私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
2021年、再びの緊急事態宣言。
8時に閉店するビリヤード場なぞ
「スープが無くなり次第終了」の
ラーメン屋じゃあるまいし、
……などと思っていた。
だが今や、それが現実。
早めの時間帯で切り上げても、
撞けるだけ有難いと思わなければならない。
リンリンリン♪
BDからネット通話だ。
ヤツからの依頼が来るうちは、
オレもまぁ大丈夫だろう。
『K、最近は玉撞いていますか?』
まぁな。
ごく短時間しか玉屋に行けない分、
集中して撞いているぜ。
エロい想像やら色っぽい事を考えずに
撞けるようになったのは収穫だ。
『……雑念や煩悩だらけでしたからね。
まぁポジティブなのは救いですが。』
玉を撞くエネルギーがなんであろうと、
余計なお世話だ(笑)。
『そこで今回は、色っぽい件についてです。』
ふむ? 色っぽいハナシ?
うひひひ……。
『……。キューに使われる素材の色は様々。
キューメーカーは、素材やデザインを、
色の組み合わせによっても決めている。
そこには法則や約束、制約があるはず。』
なるほど。
色っぽいとはキューの色か。(少し落胆)
『はい。キューの魅力は、色にもあるはず。
それを調べてください。』
わかった、俺はキュー探偵。
その依頼、引き受けた!
******
ビリヤードキューの素材は、主として木材。
よって、キューの色は木材の色とも言える。
ビリヤードにさほど関心がないか、
数回撞いたことがある程度の
プレイヤーからすれば、
キューの色とは、店備え付けのキュー、
すなわちハウスキューの色という
認識しかないだろう。
昭和末期までは、バット後部が朱色に塗られ、
真鍮製のジョイントカラーを持つ
ハウスキューをよく見かけた。
それはオレにとってキューの原点なのだが、
今は見かけないな。
結局のところ、茶か黒といった地味な色の、
木の棒といったイメージだ。
野球のバットと似たりよったり、
というのが世間の認識だろう。
このテーマは非常に広い。
まずは「ハギ」を彩る「べニヤ」から始める。
******
キューの色が何であろうと、
撞いた玉に何の影響も及ぼさない。
色でキューの重さや太さ、
長さを区別するようなこともない。
ボーリングの球のように見た目で
選べるようになっていれば良さそうなものだが、
ハウスキューを選ぶ際は、せいぜい重さや
曲がりの有無を気にする程度だから、
必要ないのだろう。
それでは、
なぜキューに色やデザインの違いがあるのか?
最も大きな理由は、
他メーカーと差別化を図るため。
その手段となったのは、
木材同士の接合部、いわゆる「ハギ」。
「ハギ」の接合部の密着度と接着強度を
高めるため、挟み込まれた薄板を
「ベニヤ」または「種板」と呼ぶ。
この「ベニヤ」に工夫を加えることで、
結果的に「ハギ」をカラフルにしたことが、
現在の多彩なキューを生み出す源泉となったのだ。
******
20世紀半ばまで、
ビリヤード大国アメリカでも、
ブランズウィック社製の
量産キューが事実上の標準。
世界大恐慌や第二次世界大戦を機に、
凝ったデザインのキューは、
一旦絶えてしまったためだ。
同社のキューは、メイプルのバットに
チークや黒檀、紫檀、パープルハートなど
様々な銘木の「ハギ」を組み合わせた
4剣ハギが基本。
ハウスキュー「タイトリスト」でも、
上級モデル「ウィリー・ホッペ」でも、
ハギに添えられたベニヤ(種板)の配色は、
外から、
紫、
青緑(ティール)、
茶(マホガニー)、
ナチュラル、の一択。
色選択の余地はなかった。
言い方を変えれば、皆
「キューとはこんな色・デザインのもの」
と思っていた。
カスタムキューメーカーの草分け、
西海岸のジナキューやタッド、
東海岸のバラブシュカやランボーなども、
初期の作品は一様にブランズウィックの
中古キューを再利用、
あるいは「ブランク」と呼ばれる
半完成品を材料に製作されていた。
例外はハギなしのバーズアイメイプル、
日本でいうところの「ストレート」を
手掛けていたハーヴェイ・マーチンや
エディ・ローブぐらいだった。
******
プレイヤーなら、他より優れたキュー、
より見栄えの良いキューが欲しくなるもの。
やがて1960年代半ばになると、
ごく少量のキューを注文生産する
カスタムキューメーカーにとって、
特性も見栄えも
「ブランズウィックっぽさからの脱却」
がテーマとなる。
まず、4剣ハギに使われる
ベニヤの色や重ねる枚数を変えれば、
印象が全く変わることに気づいた
バーテン・スペインと、
1970年代以降、その発想を拡張し、
バリエーションを増やした
ガス・ザンボッティだ。
二人は「ブランク」を他のキューメーカーに
供給したことでも知られ、
「ハギのデザイン化」を確立した
功労者と言える。
バーテン・スペインが製作した、
【黒・オレンジ・緑・白】の組み合わせは、
バラブシュカが多用したことで認知度が上がり、
多くのメーカーが採用した。
ガス・ザンボッティは、
【黒・白・黒・白】という2色一組や、
【黒・黒・赤・赤】など、
同じ色を重ねて太く見せる
パターンなどを生み出した。
中でも、1976年、パーマー社に供給した
【黒・青・赤・白】ベニヤの「ブランク」は、
アメリカ建国200周年記念モデル製作の
ためだけに作られた限定カラーとして
コレクター垂涎の的。
名匠の作品は、
色の組み合わせだけでも価値が上がるのだ。
******
1960年代末から1970年代のキューメーカーは、
「ハギ」のオリジナリティを確立し、
かつバリエーションを増やすため
研究していたといっても過言ではない。
この背景には、
ブランズウィック社がキュー製作から撤退し、
一強独占が崩れたことがある。
いわば「剣ハギ戦国時代」への突入だ。
自社で染色したベニヤの使用を
セールスポイントにしていたメウチ、
木材だけでなく
合成樹脂の薄板も使ったヴァイキング、
「リカット」と呼ばれる
「ハギ」に「ハギ」を重ね、
ベニヤを使わない工法を
高級モデルに使用したヒューブラ―、
初代社長ディック・ヘルムステッターに
よる技術導入で、多種多様な「ハギ」を
日本で製作したアダム
(のちのアダム・ジャパン)など、
各メーカー独自の色を打ち出していた。
量産メーカーであれば、
モデルごとに違う色のベニヤを使う、
逆に同じモデルでも
違う色のベニヤを使うことで、
限りないバリエーションを生み出していた。
******
とはいえ、バット本体に使われる
木材はメイプルがほとんど。
それに組み合されるのは黒檀やローズウッド、
ココボロなどに限られていた。
バットにパープルハートやチューリップウッド、
スネークウッドやピンクアイボリー、
そして多種多様なバールウッドが
使われはじめ、キュー全体の色合いに
変化が生まれるのは1980年代以降。
木材同士を接合する「ハギ」に頼らない
キュー製作方法が広まり、
「ハギ」自体がデザインのモチーフ化してゆく。
……というところで、文字数が尽きた。
Part 2に続くぜ。
※近日公開予定の【Part 2】へ続く。
…………
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