カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)
今回は、Josswest(ジョスウェスト)を
紹介します。
ジョスウェストの代表、
Bill Stroud(ビル・ストラウド)は、
キューメイキングの
「巨匠」の一人として知られていますが、
2011年頃にキュー製作を辞め、
その後病に倒れ、既報の通り、
先月(2020年3月)帰らぬ人となりました。
ビル・ストラウドのバイオグラフィや
ビリヤード産業に遺した功績については、
以下の2つの記事もご参照ください。
○キュー探偵「K」 season 3 episode 00
○キュー探偵「K」 season 5 episode 06(※追悼記事)
…………
今回ご紹介するキューは、
1990年代に作られたと思われるものです。
バットのベース材は
バーズアイメイプルの「ハニーステイン」。
フォアアームとスリーブに
ブラック&ホワイトの長短8剣が入れられ、
華麗なリングワークにも目を引かれる
豪奢な1本です。
ジョイントはビル・ストラウド自身が
開発に深く関わったラジアルピンです。
大原氏・談:
「正確には覚えていませんが、2000年頃、
懇意にしている台湾のディーラーから、
別のキューとのトレードで手に入れました。
フォアアームとスリーブの剣の数の合計から、
『16 points』(16ポイント)と
呼ばれるデザインで、
ジョスウェストの数あるモデルの中でも
かなりハイエンドな部類になります。
このリングデザインも珍しいと思います。
ビルはリングワークにも常に情熱を持って
取り組んでいて、多くのパターンを生み出しました。
トータルのデザインとしては、
個人的にはちょっとくどく感じられますが、
この路線が好きな人も実際に多いですね。
ご存知のように、ビルは1960年代後半に、
Dan Janes(ダン・ジェーンズ)と共に
JOSS(ジョス)を立ち上げましたが、
1972年に独立して、
一人でジョスウェストを始めました。
ダンのジョスはユーザーフレンドリーの
方向性を追求し、お手頃な価格のキューを
大量生産し、まずまず成功を収めました。
だからこそ、ビルはジョスウェストで
より孤高を貫くようなスタイルに
振り切って行ったという印象を持っています。
1点ものを作るというポリシーを持ち続け、
ゴージャスな加飾をいとわず、
コレクタブルキューの方向に進みました。
それは1点ものにこだわり続けるメーカーの、
ある種の宿命でもあります。
このキューはそんな姿勢が色濃く現れ始めた
過渡期に出てきたモデルとも言えます。
ジョイントには、
おそらくこの頃(1990年代初め)
考案して間もないラジアルピンを採用。
余談ですが、カタカナ読みの『ラジアル』は、
英語話者には全く通じませんのでご注意ください。
『レイディオゥ』と言ってください。
このキューはFor Saleで、
訃報が届く前は130万円としていました。
実は国内で一度販売したことがあるんですが、
『見越しがあるから(トビが大きいから)
使えない』と送り返されてきました。
『1週間返品可』としていて
3日で戻って来ました(苦笑)。
腕のあるプレイヤーでもあるビルは常々、
『見越しがあるのが俺のキューの特徴だし、
こういうキューじゃなければ撞けない球がある。
これを使いこなせるレベルの人にしか
渡したくないんだ』と語っていました。
そうは言いながら、1990年代から
シャフトのテーパーが変わってきて、
見越しは少なくなったと思いますが、
それでもなお現代の『9ボールプレイヤー』からは
扱いにくいと思われてしまうようです。
私はビルがワンポケットをプレーしているところを
見たことがありますが、本当に上手くて驚きました。
球を見てすぐ、多くの修羅場をくぐってきた
相当な腕前のハスラーだと感じました。
訃報を耳にして思い出すのは、
その時のプレー姿と鋭い眼光です。
見た目は完全にお爺さんという感じなのに、
目だけが20代のようにギロッとしていました。
そして、とにかく職人気質で頑固でした。
おそらく人間関係で様々な軋轢があって、
付き合いを解消した人や頓挫したプロジェクトも
多かったと思いますが、
『ユニロック』や『ラジアルピン』の
開発に関わったり、
『インターナショナル・キュー・
コレクターズ・ショー』(ICCS)を主催したり、
『ユーロウェスト』などのキューメーカーを
育てたり、アドバイスを送ったりと、
色々な所でレボリューションをもたらし、
ビリヤード界の発展に貢献してきた
人物であることは疑いありません。
『巨匠』という表現がしっくりくる人でした」
(了)
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