昨日掲載した
北田哲也(JPBAプロ/キッチンカー)の
インタビューの後編をお届けします。
※前編はこちら
…………
――関東に移ったのはキッチンカーを始めるタイミングで?
北田哲也(以下、北):そうです。最初は関西も考えたんですけど、キッチンカー製作会社が千葉にあって、そこで研修も受けるし、どうせなら人が多い東京でやろうと思って。ラッキーなことに研修で出会った人が「使ってない部屋が世田谷にあるから、住んでも良いですよ」と言ってくれて、図々しくそこにしばらく住ませてもらいました。その間に仕事の基盤を作れたので助かりました。
――数ある料理やスイーツの中からクレープを選んだのは?
北:たまたまキッチンカーの研修でクレープを作る講座があったので「これにしよう」と。それだけです(笑)。飲食店勤務時代にカフェのスイーツも作った経験があるから、なんとかなるだろうと。最初は全然生地を回せなかったですけどね(笑)。
↑2020年8月、関東の大型マンション敷地内に出店した時に撮影。おすすめのハニーマスタードチーズクレープを作ってもらいました。美味しくてボリューミー
――キッチンカーは勝手に好きな所で営業できるものじゃないですよね。場所探しが大変そうです。
北:はい。はじめのうちは他のキッチンカーを見付けたら声を掛けて、どこに連絡すれば出店できるのか聞きまくりました。それで大学をおすすめされたので、1,000校ぐらいに電話して(笑)。断られ続けましたけど、こっちも命かけてるんでめげずにかけ続けて、脈がありそうだったら「今から行きます!」とすぐ車を見せに行きました。そのおかげで1校から仕事がもらえました。
――1校だけと聞くと少なく感じますが、定期的に入れるなら良い仕事になりそうですね。
北:そうなんです。例えば、自分が行くのは週1日にして、他のキッチンカーにも声を掛けて他の曜日に行ってもらう。そういう派遣の仕事もするようになりました。そんな営業や交渉が出来るのが強みで、そのおかげで食えてると思います。この仕事を始めてから、イベントでも建物でもお祭りでも「ここいいな」と思ったらすぐ調べて電話するのが習慣になってます(笑)。
――お金を返済しなければならかったという最初の2年は、特にキツイ日々だったのでは?
北:すさまじかったです。あるのは車と借金だけ。キッチンカー製作会社は「現場の紹介などのバックアップはする」って言ってたけど実際はゼロ(笑)。なんでも自分でやらなくちゃいけなくて本当にキツかったけど、良い出会いもたくさんあったし、楽しくて仕方なかったです。今まであそこまで自分を追い込んだことはなかったけど、死ぬ気になったらなんでもできるし、日本って国はなんとか生きていけるもんだなって。あの経験は自分にたくさんのものをもたらしてくれたし、ビリヤードの試合のメンタルにもだいぶ影響があります。
――キッチンカーは性に合っていると思いますか?
北:はい、この仕事が好きだから続いているんだと思います。基本的に自分一人で行き先も時間も決められるのが良いです。最近は都内や近郊の現場が多いですけど、初期はたびたび遠出することがあって、仕事が終わってから温泉に入ったり、知らないビリヤード場に行ったり、車の中で寝たり。そういう旅っぽい現場は特に記憶に残ってます。以前、茨城県に行った時に車が壊れてしまって、クレープを買ってくれたお客さんに「困ったな」なんてこぼしたら、「そこの水戸納豆の会社の社長さん、いい人だから相談してみたら?」って言われて。本当に相談しに行ったら、その会社で使っている車の整備工場を紹介してくれたり。そのご縁でコラボして水戸納豆クレープも作りました(笑)。
――それはすごい(笑)。コロナ禍前、大きな現場と言えばどういうものが?
北:住宅展示場です。「土日に20台出してください」というような依頼があるので、自分が取りまとめて、他のキッチンカーにも出動を頼みます。住宅展示場はお客さんがキッチンカーに殺到するようなことはないんですけど、例えばクレープ100食分でいくらという買い取り制でやってくれて、はじめに提示された金額は確実にいただけるので安定した良い現場です。でも、規模が大きいので、キッチンカーを束ねる立場の僕は結構ドキドキしています。皆個人事業主で、遅刻する人とか態度が良くない人とかもいるので。特に僕が現場に入らず、派遣だけして、ビリヤードの試合に出ている時は、試合よりもそっちで緊張する時もあります。
↑2枚とも北田プロからの提供画像。ビリヤードテーブルを出せた現場
――ビリヤードテーブルを店前に出せた現場はありますか?
北:ある住宅展示場で出せました。展示場の方には前から「僕はビリヤードのプロをやっているので機会があれば」と伝えていて、ある時展示場内で『スポーツ体験祭』があった時に、「カフェとビリヤードでやってほしい」という依頼をいただきました。僕は正装して、折りたたみ式の7フィートテーブルを出して、お客さんにアドバイスしながらビリヤードを体験してもらいました。喜んでもらえたし、念願の一つが達成できて嬉しかったですね。それと、赤レンガ倉庫のイベントでは、クレープを買ってくれたお客さん向けにテーブルをフリーで開放したことがあります。未経験者が自由に遊ぶと結構危なっかしいんで、本当はつきっきりで教えたいんですけど、その時はそうもいかなくて。ただ、ビリヤードテーブルはそこにあるだけで絵になるので皆写真を撮りたがりますね。
――2018年と2019年はまた試合に出るようになりました。それは仕事が安定してきたからですか?
北:はい、球を撞ける時間が増えて、プロの練習会に参加させてもらったり、ランキング上位の人と撞いてもらう機会も増えました。それで『グランプリイースト』(GPE)に出てみたら、自分が思ってたよりも戦えるなと感じたし、とにかくビリヤードが楽しかった。僕は誰よりも試合を楽しんでる自信があります。そして、同じように楽しんでいる人はすぐ見付けられます。反対に、昔の自分みたいに苦しみ、葛藤しながらやってる人もわかります。
――2019年の『GPE-5』では5位になりました。
北:僕のプロ最高順位です。『勝ちたい』という欲もなく、楽しみながら撞いてたら5位になれました。試合に復帰して少しずつ順位を上げてこられているのは、仕事で精神力が培われたのもあるし、関西にいた頃からメンタルタフネスやスポーツ心理学の勉強をしていたのも役に立っていると思います。そして、今はメンタルコーチに付いてもらってます。その方はビリヤード界の人ではないですが、スポーツ全般に通じるアドバイスがすごく役立っています。
――ビリヤードのプロの中には10代からずっとビリヤード畑で活動している人もいれば、北田プロのように他業種で基盤を作ってから競技活動に戻って来る人もいる。色々なプロ生活の形があるなと今日のお話で改めて実感しました。
北:トップランカーとして活躍している人達からは常に覚悟を感じます。覚悟がある人は30代になっても40代になってもこの道だけで行き切れるんです。だから強いと思うし、尊敬しています。昔の僕はそうなりたいとずっと思ってた。でも、その道を行き切る覚悟がなかった。だから、まず食べていくために仕事をして、そして今また球が撞けるようになった。回り道のように見えるかもしれないけど、無駄な時間だったとは今は全く思わないです。僕は僕のやり方で、競技の世界にまた身を置けるようになったから。きっと皆それぞれのルートがあると思います。でも、それを見付けるのは難しいことなのかもしれません。たまたま僕は運良く見付けられたのかもしれない。自分は良い道を巡ってこれたなって今本当に感じてますし、この先もっとビリヤードが楽しくなるだろうと思います。
――これからやってみたいことは?
北:将来的には仕事を会社組織にして、自社でキッチンカーを何台か揃えて、雇用を生み出して、管理する側に回るというのが理想です。今すぐには難しいと思いますけど、資金などのめどがついたらやってみたいです。でも、僕はキッチンカーの現場が好きなので、どんなに回数が減っても現場には立ちたいですね。もし会社を作って軌道に乗せられたら、今以上にビリヤードの試合や遠征に行きやすくなると思います。それで、日本全国だけでなく海外の試合にも出るというのが今後の目標……というか野望です(笑)。
(了)
My Billiards Days :
Vol.1 今村哲也(Tetsuya Imamura)前編/後編
Vol.2 酒井大輔(Daisuke Sakai)前編/後編
Vol.3 青山和弘(Kazuhiro Aoyama)前編/後編
Vol.4 北田哲也(Tetsuya Kitada)前編/後編
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