〈BD〉「カスタムキューケースの世界~各論」――Detective “K” season6 episode 05

自身の名入りの「サメケース」を持つアメリカンレジェンドプレイヤーの一人、マイク・マッセイ
自身の名入りの「サメケース」を持つアメリカンレジェンドプレイヤーの一人、マイク・マッセイ

 

12月9日掲載の「概論」から続く~

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

Merry Christmas for all.

 

そう言えるだけでも幸いと思えるな。

世界中、かつて経験がなかった

状況のまま暮れる2020年。

 

2021年は「ニューノーマル」が

定着したままなのか、

かつての生活スタイルに戻るのか、

どちらだろうか。

 

さて、今回は

「カスタムキューケースの世界」各論。

 

前回は、キューケースの

世界全体をざっくり俯瞰したが

 

今回は「トンがった」ケースに絞り、

個別論を展開したい。

 

それすなわち、オレ的

「BD読者に知ってもらいたいケース」だ。

 

一筋縄ではいかんぜ、BD!

 

******

 

前回、キューケースの要件は

「キューの保護」であり、

いくつものメーカーが

様々なケースを製作したことを述べた。

 

今回は「デザイン」に焦点を当てたい。

 

キューケースはプレーに使用しないので、

規格や規則は存在しない。

 

よって、キューのデザインを

上回る自由度の高さで、

様々なキューケースが作られた。

 

オレが見てきた中でいくつか紹介しよう。

実用性は二の次だ。

 

******

 

◆ ロンゴーニ(LONGONI Cue Cases)

 

 

イタリアのキューメーカー、

ロンゴーニ社は、

アメリカ的なコンセプトとは

全く異なるキューケースを製作した。

 

軽量かつ堅牢な筐体に、

レザーやカーボンシートで外装を仕上げた、

アタッシェケースのようなケースだ。

 

オーナーは、高級アパレルブランドの

カタログを想像させるような、

スーツやシャツ、革靴に至るまで、

小粋なイタリアン・ファッションの

コーディネートが必要。

 

玉屋、いやビリヤードサロンに

車で通うプレイヤーなら、

アルファ・ロメオかマセラティに乗り、

このケースを手に降りてきたら粋だな。

 

持ち手を選び、

所有者のスタイルまで規定する、

欧州のスタイリッシュなキューケースだ。

 

ただ、狭い店ではプレーの最中、

どこにこのケースを置けばいいのか?

という単純な問題に

悩まされるかもしれない。

 

立てかけるのも場所を取るし、

台の下は論外だぜ。

 

******

 

◆ キバース(Quiverz Sport Cases)

 

 

レザークラフトのアーティストでもある、

フィル・イーストウッドが

製作するケース。

 

『インターナショナル・キューコレクターズ・ショー』(ICCS)

で展示された際には、

数あるカスタムキューを凌駕する

インパクトがあった。

 

その特徴は何といっても、

極彩色に着色した彫りの深いレザー彫刻と、

金属パーツも装飾の一部とした芸術性。

 

最後の1ミリまで、

デザインが入っていない箇所は

ないほどの凝り方には、

作者の執念みたいなものを感じる。

 

当然のことながら半端ない重さがあり、

突起も多いので、

混雑した公共交通機関に

このケースを持ち込むと、

他の乗客は迷惑この上ないだろう。

第一、担いでいる本人もツラい。

 

キューケースの名を借りた美術品として、

カスタムキュー蒐集に飽きた

「突き抜けたコレクター」向けともいえる。

 

******

 

◆ シャーク・ケース(SHARK Cases)

 

↑ 最後から2枚目はサメケースの作者、メルビン・ラーセン。最後はマイク・マッセイ

 

 

 

サメは、狡猾さや凶暴さの象徴であり、

「プール・シャーク」と言えば、

ビリヤード場でエモノを

探し回るプレイヤーを指す。

 

「シャーキング」とは、

相手プレーの最中、

わざとキューを倒したり、

動いたりするような行動のことだ。

 

フロリダ在住の自称アーティスト、

メル・ラーセンが製作する

「シャーク・ケース」は、

ケース自体がサメの形をした逸品。

 

比較的比重の小さい松や杉などの

木材を使用しているが、

本物のサメの歯や、薄くスライスした

9ボールなどの装飾がある分、

重いしデカイ。

 

ストラップも付いているが

背負うことは出来ず、

肩にかけて小脇に抱えるしかない。

しかも1バット2シャフトしか入らない。

 

ただ非実用性とひきかえに、注目度は抜群。

このケースに無関心でいられる

プレイヤーはいないだろう。

 

メル・ラーセン自体の生業は謎。

あまり仲良くするのもどうか……? 

と思った矢先、

 

「これは将来絶対価値が上がるから、

持っておけ」と、

直筆の油絵をオレに送りつけてきた(苦笑)。

 

金を払うべきか、

シャーク・ケースを注文すべきか、

数年悩んでいるが、

いまだに答えを出せないでいる。

 

******

 

◆ アンゼローン(ANZELONE Custom CASES)

 

 

「素材はなんでも良い」

とは言ったものの

金属製のキューケースなぞ、

そうそうお目にかかれるものではない。

 

2006年、

『スーパー・ビリヤード・エキスポ』(SBE)

で展示即売していた

アンゼローン・ケースは、

筐体が全金属製。

 

デザインはペイントすれば良いので

自由自在。あらゆるオーダーに

対応可能というのが売りだった。

 

しかし、軽量化を図るため、

薄い金属板を使ったのが災いしたのか、

新品でも凹みが目立ち、

「ぶつけたらボコボコになる」

のが明らかだった。

 

まるで茶筒を巨大化して

ストラップを付けたようなもので、

明らかな企画オチの「虹色商品」。

一年限りで姿を消した。

 

製作者はもともと板金屋か何か

だったらしいのだが、とりあえず

なんでもビジネスにしようとする

バイタリティーには敬意を払わざるを得ない。

 

******

 

◆ ラーラ(Laara Design)

 

左のケースの中央に縦書きアルファベットで「SZAMBOTI」(ザンボッティ)と入れられている
左のケースの中央に縦書きアルファベットで「SZAMBOTI」(ザンボッティ)と入れられている

 

ブランド名をケースに入れるのは、

大手キューメーカーの

製品ラインナップによく見られるが、

 

少量生産のカスタムキューメーカーの

場合は特殊で、

コレクターやプレイヤー自身が、

自身が所有するキューのブランド名を

入れたケースを特注することがある。

 

細かいことを言えば、

商標権の侵害にもなるのだが、

カスタムキューメーカーは

不問にしているようだ。

 

キューを購入してくれた顧客を

訴えるわけにもいかんからな。

 

カナダのレザークラフトアーティスト、

ラーラ・デザインが製作した

ザンボッティのケースはその一例。

 

ザンボッティの名前が縦並びに入った、

重厚なデザインだ。

 

ただ、レザー彫刻のデザイン自体は、

ザンボッティのキューを

意識したというほどでもない。

 

これはSBE会場で

コレクターに納品されたものだが、

バリー・ザンボッティ自身も

評価していたので、オレも勢いで

オーダーしそうになったが止めた。

 

ザンボッティの良さと価値は、

あくまでもキューそのものに求めるべきと

信じているからだ。

 

******

 

◆ あぶく銭ケース(メーカー不詳)

 

「なぜその日本語を……!?」と興味は尽きない
「なぜその日本語を……!?」と興味は尽きない

 

外国語の文字を使うデザインは、

いわゆるエキゾチシズムも感じて、

カッコよく思えるもの。

 

ただ、その言語を日常使う

「ネイティブスピーカー」からすると、

妙な違和感を抱く単語が

使われているのもありがちな事。

 

キューケースでも

「それはちょっと……」

というものを見てきたが、

オレ的ナンバーワンはこの、

メーカー不明の逸品。

 

デザインモチーフは「三国志」風なのだが、

添えられた言葉は「あぶく銭」。

 

中華風デザインと

日本語のミスマッチにより、

キューケースという極めて西洋的な用具上で

独特のデザインを成立させている。

 

日本人としては、

ビリヤードにおいて

その言葉が持つ深い意味(笑)を

感じさせられた怪作。

 

結構な価格が付けられていたので諦めたが、

買っておけばよかったと思う(笑)。

 

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今回紹介してきたキューケースは、

素材やデザインの制約にとらわれない

自由な発想から生まれ、

同時にカスタムキューの世界を

拡張する役割を果たすもの。

 

日本刀の鍔や鞘が、

本来の機能を超えて装飾性を高めていった

歴史にも通じるものがある。

 

↑ ディーラー/メーカー/コレクターの「仕事」や「展示」に特化したケースの例。1枚目が「簀巻き」(すまき)ケース。2枚目がマクウォーターの5本キューセット用のケース

 

 

 

もちろん、キューケースには

大容量の業務用

(48バット & 96シャフト等)や、

 

イベントでのキュー展示に

適したものなども存在している。

 

多くの可能性を秘めたキューケースの

世界は、奥が深いものだな。

 

別の機会にまた調査することになりそうだ。

 

2021年も依頼を待っているぜ、BD!

 

…………

 

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