には悲鳴とため息が。
10秒ペナルティがプレー後に
加算されるため、59分50秒までに
上がらなくてはなりません。
また、的球2個フット戻しとなり、
フットスポット近辺はボールが大渋滞。
本人も「諦めかけた」という大ピンチ。
しかし、投げ出さずに
1球1球落として行きます。
再び大きくなる声援と拍手。
実質残り25秒の時点で
台上にあるボールは8番含めて4つ。
西尾プロはコンビ、縦バンク、カットと
難球を続けてイン……!!
…………
ラスト8はこの形。
赤坂泰彦さんの
「ゲームボール!」のコールの直後、
西尾プロがこれをズドン!
その時タイマーは「59:48」。
10秒のペナルティを加えて……
…………
タイマーは「59:58」で停止。
残り2秒でクリア!
拳を握る西尾プロ、
「やったぁぁぁ!」と叫ぶ赤狩山プロ。
ハイタッチで喜ぶプレイヤー達を
万雷の拍手が包みます。
…………
10分ほど記録の審査が行われた後、
公式認定員・マクミラン舞さんが、
「こちらの挑戦会場でチームで
1時間にプレーしたフレーム数は、
20……7フレームです!」と宣告。
この瞬間、
晴れてギネス世界記録™認定となりました。
記録保持者となった6名のコメントを。
じゅんいちダビッドソンさん:
「ありえない緊張感でした(笑)。特に1巡目はめちゃくちゃ緊張して手が震えてて、8番で数回ミスった時は心折れかけました。プロ達の足引っ張りまくりでしたけど、『プロもミスるんや』って思ったらちょっとほぐれてきました。2巡目以降は『5-9で連マスしてる時のイメージ』を思い出したら少し落ち着いてきて、上手く撞けた球もあったと思います。これ以上は精神がもたないんで(笑)、1回目のチャレンジで成功出来て良かったです」
塙:
「ミスするたびに会場の空気が沈むのは感じてました(笑)。でも、皆さんから声援をいただきなんとか乗り切れました。8番で遊んでしまったフレームもありましたけど、西尾さんの見せ場のために時間調整したということで(笑)」
東條:
「本当に達成出来て良かった。1巡目はいい感じでしたけど、どんどん緊張感が出てきておかしくなっちゃいましたね。でも、最後は西尾さんが決めてくれると信じてました」
渡辺:
「こっちのテーブルはラックが少し立ちづらくて結構苦しかったのですが、僕に出来るのは走り回って撞くことぐらいだと思って、球が入っても入らなくても一生懸命やりました」
赤狩山:
「僕自身はまずまず撞けてたかなと思います。今回、撞く順番を決めたのは西尾さんで、一番美味しいところを持っていったのも西尾さん(笑)。最終フレームは難球続きだったけど、決めてくれて良かったです」
西尾:
「最終フレームの取り出しでダブルイン&スクラッチをした時は『もう間に合わないかな』と諦めかけました。でも、皆さんが見ている前でプレーを止める訳にはいかないので、開き直って撞きました。あの縦バンクもラスト8もよく入ってくれました。自作自演のピンチでしたが、見せ場を作れて良かったです(笑)。バグースチーフインストラクターとしては、今回非常に多くの方にご協力・ご観覧いただいたことを感謝しています。おかげさまで本当に素晴らしいイベントになりましたし、記録達成という形で締めくくれて嬉しく思います。これからもバグースだけでなく、ビリヤードをよろしくお願いします!」
…………
このイベントはBDがこれまで見てきた
ビリヤードイベントの中でも
1、2を争う面白さでした。こんなに
手に汗握るイベントはそうはありません。
スピードプールは、
競技ビリヤードの花形種目、
9ボールとは別のカテゴリーにあり、
9ボールの地位を脅かすような
主流種目になることは考えにくいですが、
「時間で競う」という明快なテーマは
ショーやTV番組にもってこい。
そして「世界記録」や「チームプレー」
という要素との相性の良さも
はっきりと感じられました。
チームで記録に挑んだからこそ
これほどドラマティックな展開が
待っていたのだと思います。
(※海外では以前スピードプールの
国際トーナメントやイベントが何度か行われ、
赤狩山プロも参戦したことがありますが、
それは個人戦でした)
本イベントのアイディアは、
約1年前に株式会社バグース内で、
「バグースブランドの告知/
コンテンツの魅力を伝えること/
全力で取り組み楽しむこと」
という3つの条件を兼ね備えた企画を
スタッフ達から公募した中にあったのだとか。
ビリヤード、ダーツ、
シミュレーションゴルフなど
バグースの全てのコンテンツが対象でしたが、
約200の企画案の中から
「ビリヤードでギネス世界記録™への挑戦」
が選ばれました。
実現までにはかなりの予算・時間・労力を
費やしたとのことですが、その甲斐あって
「日本ビリヤード界初のギネス世界記録™」
という大きな実りを得られ、
一般メディアにも数多く取り上げられました。
ちなみに、ギネス世界記録™は、
同じメンバーでの「記録の自己更新」は
出来ないとのこと。
この6名が再び集結するとしたら、
それは他チーム(3名以上で挑戦可)が
この記録を上回り、認定された後になります。
しかし、ギネス世界記録™はさておき、
このぐらいガチの
スピードプールイベントをまた見てみたい。
そう思わせてくれた濃密な1時間でした。
…………
最後におまけ画像を。
赤坂泰彦さん:
「では、プレイヤーの皆さん、目を閉じてください。そして、『俺、ミスったな』、『チームに迷惑かけたな』と思う方は、手を挙げてください。……ああ、一人もいないですね。ありがとうございました!」
(了)
…………
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