私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
今なお続く新型コロナウィルス禍。
玉屋は「そろり」と開店しているが、
公式戦の開催は引き続き厳しい。
ビリヤードをスポーツとして捉えても、
インドアかつ外気外光が入らない環境で
プレーという印象が強ければ、
世間の理解は得にくいところだ。
相手が撞いている時、
もう一方は一切関与できないという点で
ソーシャルディスタンスを保てる競技と、
アピールするべきだろう。
リンリンリン♪
おお、BDからネット通話だ。
連絡があるだけでも幸いだな。
『K、玉屋に行っていますか。』
すっかりウデは落ちた。
キューの持ち方から
思い出さなければならんレベルだ。
『ところで、長さや重さの単位、
ビリヤードは特殊ですよね。』
ああ、重さは「オンス」、
長さは「フィート」か「インチ」だな。
『それはなぜですか?』
アメリカの影響が大きいからだな。
『日本ではなじみがない単位なのに、
なぜ不自由していないのですか?
それでいて、キューが長いとか短いとか、
重いとか軽いとか、なぜ言えるのですか?』
何やら某国営放送の番組的なノリに
なってきたな……。
よかろう、オレはキュー探偵K。
その疑問、引き受けた!
*****
ポケットキューにおける、現代の標準的な
長さは58インチ、重さは19オンス。
1インチ(in)は約2.54cm
オンス(oz)は約28.35g。
なので、それぞれ147.3cm、538.7g。
といっても、長いのか短いのか、
重いのか軽いのか、ピンとこない。
ビリヤード関連製品の多くは
アメリカで広く用いられている
「ヤード・ポンド法」によって
設計され、生産されている。
ちなみにヤード・ポンド法で
使われる単位の関係は、
単純な10進法ではないのがややこしい。
長さ(1インチ=約2.54cm)なら、
1フィート=12インチ
1ヤード=3フィート
1マイル=1,760ヤード。
重さ(1オンス=約28.35g)なら、
1ポンド=16オンス
1ショートトン=2,000ポンド。
液量(1液用オンス=約29.5735ml)なら、
1パイント=16液用オンス
1クォート=2パイント
1ガロン=4クォート
……と複雑だ。
しかも、最小単位未満を表すにも特徴がある。
小数点を使うのは、小数点以下1位か
せいぜい2位ぐらいまでだろう。
細かくなればなるほど、分数併用で表す。
しかも分母は2のn乗が多い。
つまり、2分の1や、4分の1、
8分の1……等々。
アメリカ人に言わせると、
「分数の方が感覚的に分かりやすい」
のだそうだ。
よく使われるビリヤードキューの
ジョイントピンのサイズ表記、
「5/16-14」は、直径16分の5インチ、
1インチあたり14個のネジ山。
「3/8-10」は、直径8分の3インチ、
1インチあたり10個のネジ山。
どっちが太いのか、一瞬戸惑う。
*****
アメリカが、このややこしい
ヤード・ポンド法を採用したのはなぜか?
これはもともとイギリスが
使用していた単位(「イギリス単位」)で、
北アメリカの一部がイギリスの植民地と
なっていた17世紀ごろ持ち込まれたもの。
本国イギリスでは、1824年、
微妙に異なる「帝国単位」が制定されたが、
アメリカでは旧単位のまま。
現在は「アメリカ慣用単位」と呼ばれ、
メートル法が世界的に普及した20世紀以降は
ほぼアメリカのみで通用する単位体系と言える。
*****
普通に考えれば、グローバルスタンダードに
合わせるべきなのだが、
大量生産・大量消費が根底にある
工業製品においては
「他所がオレに合わせればよい」
と考えるのがアメリカ流。
自動車や楽器、そしてボウリングや
ビリヤード用品であっても、
製品はヤード・ポンド法の単位に基づいて
生産され、海外に輸出されている。
修理やメンテナンスの際、
規格が異なるため苦労することも多い。
とはいえ、頭の中を
ヤード・ポンド法に切り替えた方が、
アメリカ人との会話がスムーズ。
ところが、キューの先端径だけは、
13mm、12.75mm、などと
アメリカでもミリメートル表示。
しかもインチ換算すると中途半端な数値。
これは、タップがメートル法発祥の地、
フランスで発明されたものだからだ。
アメリカにおけるヨーロッパ製品への
憧れが強かった19世紀、タップも
初期は輸入品。そのため、タップ径は
ミリメートル単位が良いとされた。
やればできるのだ、アメリカ人。
ハナシは若干それるが、
シャフト径に合わせて12mmや13mmが
一般的な一枚革タップのサイズだったのが、
「大は小を兼ねる」発想で
14mmを標準サイズとした元祖は、
日本のモーリタップ。
タップサイズに関するミリメートル表記が
今後も続くなら、日本製タップの存在も
その理由のひとつになりうるな。
*****
冒頭に述べた通り、
ポケットキューにおいては、
現代では長さ58インチ、
重さ19オンスが大体の基準。
キューが短すぎると
届かないポジションが発生するし、
長すぎると壁が邪魔となり撞きづらいため、
極端な仕様は好まれない。
また、キューメーカーやサプライヤーは、
ワンサイズの方が売りやすい。
ただ歴史的には、キューは長く細く、
かつ軽くなる傾向があり、
半世紀前には57インチ、20オンス以上の
キューはザラにあった。
キューのしなりやキュースピード重視の
仕様変更は、手玉のヒネリや押し引きを
多用する9ボールの普及が
影響しているとオレは思う。
*****
しかし、重さはウェイトボルトで
調整できるから良いが、
長さが一律で良いのか?
という疑問は当然出てくる。
プレイヤーの身長に合わせた
特注キューは古くからあったが、
1990年代には、
より繊細な手玉のコントロールを重視した
57.5インチのキューを作った
コグノセンティというメーカーや、
60インチのキューを
愛用したエフレン・レイズ、
56インチのキューで勝ちまくった
アリソン・フィッシャー等々の
プレイヤーの存在により、
長さ=手玉のコントロールに
影響する点に気付き始めた。
逆に通常のプレーに影響を与えないよう、
必要な時だけ装着できる
「エクステンション」も普及した。
スヌーカー出身の
カレン・コーが使用していた、
エクステンションを付けた
ビル・マクダニエルを
覚えているベテランも多いはず。
さらに2010年代に入ると、
常時装着を前提とした2インチ程度の
「ショートエクステンション」が登場。
ウェイトバランスと長さの調節による
チューンナップが可能となった。
カスタマイズが手軽な時代になったわけだな。
*****
日本人からすれば、普段使わない単位だから、
「大体こんなもんで」と思える
ヤード・ポンド法。
キューの長さや重さに、メートル法が
使われていたら、長さや重さは、
おそらくもっとシビアに調整されるだろう。
広大な北米大陸と、ヤード・ポンド法という
ガラパゴスかつおおらかな度量衡を使用する
アメリカの文化が、今のポケットビリヤードを
形作っているとオレは思う。
キューの長い・短い、重い・軽いという
感覚は、あくまでも個人の印象によるもの。
細かいことは気にせず、
競技ルールで規定された範囲内で、
撞きやすければそれでよいのだ。
次の依頼を待っているぜ!
よろしくな、BD!
(to be continued…)
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