カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)
今回は精緻で洗練された
デザインで知られる
アメリカンカスタムキューメーカー、
『Black Boar Cues』
(ブラックボア)を紹介します。
本企画では2本目のブラックボアです
(※1本目の記事はこちら )。
代表はトニー・シャネラ氏。
アメリカ・メリーランド州で
1980年代後半からキュー製作を始め、
今も本数は多くはないものの
製作を続けています。
今回紹介するモデルは、
大原氏が2015年頃に入手したものです。
…………
フォアアームのベースは
バーズアイメイプル。
そこにブラック&ホワイトの
子持ち8剣。
剣の根本には貴石と思われる
赤い材料とシルバーのインレイ。
グリップ部は革巻き。
スリーブはエボニーベースで、
短いホワイトのバットキャップを
組み合わせたブラックボア定番の仕様。
そこにドラゴンらしき意匠が
インレイで入れられていて、
目にはシルバー、舌には赤い材料、
お腹には貝も使われています。
シャフトは、
フェラルレス(先角なし)のような構造の、
純正ディフレクション低減シャフト。
大原氏・談:
「ワンオーナーの中古ブラックボアです。
懇意にしているカスタムキュー好きな
とある日本のプレイヤーが
とある所から新品で購入し、
それを私が買い取ったものです。
フォアアームに書かれている数字は
おそらく『2012』。2012年製でしょう。
このキューは一応『For Sale』ですが、
価格は『要ご相談』とさせてください。
ご存知のようにブラックボアは
アメリカでも日本でも人気があり、
この先も価値が下がることが
考えにくいメーカーです。
製作本数が少なく、特に新品は
作られてすぐに買い手に渡るため、
あまり表に出て来ません。
何年か前、『SBE』
(スーパービリヤードエキスポ。
アメリカ)の業者ブースに
新品が並んだことがありましたが、
だいぶ強気な価格設定でした。
今は日本に入って来るルート自体が少なく、
新品のハイグレードモデルを
個人で入手するには、
アメリカのディーラーなどとの
直接の繋がりがないと難しいと思います。
ブラックボアというメーカーは、
映画『ハスラー2』後の
ビリヤードブーム期にはもうありましたが
(※1988年から製作スタート)、
これほどの人気メーカーになるとは
当時の私は思っていませんでした。
その頃は代表のトニー・シャネラが
スタッフを複数人雇って、
『ショーン』のちょっと上ぐらいの
グレードのキューを作っていました。
ひょっとすると当時のブラックボア
キューをお持ちの方もいるかもしれませんね。
今はない『ロサンゼルスクラブ』
(いわゆる当時の「プールバー」を
象徴するお店)でも
取り扱っていたと記憶しています」
大原氏・談:
「少し話がそれますが、
上の画像の右奥に
2つ並んで写っているのが、
シャフト用のジョイントキャップ。
天面には、ボア(イノシシ)の頭部と
2つの『B』の字が描かれていますが、
これがブラックボアの旧ロゴです。
昔のブラックボアキューのバットには
このロゴが入っていました。
近年のブラックボアは、
スリーブのバットキャップ近くに
筆記体のような字体で
「BB」とネームが入れられています。
そして、このBの字の色でグレードが
ある程度分けられています。
【銀字のB+銀字のB】
↓
【銀字のB+金字のB】
↓
【金字のB+金字のB】
……の順にグレードが上がります。
このキューは【銀字のB+金字のB】です。
本題に戻ると……、
トニーははじめは人も使って
キュー製作をしていましたが、
ビジネスは上手く行かず、
ブラックボアは一旦行き詰まります。
その後、トニーは一人になって再起します。
自分のこだわりと美意識をストレートに
表現したキューを作るようになりました。
すると、そのキューのクオリティが高く、
デザインも完成されているということで、
高い評価を得るようになりました。
私としては、ブラックボアの
ヒッティングサウンド(打音)の
素晴らしさもお伝えしたいです。
木琴か鉄琴かというような澄んだ音がする。
そこがブラックボアの
大きな特徴の一つだと思います。
ブラックボアは、
良い材料を惜しみなく使って
きっちりタイトに設計・製作していて、
特に一時代前のキューはジョイントが
とても固く、脱着するのが大変なほどでした。
そのおかげかヒッティングサウンドの
良いキューばかりだった印象です。
トニーはフィドル(バイオリン)を
たしなむ人なので、耳が肥えていて、
『音』に造詣が深いのだろうと思います。
残念ながら、肝心のこのキューの
サウンドは……悪くはないのですが、
私の中の理想のブラックボアサウンドには
届いていません(苦笑)。
近年のブラックボアはジョイントの
結合感が標準的なものになってきているので、
それに合わせてサウンドも
変化したということなのかもしれません。
そんなブラックボア。
トニーはご高齢ですが
今も現役でキューを作っています。
ガリガリに痩せていて
見るからに孤高の職人的な風貌で、
エキスポなどに現れても、
商談をするでもなく、
一人喫煙所で葉巻をくゆらしている
ような人ですが(笑)、
彼の手から生まれるキューはやはり魅力的。
丹精込めて作っていることが伝わりますし、
デザインが洗練されているだけでなく
ブランドとしての統一感や個性があります。
これぞブラックボアという
アイデンティティを確立したところが
素晴らしいと思います」
(了)
…………
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