5月13日に掲載した
酒井大輔さん(ソニー)の
インタビューの後編をお届けします。
※前編はこちら
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取材協力:MECCA Kawasaki(神奈川県川崎市)
――『グロービス経営大学院』のオリジナルMBAプログラム卒業後、そこでの学びを通じて、ビリヤード時間の過ごし方がそれまでとは大きく変わったというお話を前編でお聞きしました。
酒井大輔(以下、酒):全く変わりました。まずフォームを大きく変えましたね。それまでは『右手の感覚が全て』。2~3日空けたりすると感覚がかなり失われているので、リカバリーするのにウォーミングアップが2時間ぐらい必要でした。自分のベストなフォームがどんなメカニズムで動いているのかを理解していなかったんです。これだと練習時間が減ったら自分の腕を全然キープできない。
――どう変わりましたか?
酒:『ブランクがあっても、右手を振りやすいように振っても、正しい方向に勝手にキューが向かってしまうフォーム』がコンセプトになりました。自分の強みである右手のキュースピードを損なわずに、右手以外の部分でフォームの土台を作り上げ、時間が空いてもすぐ正しい形に立ち返れるというフォーム。つまり、シンプルに再現性を高められるフォームの構築を目指しました。もう練習というより、仮説・検証作業をひたすら繰り返している感じです(笑)。
――実際、ビリヤードの時間は減ったのですよね? グロービス卒業後は。
酒:ええ、結婚もして、妻の影響でテニスもやるようになりましたので、今はビリヤードよりテニスにかける時間の方が多いですね(笑)(※酒井さんの奥様は海外遠征に行くようなトップテニス選手だった)。他にもアート鑑賞やバスケ観戦など色々な趣味があります。その全てを楽しむためにタイムマネジメントは欠かせません。週末の時間を確保するために、平日にビリヤードの朝練をやってから仕事に行ったりもしています。今のビリヤードの練習時間は週4~5時間くらいで、学生時代の1/10です。試合が無い時期は1ヶ月ビリヤードから離れることも普通にありますが、それでも撞き始めから70~80点の出来を出せて、30分も撞けばだいたい自分のフォームは取り戻せます。ミスショットをしても、身体のどこがどう悪さをしたのかすぐわかるので修正も早いです。
――お仕事についてお聞きします。ソニーではどんな業務を?
酒:ハイエンド映像機器の営業です。主に放送局や制作プロダクションに対して、世界最高峰の8K/4Kカメラ・中継車・スタジオ・大型ビジョンなどをプロデュースしています。製品開発メンバーとも連携して、業界の常識を塗り替え、業界を発展させられるような製品やシステム作りに日々チャレンジしています。
――映像技術の最先端。面白そうです。
酒:楽しくてしょうがないですし、たまらなくやりがいがあります。世界初と言われる事例を年に2つや3つ、それを5年ぐらい継続して手掛けさせてもらっています。最先端の美しい8K映像を世に出る前に楽しめて、世に出た時の衝撃を想像して無性にワクワクできるという役得もあります(笑)。
――時代は8Kですね。
酒:お客様から『本当に8Kって必要? 4Kでも十分綺麗では?』という話が出ることも少なくないですが、我々とお客様とで総力を上げたプロジェクトで生み出した最高峰の8K映像をご覧いただくと、懐疑的だった方々も「……すごい、こんなに綺麗だとは……」と言葉を失うほど驚き、美しさに感動して自然と涙を流す方や、呆然と1時間くらい立ち尽くす方もおられて、まるでオセロのように一気に評価がひっくり返ります。その様子を見るのが好きですね(笑)。それはたぶん、トリックショットやマジックを人に見せる感覚と根っこの部分は同じだと思います。
――スケールの大きいプロジェクトばかりでご苦労も多いと思います。
酒:お客様の要求水準も非常に高いので、極限まで性能・品質を高め、さらに進化を継続しなければなりません。大きなトラブルが発生したときには、連日朝から晩までかかりきりで対応することもあります。そんな時も、グロービスで学んでいた時の経験から、追い込まれた時の自分の限界点や余力はわかっているつもりですし、ビリヤードやテニスで学んだ『リセット力』に救われているところもあります。うまくいかないことやミスに引きずられず、リセットして、またすぐフルパワーでリカバリーに取り掛かれます。仕事・グロービス・ビリヤード・テニス・家庭、相互にパフォーマンスを高め合う関係にできていることを実感しています。
――会社の同僚の皆さんは、酒井さんがビリヤードのトップアマだと知っていますか?
酒:上長も同僚も知っています。社内メディアで『うちの会社にこんな人がいます』という企画に出させてもらったこともあるので、他部署でも知っている人は結構いると思います。
――数年に一度、『全日本選手権』(11月・尼崎)に参戦していますが、あれは仕事の展示会と会期がかぶらない年のみ、でしたね。
酒:はい、『Inter BEE』(国際放送機器展)とかぶらない年だけです。全日本参戦も本当に上長や同僚の皆さんの協力があってこそです。試合は月曜スタートなので『負け次第すぐに帰ってきます』と伝えるのですが、『いやいや、帰って来なくていい。そのぶん売上目標をしっかり積んどくから(笑)』と忙しい時期にも関わらず笑って送り出してくれ、私の仕事も全力でフォローいただいています。社内メディアでも『会社に来ない人がいるんです(笑)』とユーモアを交えて試合風景を共有し、盛り上げてくださいました。こういった社風で仕事と趣味が両立できて、互いのチャレンジを尊重できる職場にいられて、とても恵まれているなと思いますし、本当に感謝しています。
――そういう環境のおかげなのか、酒井さんはビリヤードにおいても、自分が楽しいと思えるスタイルを伸び伸びと実践している印象です。
酒:それはあると思います。ビリヤードの魅力にも通ずるところですが、自己表現の一つだと思っていますし、それがビリヤードに楽しく取り組むための大事な要素ですね。
――酒井さんにとってのビリヤードの魅力とは?
酒:大きく3つあって、1つ目は『勝負』の世界だということ。生粋の勝ち負けに没頭できる面白さです。2つ目は、戦略性とインテリジェンスが試される知的ゲームの妙ですね。最後は、僕が「アート」と捉えているところなんですけど、一つひとつのショットで人を魅了し、楽しませることができるところ。ビリヤードはこの3つのバランスで成り立っているユニークなゲームだと思います。勝利にこだわる人ならはじめの2つの比重が高くなるかもしれないですが、僕にとっては3番目もとても大事です。
――「個」が出やすいところですね。3番目は。
酒:プロの試合などで難しい配置とかしびれる局面になって、観客が『この人、どうするんだろう』みたいな感じで選手を見つめる時ってあるじゃないですか。そこで一つのショットで強烈に自己表現できる人に憧れます。例えば、E・レイズやE・ストリックランドがそう。見ていてワクワクする選手ですよね。僕もプレイヤーとして、自分が楽しくて周りからも楽しいと思われるようなスタイルを体現したいという思いがあります。だから、私がロングの立てキューで攻められる局面でセーフティを選ぶようになったら、それはもうビリヤードを辞める時かもしれません(笑)。
――ロングの立てキュー、酒井さんはホントによく撞いてますね(笑)。さて、今後のビリヤードとの付き合い方は?
酒:今のサラリーマンプレイヤー生活がすごく充実しているので、今後もこのスタイルで楽しんでいきたいと思います。学生時代はひたすらビリヤードに集中して打ち込んでいましたけど、今は仕事も勉強も家庭もテニスもそれぞれ全力で楽しんでいますし、それぞれが良いサイクルで回っていて、それぞれがプラスに作用し合い、あるところで得た経験・発見が他にも転用出来るような状況になっています。
――欲しいタイトルなど、プレイヤーとしての目標は?
酒:プロ・アマ問わず、出場する大会では常にトップを目指してプレーしています。もちろんタイトルを獲れたら嬉しいですけど、試合結果は自身のプレーと相手のプレーの掛け算なので、あくまでタイトルは自己研鑽を積んでいく過程で得られる副産物的なものだと思っています。ですので、目線をしっかり自己に向けて、思い描く理想のプレーや表現を追求して、トライを重ねることで日々成長し続けることが重要というのが私の核です。30代になってからテニスも始めて、あらためて初級者→中級者→目指せ上級者という成長のステップを存分に楽しんでいますが、この成長は自身にとってビリヤードと同じくらい大事な位置付けです。
――あのYouTubeチャンネル(『リーマンハスラー酒井大輔』)もぜひ継続してください。
酒:ありがとうございます(笑)。ビリヤードって仕事着でもスッと行きやすいし、仕事に役立つ戦略的な考え方とか勝負勘とかが養われるゲームですよね。コミュニケーションのツールにもなりますし、アートの観点で想像力も高められます。そういうところをプロの方ではなくて、私のような立場の人間が発信するのも面白いんじゃないかと思ってあのチャンネルを立ち上げました。限られた時間でも上達する方法や、仕事へ活きるビリヤード発想法などを通じて「仕事も楽しくてビリヤードも楽しくて、両立出来るともっと楽しい」ということを伝えられればと思います。自分自身もそうありたいと思ってますし、そう思える人がたくさん出て来るような世界になると良いなと考えていて、そこに何かしら貢献できたら嬉しいなという思いも込めています。2020年4月から2度目の大阪赴任になりましたが、大阪でも仕事に家庭に自己研鑽にビリヤードにテニスに、自分らしく楽しく取り組んでいきます。
(了)
酒井大輔:Daisuke Sakai
年齢:取材時 39歳 (1981年生まれ)
出身・在住:千葉県・神奈川県(2020年4月1日から大阪府)
職業:会社員。ソニービジネスソリューション株式会社 西日本営業部 統括部長
所属店:『MECCA Kawasaki』(取材時。4月1日以降は未定)
プレーキュー:『HOW ZR-4』(APシャフト。タップは『斬 ハイブリッドマックス』)
主な戦績:
2001年(アマ)『全関東学生9ボール』優勝
2002年(アマ)『全日本学校対抗9ボール』優勝
2006年(プロ)『エイトボールオープン』準優勝
2007年(プロ)『グランプリウエスト第1戦』3位(ベストアマ)
2012年(アマ)『名人戦』A級戦 3位 9段
2013年(プロ)『グランプリイースト』アマ年間MVP
2014年(アマ)『全関東選手権』優勝(2015年&2018年準優勝)
2015年(プロ)『全日本選手権』9位(ベストアマ)
2017年&2019年(プロ)『グランプリイースト第7戦』9位(ベストアマ)
他、関東アマ公式戦を中心に優勝・入賞多数
憧れのプレイヤー:E・レイズ、E・ストリックランド
ビリヤード歴:約20年
ビリヤードを教えてくれた人:今まで関わったプレイヤーの皆さん全て
ビリヤード以外の趣味:テニス、アート、マジック、バスケ観戦
座右の銘:「可能性を信じる」、「芸は身を助ける」
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My Billiards Days :
Vol.1 今村哲也(Tetsuya Imamura)前編/後編
Vol.2 酒井大輔(Daisuke Sakai)前編/後編
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BD Official Partners :
世界に誇るMade in Japanのキューブランド。MEZZ / EXCEED
創造性と匠の技が光る伝統の国産キュー。ADAM JAPAN
ビリヤードアイテムの品揃え、国内最大級。NewArt
末永くビリヤード場とプレイヤーのそばに。MECCA
カスタムキュー、多数取り扱い中。UK Corporation
13都道府県で開催。アマチュアビリヤードリーグ。JPA
徹底した品質の追求。信頼できる道具をその手に。KAMUI BRAND
赤狩山幸男プロ参加の平日トーナメント開催中。 BAGUS
カーボン繊維構造REVOシャフト発売中。PREDATOR JAPAN
ジャストなビリヤードアイテムが見つかる。キューショップジャパン
2018年4月大阪市淀川区西中島に移転リニューアルオープン。日勝亭
オウルグローブ新モデル「+」(プラス)発売中。SHOP FLANNEL
国内外トッププレイヤー達が信頼する国産積層タップ。斬タップ
コロナウイルスで困っているお店を支援しよう。想いの輪
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Cue Ball Samurai―ビリヤードサムライLINEスタンプ