「仕事も趣味もビリヤード」
「ビリヤードだけで生きている」
という人はほんの一握り。
大多数は一般の職に就き、
余暇にビリヤードを楽しんでいます。
仕事と球、どちらもおろそかにせず、
時間とエネルギーをやりくりする苦労を
多くの人が味わっているでしょう。
でも、中には、仕事もビリヤードも
全力投球で、自分の流儀で成果を上げ、
名を知られるようになった人がいます。
そんな熱い撞球人を紹介する
インタビュー企画。
第4回にご登場いただくのは、
「キッチンカーでクレープを売る
ビリヤードプロ」として知られる
北田哲也プロ(JPBA)。
兵庫は尼崎生まれの北田プロ。
2007年のプロ入り以来、
しばらく関西で活動していましたが、
2014年頃にキッチンカーの世界へ
飛び込み、関東へ移住。
仕事で足場を固め、2018年から
ビリヤード競技活動に復帰しています。
そのビリヤードライフと
異色の経歴をお聞きします。
…………
北田哲也:Tetsuya Kitada
年齢:取材時 41歳(1979年3月15日生まれ)
出身: 兵庫県尼崎市
在住:神奈川県川崎市
血液型:A型
職業:飲食業。株式会社ラペカフェ代表(キッチンカー『ラペカフェ』)
ビリヤード歴:約18年(23歳頃から)
プロ入り:2007年(JPBA41期生)
所属店および練習場所:『ニュー文化』(スタッフとして勤務)、『AZ. Place』(スタッフとして勤務)、『メイプルハウス梶ヶ谷店』
プレーキュー:『マクウォーター』(シャフトは『314Ⅱ』、タップは『モーリ ジュエル』)
プロ・アマ公式戦上位入賞歴:特になし
憧れのプレイヤー:J・ショウ、E・ストリックランド
趣味:映画鑑賞
…………
取材協力:『ニュー文化』(東京都世田谷区)
――「何をしている人ですか?」と聞かれたら?
北田哲也(以下、北):「移動販売のキッチンカーでクレープを作って売ってます」と答えます。こんな顔ですけど(笑)。
――コロナの影響は?
北:普段はイベント会場や大学にキッチンカーを出すことが多いですが、コロナでイベントも大学の授業もなくなってしまったんで、仕事は一旦ほぼなくなりました。ただ、夏の終わり頃から少しずつ戻って来ていて、大型マンションの敷地内など新しい現場も増えてきています。
――イベント会場は例えばどんなものが?
北:目黒川の花見や川越のお祭りや各地の花火大会とか。今年は全部なかったですけど(笑)。あとは、芸能関係のロケ現場や、出版社が企画する横浜の赤レンガ倉庫のイベント会場も。それにスポーツイベントの会場もあります。
――となると、土日に働くことが多そうですね。
北:基本は土日ですね。この仕事を始めて6、7年になりますけど、はじめの数年間は忙しくて心の余裕もなくて、まともにビリヤードができなかったですし、試合は一切出てません。一昨年と去年(2018年・2019年)は関東の試合に出ましたけど、土日に仕事が入ると出られません。知り合いのキッチンカーを現場に派遣して、自分は試合に出ることもあるんですけど、ちゃんと現場が回っているか気が気じゃない時もあります。
――お休みを取ったり、球の練習をするのは平日ですか?
北:はい。コロナ前は週2~3日、平日に休みを取って、『メイプルハウス梶が谷』で練習することが多かったですね。コロナ禍になって仕事が減ったこともあって、以前からお世話になっている『ニュー文化』さんと『AZ. Place』さんで週1でスタッフとして入らせてもらっています。
――ビリヤードとの出会いは?
北:23歳の時です。当時は尼崎の実家住まいで、飲食店のキッチンスタッフとして働いてました。ある日、仲の良い同級生に誘われてビリヤードをしに行ったんです。僕は初めてで球を入れるのに必死だったけど、その彼は数回やったことがあって、ちょっとだけ手球の動かし方も知っていたから僕は負けっぱなし。それが悔しくて一人で通い出しました。
――どちらのお店に?
北:梅田の『ブギ』です(※現在はビリヤード台なし)。店長さんに基本を教えてもらって、ハウストーナメントにも出るようになってハマりました。
――そこからは?
北:25、26歳の頃、ブギのスタッフが自分でビリヤード場をやることになり、スタッフとして誘われて、僕は飲食店を辞めてそこで働くことにしました。それが『9-up』です(大阪市福島区福島)。僕は9-upにいる時にプロになりました。なる気はなかったのになっちゃったというか(笑)。
――もともとプロ志望だった訳ではないんですね。
北:全然です。僕は紅山(龍三。元プロ)さんと親しくさせてもらっていて、紅山さんがアマからプロになった過程を見ています。当時の僕からしたらすごく上手い人だったけど、プロでは優勝できなかった。それが驚きでした。そして、試合に出続けるのにはお金もかかります。本当に大変な世界で自分には無理だと思ってたんです。でも、9-upのバーベキューか何かの時に、酔った勢いで「来年プロになる!」って言っちゃって(笑)。それを皆が覚えてて色々と世話を焼いてくれたりして、引くに引けなくなり、とりあえずプロテストを受けようと。その頃はまだA級になりたてで、実技試験(ボウラード)に受かるとも思ってなかったです。
――JPBA41期生のプロテストを受けました(2007年プロ入り)。
北:プロテスト当日のことはよく覚えてます。会場が以前の場所の『タツミ』で、僕が撞いたテーブルには『IPT』のラシャ(毛足が長くてボールの転がりが重いラシャ)が張られてて……。会場には飯間智也くんと原口俊行くんと片岡久直さんもいました。僕は純粋に『良いスコアを出したいな』という気持ちで頑張ってたら受かってたという感じでした。
――当時の目標は?
北:実力がないことはわかってたんで、漠然と『大会の2日目に残りたい』(ベスト32や16以上)ぐらいです。シュートは自信がありましたけど、手球が致命的に下手。それに気付いてはいたけど、本当の意味ではその大事さがわかってない頃です。プロ公式戦はことごとく予選敗退でした。それでも経験を積めばいつか上に行けるかもしれないという期待を抱いて、最初の1年は全試合(15試合前後)出ました。
――2008年以降、試合参戦が激減します。
北:はっきり言えば、モチベーションが低下してました。自分の実力のなさと競技活動にかかる費用や時間の大きさを痛感して、さらに30代が近付いて来て「このままで良いのか」と将来が不安になり、葛藤してました。うちは片親なので、親に心配かけたくないという思いもありました。それで9-upを辞めて一般の仕事に就きました。といっても、一つの所で安定していた訳じゃなくて、辞めたり入ったりが何度かあって、9-upに出戻ることもありました。要は根性がなかったんです(笑)。
――キッチンカーに出会ったのは?
北:33歳の頃です。当時僕は吉岡正登プロ達と一緒に『ビリヤードとワインを楽しむ会』など、一般の方にビリヤードに親しんでもらえるようなイベントをいくつかやっていて、そのスペースのオーナーさんが、僕にキッチンカーの話を持ってきてくださって。キッチンカー製作会社の社長さんと3人で打ち合わせをしました。当初のコンセプトは「ビリヤードテーブルも積んで各地を巡る」。そこに魅力を感じました。
――ずいぶん思い切った転身に思えます。
北:そういうタイミングだったんでしょうね。プロになってからしばらくの間、僕は自分が上手くなって成績を上げることしか考えてなかった。でもそれでは、この業界が広がったり、食える人が増えたりすることはないですよね。だから、それとは違うやり方、自分らしいやり方で、この世界を良くしていきたいと考えるようになり、それでビリヤードとワインの会などのイベントに関わらせてもらいました。その繋がりで「キッチンカー」というものを知り、一つの仕事としても、ビリヤードを広める場としても夢があるなと感じました。飲食業界にいたので調理には慣れてるし、独り身だったからというのもあります。
――ですが、車にしろ何にしろゼロから揃える必要がありますよね。
北:はい、そのオーナーさんが資金を用立ててくれて、キッチンカーの手配もしてくれました。お金は約束通りちゃんと2年で完済しました。ものすごくハードでしたけど(笑)。
(前編了)
※後編はこちら
…………
My Billiards Days :
Vol.1 今村哲也(Tetsuya Imamura)前編/後編
Vol.2 酒井大輔(Daisuke Sakai)前編/後編
Vol.3 青山和弘(Kazuhiro Aoyama)前編/後編
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