〈BD〉2011世界チャンピオン・赤狩山幸男が2021世界選手権で感じたこと

© Matchroom Pool 2021
© Matchroom Pool 2021

 

10年前、2011年7月

カタール・ドーハの地で

9ボール世界チャンピオンとなった

赤狩山幸男。

 

今年6月、イギリスで行われた

9ボール世界選手権』に出場。

 

赤狩山プロにとって

イギリスに行くのも、

マッチルーム主催の世界選手権に

出るのも初めてのこと。

コロナ禍での海外遠征も初めてでした。

 

結果はベスト64とふるわなかったものの、

生まれ変わった世界選手権に出て

様々なことを感じたようです。

 

その一端をBDに語ってくれました。

 

 

…………

 

 

――長旅お疲れ様でした。

 

「ありがとうございます。無事帰国できました。コロナ禍での開催ということで、行くまでも大変で、帰国してからも6日間のホテル隔離が精神的にキツかったですけど、試合自体は楽しかった。行って良かったです。応援してくださった方々に感謝しています」

 

――まず、自身の戦績については?

 

「勝ち―勝ち―負けという3試合で終わってしまったのは単純に物足りなかったですね(※グループラウンド突破→決勝シングルトーナメント初戦のベスト64で敗退)。もっと試合がしたかったです」

 

――グループラウンド(K組)では、R・エバンスとC・デュエルというアメリカの2選手に連勝。

 

「エバンス戦の初めはちょっと硬かったですけど、途中からある程度撞けていて良いショットも出ていたと思います。デュエル戦は、前半僕がほぼミスなく撞けてたんで彼の方がプレッシャー感じてくれてたのかな。テーブルコンディションにあまり合ってない感じでしたし、1~2球ミスしてくれてました。1回だけ僕が時間に追われて(※30秒のタイム制)ミスしてしまったけど、それ以外はそこそこ上手く撞けたと思います」

 

――会場にあるテーブルは合計16台。試合テーブルはどうやって決まるんですか? 

 

「グループラウンドではグループごとに1台ずつ使用テーブルが決められていました。TVテーブルに呼ばれた時以外、その1台を使ってグループの全試合を進めます」

 

――テーブルごとにコンディションは違っていましたか?

 

「と思います。少なくとも僕がグループラウンドで撞いたテーブルと、決勝トーナメントベスト64(vs F・サンチェスルイス)で撞いたテーブルは結構違ってました」

 

――そのベスト64、サンチェスルイスに7-11で破れました。

 

「彼も絶好調という感じではなくて互いにミスしていたし、ノーチャンスという訳じゃなかった。前半で僕が2回ぐらいスクラッチしたんですよね。湿度のせいかイメージ以上にクッションが速いテーブルだったので調整しながら撞いたら、出しが弱くなってしまった。それをカバーするために次の球で無理めに出しに行ったらスクラッチ……。それが悔やまれますね。ああいう苦しい展開の時にどうポイントを取るか。そこが大事です」

 

…………

 

© Matchroom Pool 2021  ↑2021年世界選手権(イギリス)
© Matchroom Pool 2021  ↑2021年世界選手権(イギリス)
↑ 2015世界選手権(カタール)。BD撮影
↑ 2015世界選手権(カタール)。BD撮影

 

――赤狩山プロがマッチルーム主催の世界選手権に出るのは今回が初めてだったようですね。2011年の優勝時を含め、過去の本戦出場は全てカタール時代だったと。

 

(1990年=9ボール世界選手権創設。

1999年~2007年=第1期マッチルーム時代。

2008年2009年=非開催。

2010年~2019年=カタール時代。←赤狩山プロは全て参戦。2011優勝

2020年=コロナで非開催。

2021年~=第2期マッチルーム時代)。

 

「はい。2004年の台湾大会(第1期マッチルーム時代)のステージ1には出たことがありますけど、その時は本戦には上がれなかったので、本戦を撞くのは今回が初めてでした。そう、2004年のステージ1は柯秉逸(2015年世界チャンピオン)に負けました。当時彼は15歳だって言ってたかな。『すごいなキミは』っていう初対面でしたね(笑)。僕にとって世界選手権と言えばやっぱりカタールというイメージ。観光地とか娯楽のある国じゃないので10年間毎年修行に行ってるような感覚でしたけど」

 

――今回初めてマッチルーム主催の世界選手権の本戦を撞いてみて、どうでしたか?

 

「いい大会でした。特にTVテーブルは照明も演出も派手でいい雰囲気でした。さすがはマッチルームという感じで、特別感があって盛り上げ方も上手いですよね。そこはカタール時代とは比較にならない(笑)。周囲の15台は普通と言えば普通でTVテーブルだけをクローズアップしている感じ。それは旧『USオープン』とか他の大きな大会でもだいたいそう。TVテーブルをしっかり盛り上げれば十分だと思います」

 

――コロナ禍でいわゆる「バブル方式」での開催。会場に入る時にPCR検査は必須で、試合はノーマスクで行いました。

 

「出国前日に日本でPCRを受けて、ミルトンキーンズのホテルにチェックインする時もPCRを受けて。陰性判定が出てからは、施設内の移動時は一応マスク着用でしたけど、練習場も試合会場もマスクなしでOKでした。会場内を見渡しても誰もマスクを着けてなかったし、すっかりコロナを忘れて試合ができたのは良かったです。今回は選手が128人で、スタッフを合わせると合計200人ぐらいいたと思うんですけど、そのぐらいの人数ならあのやり方でコントロールできるのかなと。500とか1000人規模になるとだいぶ難しくなるんでしょうけど」

 

――カタール時代とは試合フォーマットも変わっています。例えば、交互ブレイクから勝者ブレイクになりました。

 

「フォーマットについては検討を重ねる余地はまだあるんじゃないかなと思います。いちプレイヤーとして僕は交互ブレイクのままが良かったですけど、マッチルームにはマッチルームの考えがあるんでしょう。僕は今の9ボールの競技レベルを考えると勝者ブレイクは難しいと思います。たまたま今回はテーブルコンディションが結構難しくて、マスワリし続ける人をほとんど見なかったですけど、一方がひたすらマスワリし続けて、もう一方が反撃の機会(ブレイク番)すら与えられない可能性もありますよね。それは試合と言えるんだろうか、プロの興行としてどうなんだろうという考えです」

 

――ラックに関しては、同じくマッチルーム主催の2019年のUSオープンとだいたい同じだったようですね。レフェリーが紙製のラックシートでラックを立てて、プレイヤーはノーチェック、ノークレーム、ノーリラック要求という。

 

「そう、あのUSオープンと似てます。で、『強く割れ』と。スリーポイントルールはなかったけど、弱く打ってるとレフェリーに注意されてしまう。僕は言われなかったけど、吉岡プロは言われたみたいですね。それも難しいよね。『強い弱い』の基準が明示されてないのに。ブレイクとラックはプロ9ボールの永遠のテーマですよね」

 

――初お披露目のプレデターテーブルは?

 

「特設会場のテーブルは床の震動とかで本体や石板が動くこともよくあるから、あの場だけでは判断できないですけど、僕は普通に撞けましたね。ポケットは見た目ほど狭くは感じなかったです。ただ、クッションレールの幅は狭めなんで慣れが必要かな」

 

――ラシャはシモニスでした。

 

「シモニスには慣れてるはずなのに今回は難しく感じました。自分が撞いていてもそうだし、他の選手のプレーを見ていてもボールの動きに少し違和感があった。たぶんラシャの張り具合なんでしょう。ある程度出来た配置なら皆普通に取ってたけど、ちょっとややこしい配置になると爽やかに撞けてる人はほとんどいなかったですね。勝者ブレイクの割にぶっちぎりで勝つ人が多くなかった理由はそこなのかなと」

 

…………

 

↑ 赤狩山プロ撮影。ミルトンキーンズの風景
↑ 赤狩山プロ撮影。ミルトンキーンズの風景

 

 

――今回の遠征でPCR検査は何回受けましたか?

 

「6回かな。出国前に日本で1回。向こうのホテルに着いて1回。帰る前日にホテルで1回。羽田空港で1回。隔離ホテルで2回……ですね。イギリスで受けた2回は鼻と喉に綿棒みたいなものを突っ込まれました。あれはキツかった(苦笑)」

 

――ミルトンキーンズでの1週間は?

 

「とても快適に過ごせました。ホテルの部屋は広くてリラックスできたし、良い環境でした」

 

――現地での食事は?

 

「近くに大きなスーパーがあって食料を調達できたし、ホテル内のレストランも利用できたので何の問題もなかったです。日本から持っていったものも食べました」

 

――試合以外の時間は?

 

「部屋でのんびりしたり、ホテル周辺でジョギングやウォーキングをしたり。湖のある自然公園みたいな場所が近くにあって、なかなか美しい場所でした。釣りをしてる人もたくさんいたし、散歩にもってこいでしたね」

 

――帰国してすぐ6日間のホテル隔離でした。

 

「今回の遠征で一番の地獄でした(苦笑)。部屋はきれいで窓からの眺めも良かったけど、ミルトンキーンズの部屋に比べたらだいぶ狭くて気が詰まる感じでした。なにより大変だったのは食事です」

 

――毎日3食お弁当でしたね。

 

「おかずもいっぱいあってバランスの良いお弁当で、初めの2日間ぐらいは美味しくいただいてたんですけど、常におかずもご飯も冷えてるので、なんだか急に悲しい気持ちになっちゃって(苦笑)。無事にホテルから自宅に移れた時は本当に嬉しかったですね(※ホテル6日間+自宅8日間で自主隔離期間が終わる)」

 

――6/4に出発して隔離が終わったのが6/27です。

 

「23日間か……。一つの大会にかかる日程としては長いですよね。これからどんどんワクチン接種も進んで隔離のやり方とか日数も変わると思うので、これだけ長いのはもうないのかもしれないですけど」

 

――もし同じぐらい隔離の日数があるとしても、また海外に行きたいと思いますか?

 

「行きたいです。隔離は正直うんざりだけど(笑)、出場権利をいただけるなら、基本的には行くでしょうね。やっぱり世界に出て行かないと経験できないことがあるし、そもそも行かなければノーチャンス。結果は出せません。それに単純に好きなんですよ、ああいう所で撞くのが。今回、向こうで大井(直幸)プロ、吉岡プロとも話をしたけど、彼らも同じ気持ちだろうなと思います」

 

――「行けるなら行く」。そこはずっとブレないですね。

 

「やっぱり自分が何のためにビリヤードをしてるのかっていったら、ああいう最高峰の大会で撞くためなんで。いい会場・いい環境・強いメンバー。そういう場で撞く楽しさを知っちゃうと、何度でも『また来よう』って思います。身体が動く限りこの先もあの舞台に立ちたいですね」

 

(了)

 

 

Yukio Akagariyama

2011年ナインボール世界チャンピオン

ニックネームは「カーリー」

1975年3月13日生まれ

大阪府出身・東京都在住

JPBA32期生

2002年『中国オープン』優勝

2006年&2010年『全日本選手権』3位

2006年『ドーハアジア大会』日本代表

2007年『インドアゲームズ』日本代表

2009年&2012年『チャイナオープン』3位

2011年『テンボール世界選手権』3位

2011年『ナインボール世界選手権』優勝

2012年『世界チーム戦』準優勝

2016年『全日本14-1選手権』優勝

2019年『北陸オープン』優勝

2020年『GPE2020ロサ戦』優勝

他、東西の男子プロツアーでは優勝・入賞多数

グランプリイーストでは通算3勝

BAGUS所属

KAMUIタップ「スタンダードブラックS」使用

PREDATORキュー使用

 

…………

 

2021年9ボール世界選手権関連BD記事:

 

◆ 6/11:オーシャンコメント 

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◆ 5/2:日本から大井直幸・吉岡正登・赤狩山幸男、参戦

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